第2章  第3節

 *この話は、人によっては戦闘シーンにグロいと思われる表現があります




「バウバウバウッ!!!」
「いたぞ、あそこだ!!!」

「カーン カーン カーン」

 真夜中の郊外に特殊訓練を受けた犬の泣き声と警備隊が鳴らす鐘の音が響く。
すると雇われた傭兵たちが一斉に集まった。

「……やっと姿を捉えたぜ。 奴らを動かしている黒幕の正体は魔物か人間か、更にどこの組織に所属しているか……。
 お前、何に賭ける?」

 大きな鎌を携えた傭兵は、木の上を飛ぶようにして逃げる2匹の獣型の魔物を追いかけながら仲間に話しかけた。
話しかけられたロングライフルを背負った男も魔物の動きを眼で追いながら答える。
彼らの後ろにも続々と傭兵や警備隊が続き、砂塵で辺りが白くぼやける程だ。

「魔王軍の人型魔物ってトコだな」
「っふん、それじゃ賭けになら
――っっ!?」

「キィイィィィン!!!」

突如、金属音のような高音が彼らを襲う。

「っ何だ、閃光玉か!?」
「違う、これは
――っ」

 上を見上げると、吸血コウモリの3倍程の大きさで、更に凶暴なデビルバットがその一帯の空を覆っていた。

「くそっ超音波か!」
「あの数はヤバイぜ!?」

 既に周囲は、絶えることなく発される超音波に聴神経をやられた者たちが倒れていた。
丁度、ここは岩場に囲まれた場所だったのが災いした。
 更に超音波の効果が増しているらしく、耳にプロテクターを付けている者も眩暈を起こす程だ。
そんな戦力のダウンした人間たちに、デビルバットと先程追っていた2匹の獣型魔物が次々と襲い掛かってくる。

「罠だったっていうのか!? 手の込んだことをしやがる……っ!
 
――黒幕はやっぱり人間か人型の魔物かのどっちかってわけか……」
「ここは一旦引いた方がいい!
 動ける者は辺りの者を連れて一時退却す
――っ」

 「ザンっ!」という音が辺りに響いた。

 その傭兵が叫び終わらないうちに黒い影と光の輪がシュッと飛んできて彼の首を胴体から切り離した。
まるで人形のように飛ばされた首がテンテンと地を転がる。
 いとも簡単に1人の傭兵を死に至らしめた者は、辺りの者たちも狩るように地に次々と倒していく。
暗闇というのと動きが速いのとで敵の姿は見えず、
ただ輪のような光が高速で移動し、その光と接触した人間からは「ぎゃああ」と断末魔の叫びが聞こえた。

「っな……なんてこった……。  
――っこのぉテメェっ!!」

 その男が鎌を振り上げた瞬間、鎌を持った右手が熱く感じる。
そして地面に何かが落ちるような音がして下を見ると、鎌を握り締めたままの状態の自分の肘から先が転がっていた。

「っくそ……ここで終わりかよ」

 どぼどぼと溢れ出し地面に零れ落ちる血液。
出血性ショックで体の力が一気に抜け、地に膝を落とす。
意識が朦朧としてきたのか、血溜りが月明かりを反射してキラキラと光って見えた。
 何故だか血に映った月が綺麗だと思った。
そういえばもうずっとただ眺める為だけに月を見上げたことなんてなかった、と思いながら
地面に横たわり月を見上げながら最期の時を待つことにする。

「……どうせなら……満月を拝みたかったぜ…………あと……1日だってのに
――

 顔に影がかかった。
最後の力を振り絞り、男は瞼を大きく開く。

「…………おん……な………………?」




――あっ!!!! ……夢、か」

 は口元を押さえる。

――気持ち悪い……」

 とても恐ろしい夢だった。
嫌な夢。
誰かを殺したりする夢なんて……今まで見たことなかったのに。
妙にリアリティがあったし
――

――っまた……頭痛……」

 ゆっくりとベッドから降りると、キッチンへ向かう。
足取りがとても重く感じた。
しかしキッチンの入り口で足を止める。
 誰かいる……。
薄暗くて誰だか分からないが、バシャバシャと顔を洗っていた。

「あの……」

 は静かに声をかける。
するとビクリと背中を震わせて振り返ったのはリットンだった。

「……かい? 
――どうしたのだね、こんな時間に」

 声は落ち着いているが、どこかよそよそしく感じる。
もしかして声をかけない方が良かったのだろうか。

「あ、ちょっと悪い夢を見て……。 頭痛もするのでお水でも飲もうかと思って。 リットンさんは……?」
「私もと同じようなものさ。目覚めが悪くてね。 
――時々、こういう夜があるのだよ」
「そうなんですか」

 静かにそう言ってタオルで顔を拭くと、リットンは笑顔を向けた。
しかし何だかとても元気がないように見える。

「良かったらお茶でも入れましょうか?」
……」

 突然、グッと肩を捕まれ抱き寄せられる。
彼の濡れたシャツに触れている頬が冷たい。

「り、リットンさん……?」
――ありがとう」

 顔を見上げるをすっと放すと「おやすみ」と言い、彼は自分の部屋へと戻っていった。
一瞬、彼が泣いているかと思った。そんな声だった。

――何か悩みごとでもあるのかな、リットンさん…………」

 知らないことだらけだと思った。
こんなに一緒にいるのに。
リットンをはじめ、カイトやアステムのことも何も知らない。
皆が話さないし、無闇に色々詮索するのは良くないと思ったけど……。
でも皆の時折見せる苦しい顔を、自分はただ見てることしかできないなんて
――

――そんなの、辛過ぎます」

 バシャバシャとも顔を洗う。
それでも右側頭部のズキンズキンという疼きは治まらなかった。











あぁあぁ……段々グロくなってしまいすみません^^;
どうしても……missingは戦いがメインなんで……こういう場面も出てきちゃいます。
苦手な方には本当に申し訳ないと……思ってます(反省……)

今までmissingは和気藹々とした話だったんですが、
これからはかなりシリアスになると思います^^;

それでも読んでくださる方は、これからも宜しくお願い致しますm(_ _)m

では、ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました!



吉永裕 (2007.7.18)


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