「貴方は……?」

 咄嗟に呼ばれた方を向くと、黒いロングコートを着た背の高い黒髪の青年が立っていた。
記憶を辿ってみるが、曖昧な記憶の中には目の前の男はいなかった。
きっと初めて会う人物だと思うのだが、それでも何故か初めてという気がしない。

「あんた、っていうんでしょ?」
「はい、そうですが……」

 ゆっくりと歩きながら近づいてくるその男は少し垂れた目尻の下に赤いラインを引き、とても妖しい雰囲気を纏っている。
なのに口調はどこか幼いので、表情によっては何だか悪戯好きな少年のようにも見えた。

「初めてギルドに行ったら、ギルド長代理っていうガキにあんたを探すように言われたんだけどさ」
「あ、パッシさんが……」

 何だか申し訳ない思いがした。
自分は皆に迷惑をかけてばかりだ。

――あんた、いい女じゃん。オレの女にならない?」
「は……?」

 男の突然の言葉にはキョトンとした顔で彼を見上げた。
ニヤリと男は笑みを浮かべる。

「いえ、今は仕事以外には興味がありませんので……」
「仕事?そういえば、あんたも傭兵なわけ?」
「はい」

 そう言うと男はの足から頭までじぃっと見ると、ふーんと声を出した。

「そんな細腕で魔物や悪いヤツと戦うの? 無理なんじゃない?」
「無理じゃありません! そりゃまだまだ未熟ですけど
――

 そんな私でもこうやって仕事していられるのは――

――大切な…………仲間が傍にいてくれるから」

 じわりじわりと胸に湧いてくる安心感。
カイトやアステムやリットン、そしてキャスカのことを想うだけで不安でいっぱいだった心が、
優しい気持ちで包まれていくような気がした。

「……だったら早く仲間とやらのトコに帰りなよ、子猫ちゃん」
「こ、子猫って
――っ」

 が言い返そうとすると、男がすっと身体を傾けて彼女の頬に軽くキスをした。

なっ……」

 突然のことに固まっていると、男は悪戯が巧くいった少年のように笑ってに背中を向ける。

「ちょっとっ!! 貴方という人は……!」

 は咄嗟に彼を呼び止める。

――何ていう名前なんですか? 新しく傭兵としてこの街に住むんでしょう?」
「それは今度会った時に教えてあげる」
「もったいぶらなくてもいいじゃないですか」

 口を尖らせてそう言うと、ククッと男は笑った。

「名前を教えない方が、逆に記憶に残ると思わない?」

 そう言って彼は少し首を傾けて微笑んだ。

――忘れたりなんて……しないでよね、
「え……?」

 呆然と立ち尽くしているを置き、男は立ち去った。
何か胸に引っかかるものを感じながらも、は首を捻る。
しかしどうやっても彼に会った記憶はないし、彼の名前も浮かんでは来ない。
 ……でも、何故だろう。

――忘れたりなんて…………しないでよね、

あの時、彼は何だか淋しそうな目で笑ってた。


「「「!」」」

 聞き慣れた声がして、顔を上げるとそこにはカイト、アステム、リットンの姿があった。
そしてパタパタとやって来て肩に乗って来たキャスカの存在に思わずホッとする。

「……勝手に出てきてしまってすみません」
「別に気にしてねぇよ」

 そう言うとカイトがニコッと笑った。
アステムやリットンも穏やかな表情をしている。
そんな彼らを見て安心したのかの目からは涙が零れ出す。

「私……最近ずっと頭痛が酷くて。
 頭がズキズキして……、そしたら今までの記憶が断片的に浮かんできては消えて……もやもやして……真っ暗になって、
 夢なのか現実なのかよく分からなくなったりするんです。 逆に頭が真っ白になることもあるし……。
 自分で自分がよく分からなくて……。自分が信じられないんです。
 
――私は本当に皆さんの知ってるなのかなって、本当に私はこの世界に実在してるのかなって……。
 今までのことは全部夢だったんじゃないかって……不安なんです。
 あの噂のような夢も昨日見ました。本当に、リアルな夢だったんです。 だから……」
……」

 そっとリットンが背中に手をあてる。
何だかとても温かくて、その部分だけでも自分は確かに存在しているのを実感できた。

――心身ともに疲労が溜まっているのかもしれない。
 ここ半年、色々あったからな。自身も大きく傷を受けた時もある。 暫く休んだ方がいいのではないか?」
「あぁ、俺もそう思うぜ。お前、何でも限界まで無理する性格だからな。 調子が戻るまで、ゆっくりしてろよ」
「なぅ……」

 アステムやカイトの言葉が優しく染み入ってくる感じがした。
キャスカの声も何だか優しく聞こえる。
 ――皆と繋がることで、心の不確かで不安な部分が埋められていく。
皆の存在が、私に力をくれる。

「皆さん、ありがとうございます」

 顔を上げて微笑むと、は目を細めた。
涙でゆらゆらと揺れて見える傾いた太陽の茜色の光が、何だかとても温かくて優しくて
――
――
胸が締め付けられる程に、美しいと思った。











久しぶりの分岐です^^;
一気にヒロインさんが鬱モードですが…………どうなるんでしょうね(;´▽`A``

さて、出会って半年ほど経つので、次第に他のキャラとは……いい感じ?になってきておりますが
今回はアヤシイ男が登場。
この男が何者なのかは、いずれ分かると思います。
やっぱりこういうキャラが好きなんだよなぁ……。
口調が好きなのだろうか。
色々考えた結果、『destin』のサルサラをもっとガキっぽくしたような口調にしてみました。
こういう口調って……女の子みたいになるので難しいです。

しかしまだまだ先は長いですのでどうぞ気長にお待ちくださいませ^^


では、読んでくださった皆様、ありがとうございました!!



吉永裕 (2007.8.2)


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