目の前にいたカイトは、「あー」とか「うー」とか言いながら両手をポケットに突っ込んで立ち尽くしている。
「あの、どうかしました?」
「いや、その……ゆっくり寝ろとか言ったくせに来て悪かったな」
「いいえ、全然構いませんよ。心配してくれたんですか?」
「あぁ、まぁな」
「ありがとうございます。――あ、良かったら中にどうぞ」
「おう、じゃあ少し邪魔する」
彼のその言葉には心からにっこりと微笑んだ。
今、心の一番の支えはカイトかもしれないと、彼の少し照れた顔を見てひっそりと思う。
大切な仲間、尊敬する先輩傭兵、そして誰よりも傍にいて欲しい人――そんなことを考えているとカイトと目が合い、思わず俯いた。
そんな彼女の頭に彼は手を乗せる。
「まだ痛むか?」
「あ、いえ、今はなんとも……」
「――あ、悪い」
少し頬を赤らめて顔を逸らした彼女を見て、咄嗟にカイトは彼女から離れた。
今まで何気なくされていたことに戸惑いを覚えるとともに、明らかに彼を男性として意識している自分に気づく。
自分が催眠のようなものでカイトを殺そうとしていたなんて――そう知った時の恐怖といったら、強い魔物と戦う時とは比べ物にならない。
皆を守る為に強くなろうと思ったのに、誰よりも信頼し、敬愛している人を自分が危険にさらしてしまった。
それでも彼はこの頭の中にある機械を取り除く為に、更に危険を冒そうとしている。
自分なんかと出会っていなければこんなことには巻き込まれていなかっただろうに、という申し訳ない気持ちになる中、
そんな感情を覆うように、彼の優しさに対する感謝と愛しさがじわじわと心に広がっていく。
「――あ、そうだ。これ、お守り代わりにでもと思って」
思い出したようにそう言うと、彼はポケットの中から丸いロケットのついたペンダントを取り出した。
「わぁ、ありがとうございます!」
喜んでそれを手に取ると、カイトも嬉しそうに笑った。
「中に何を入れようかなぁ。皆さんの写真はないですしね……」
独り言のように言いながらロケットを開くと、中には小さな四葉のクローバーの押し花が入っていた。
「あの、カイトさん、これ……」
「あぁ、この前見つけたんだ。小さいから本に挟んだまま、すっかり忘れてたんだけどよ。
久しぶりに本読んだら見つけてな。丁度いい大きさだったし、これもプレゼントっつーことで」
「ありがとうございます! でも、カイトさんの幸せが逃げちゃいません?」
そんな冗談っぽく言ったつもりの言葉で彼はフッと表情を曇らせた。
「カイト……さん?」
失礼なことを言ってしまったのだろうかと思い、は心配そうに彼の顔を見上げる。
すると彼は首を横に振った。
「今までお前やあいつらと一緒にいる時間が充実しすぎて忘れかけてた。――いや、忘れたかったんだな。
……それでも、俺は……幸せにはなれない。なっちゃいけねぇ」
「どうしてですか?」
そう尋ねると、彼は悲しそうな表情で再び首を振った。
こんな表情を今まで何度も見たことがある。彼が夢で魘されて起きた日などは特に。
普段、明るい彼にも何か心に抱えるものがあるのだろうと感じながらも、いつも聞けずにいた。
こういうことは無闇に他人が聞いていいことではないのだ。
そんなことを思いながら、これ以上は何を言っても彼を苦しめるだけだとは悟り、話を変えた。
「カイトさん、髪の毛を一本貰ってもいいですか?」
「――ん? あぁ、いいけど」
カイトはそう言って髪の毛を一本抜くと手渡す。
するとも髪の毛を抜き、その長い自分の髪の毛と赤くて短いカイトの髪の毛をきつく結びつけ、
持っていたナイフで髪の毛の結び目から数oのところをカットし、ロケットの中に入れた。
「カイトさんがすぐ近くにいなくても、これがあればいつも傍にいる気がして心強いかなって」
「……」
穏やかに微笑む彼女を見て、カイトは泣きそうな顔で笑ってみせた。
「俺もお前の髪の毛、貰っていいか?」
「はい」
そうして彼女が髪の毛を手渡すと、先程がしたように髪の毛を結んで小さくカットした後、彼のロケットに入れる。
「このくらいの幸せだったら、望んでもいいよな……」
「え?」
苦しそうな表情で小さく呟いた彼の言葉を聞き返すが、彼はいつもの調子を取り戻して笑顔を向けた。
「、マイクロチップは俺が絶対なんとかしてやるからな」
「はい。私、カイトさんを信じてますよ」
はペンダントをつけてにこりと笑う。
そんな彼女にカイトも力強く頷いた。
〜missing 第2章 終〜
(当たり前ですが、第3章へと続きます^^;)
第1章が終わってから1年と少し経ってやっと第2章終了です…^^;
今回も終わりらしくない終わりです。
丁度1章と同じく14節で終わりました。全然計算してなかったんですけど何かこういうピッタリなのって嬉しいです。
A型だからでしょうか(;´▽`A``
まぁ、長くなるから分けただけで話はずっと続きます。
タイトルをつけるとすれば、
第1章 はじまり
第2章 疑惑
第3章 ヒトの脆さ、ヒトの強さ
第4章 終幕、そして未来へ
こんな感じっすね…。
さて、今回のカイトルートは迷ったんです^^;
本当は今回でカイトのイベントを全部終わらせようと思ったのですが、
アステムと一緒に一番最後まで引っ張ることにしました。
そのくらいカイトの「幸せになってはいけない」と言う原因は重いものだと思ったからです。
まだ言えないですけんども^^;
第3章はこのすぐ後の出来事から始まります。
また第1章のようにどこかへ出かけることが多くなると思います。
内容が単調にならないように、所々で設定を出しつつ、第4章に向けて走り続けたいと思います!
まだまだ続きますが、今後もmissingを宜しくお願いいたします☆
吉永裕 (2008.9.7)
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