第2章  第1節




 「うわぁ、見てください! くっきりと空に月が……」

 窓際に座っていたは、同じくリビングで食後の1杯を飲んでいる皆を呼んだ。

「……今日は昼間も晴れてたしな」

 カイトは窓辺にゆっくりと歩いて行くと、少し体を屈めて窓の外を見上げる。
そんな彼とリットンの間に座っているアステムは目を閉じて静かに口を開いた。

「空気も澄んでいるから尚更はっきりと見えるんだろう」
「この分だと満月も綺麗に見えそうですね。2、3日後かな?」
「恐らく……ね
――

 すっと静かに席を立つと、リットンはの前に焼き菓子を差し出す。

「丁度、そのくらいでが私たちの仲間になって半年が経つのではないかな?」

 その言葉を聞くとの頬はパァッと薔薇色に染まる。

「ホントだ! わぁ、もうそんなに経つんですね……!!」

 嬉しそうに手を胸の前で組む
ざっと今までのことが頭の中を通り過ぎて行く。

「……私、皆さんとお仕事できてよかった」
「おいおい、これで終わりみたいな言い方するなよ」
「あは、そうですね。じゃあささやかなパーティーでも開きましょうか! “半年間よく頑張りました会!”」
「何だ、その名前!」

 そんなやりとりをして皆で笑う。
仕事の時の頼ったり頼られたりの関係も好きだけれど、こういう家族のような関係も居心地が良くて好きだ。
 ――それでもやっぱり仕事で強く結びついてる関係だから、
半年くらいではそんなに深く相手のことを知っているわけではないのだけれど。

 カイトは家族の話をしたがらないし、アステムはあまり自分のことを話さない。
リットンは時々ふらっといなくなってしまうことがある。
その理由を皆、誰も相手に聞こうとしない。
 もしかしたら今までの付き合いの中で既に知っているのかもしれないけれど、
恐らく相手を気遣って相手のいない所で他人に教えるような人たちではないから。
それが少し寂しい気もするけど、でも少しずつでも皆のことを知っていけたら、と思う。
そうしたら心から「仲間になった」という気持ちになれる気がして。

 ……やっぱり私は守られることが多い立場だから。
どこか引け目を感じてしまう。
彼らは全然そんなこと気にもしてないだろうけれど。

 そんなことを考えていると、窓の外からパタパタと羽音を立ててキャスカが部屋に入ってきた。
そうしての膝の上で丸くなる。

「キャスカって……いつもどこに行ってるの?」

喉を撫でながらはキャスカの顔を覗き込むが、ジーっと目が合った後、

「うな」

 と、一言発すとまた目を閉じてゴロゴロ喉を鳴らすだけ。
まぁ、キャスカも多分魔物だし……私たちとは生活リズムとか違うのかもしれないな――そんなことを思いながら、はぐぅっと伸びをした。

「……もうすぐ、半年かぁ」



 
――次の日。
カイトたちがギルドへ向かう途中、町の人たちがざわついていたので話を聞いてみると、
どうやら朝、町の入り口の門付近に傭兵2人の遺体が横たわっていたという。
何やら怪しい話だったのでカイトたちも行ってみることにした。
 すると、門周辺には沢山の人が集まっている。
傭兵から町人、子どもから老人まで、ざわざわ音と声を立てながら門を取り巻いていた。

「……何だ、事件か??それとも魔物の仕業か?」
「物騒ですね」

 辺りを見回すと、人の隙間から警備隊が遺体が横たわっていたであろう箇所を入念に調べているのが見える。
すると隣の男たちが話している内容が聞こえてきた。

「魔王軍の仕業じゃないのか?」
「あぁ。だって見ろよ、獣型の魔物と人型の魔物の足跡が沢山あるぜ」

 カイトたちはほぼ同時に地面に目を向ける。
すると獣型の魔物の足跡が2種類と、人型の魔物かどうかはわからないが人の足跡が1種類、辺りに残されていた。

「……こりゃ、討伐隊が結成されるんじゃないか?」
「あぁ、庸兵団の本拠地に乗り込んできたようなもんだ。 ギルド長も黙ってねぇだろう」

 魔物に襲われた時のような不安と恐怖がジワジワと心に湧き上がってくるのをは感じた。
今まで何となくは感じていた。
庸兵団と魔王軍と帝国軍の不穏な関係を。
力のバランスが取れていた時は均衡を保てていたのだろうが、
どれか1つでも力が弱まったり強まったりすれば……そのバランスは一気に崩れる。
 ――これが、戦争への恐怖……?
鈍くドクンドクンと心臓が脈打つのを感じる。
傭兵の仕事は、あくまでも仕事だから。
人殺しとか強奪とか、そんな非人道的な依頼すらない。
事実かどうかはわからないが、時々、裏ギルドという所ではそういうのも高額で取扱ってるらしい、とは聞いたことがあるけれど
しかし、戦争は…………。
失うことばかりで、何も得るものなんて………………ないのに!
人を沢山殺して手に入れた国や力になんて、決して幸せは訪れない。
なのに
――

『ズキン』

 突如、右のこめかみ辺りに鈍い痛みを感じ、は咄嗟にグッと目の前にいたカイトの袖口を掴んだ。

「……心配するなって。すぐに犯人も捕まる」

 そう言ってカイトは穏やかに笑って彼女の肩にポンと手を置く。

「……そうだと、いいな」

 彼の笑顔に少しホッとしながらも、は頭痛と共にじわりじわりと胸に不安が広がっていくような気がしていた。

















何やら第2章に入り、いきなり不穏な雰囲気ですが……
久しぶりに長めの文を書けました^^;
それにしても……色々書きたい話が今後まだまだあるので…………どう繋げて行こうか迷ってます(;´▽`A``

伏線とか……私頭が悪いから張れない(TT)

なので順々に物事が進んでいくと思いますので
ゆっくりと皆様お待ちになってくださいましぃ〜m(_ _)m


それでは、ここまで読んでくださった皆様ありがとうございました!
是非是非今後もmissingを宜しくお願い致します♪




吉永裕 (2007.5.9)


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