目の前にいたアステムは、いつもの落ち着いた表情で「少しいいか?」と言った。

「はい。中にどうぞ」
「失礼する」

 そうして彼女が椅子を用意すると、彼はこちらを見てから腰掛けた。

「どうかしましたか?」
「いや……、少し様子が気になっただけだ。疲れているのに時間をとらせてすまない」
「いいえっ、全然構わないですよ! 心配してくださってありがとうございます」

 彼の言葉での心にじんわりと温かい感情が広がっていく。
笑顔で喜ぶ彼女を見て、アステムも穏やかな表情を浮かべた。

「あの……」
「何だ?」
「昼間はすみません。何も覚えていないんですけど…でも、あの跡地を見たら……凄いことになってて。
 私、皆さんに向かってあんな恐ろしい魔法を使ったなんて……」
「気にするな。お前の意思とあの行動は関係ない。寧ろお前は被害者だ」
「でも――っ」

 突如、彼の手が視界に入る。
そしてその手はこちらに伸びて、そっと髪を撫でた。

「もうあんなことは起こさせない。は守る。頭の中の機械も取り除く」
「アステムさん……」

 髪からするりと離れた手はグッと拳を握っていた。
そんな彼の表情は今までに無く険しい。
固く決意したからなのか、エウリードを憎んでいるのか、それとも自分の境遇に誰かを重ねて尚更強く思ったのかは分からないが、
それでも彼の短い誓いのような言葉がに力を与えた。
 いつもさりげなく傍にいて手を差し伸べてくれる彼の存在に、自分は絶対の信頼と安心を抱いている。
しかし彼のこのような表情を見るのはつらい。その理由を聞けないからだ。
そういえば、以前――帝国軍へのレジスタンスとして戦いに参加した話をしてくれた時も今のような思い詰めた表情をしていたな、と思った。

「アステムさん、あの……、私も頑張りますし皆さんもいますから、そんなに思い詰めないでください」
。――反対に気遣わせてしまったな、すまない」
「いえ。でも、アステムさんがこんなに意思や感情を露にするのは珍しいと思って」
「そうか。……そうだな」

 アステムは目を伏せて静かに呟いた。
しかし顔を上げてジッとこちらを見つめる。

「俺はレジスタンスに参加した時に一度死んだようなものだった。
 だが、カイトやリットン、そして――お前に出会ってから俺は再び生きる意味を見つけ出せた。
 状況を知った今、お前の平穏な日常を取り戻すことが俺の生きる意味、そのものだ。 ……俺の勝手な我侭を許して欲しい」
「我侭だなんて……私、嬉しいです。私もアステムさんにいっぱい力を貰って励まされて生きてるんですよ」
……、ありがとう」

 彼女の言葉を聞いたアステムは一瞬、呆然としていたが優しげな眼差しで頷いた。
そんな彼を見て、これからはいっぱい笑ってもらおうと思う。
その為にも早くエウリードという人の施設に行かなければ――彼女の心にもう迷いはなかった。












〜missing  第2章 終〜



(当たり前ですが、第3章へと続きます^^;)

第1章が終わってから1年と少し経ってやっと第2章終了です…^^;
今回も終わりらしくない終わりです。
丁度1章と同じく14節で終わりました。全然計算してなかったんですけど何かこういうピッタリなのって嬉しいです。
A型だからでしょうか(;´▽`A``
まぁ、長くなるから分けただけで話はずっと続きます。
タイトルをつけるとすれば、

第1章 はじまり
第2章 疑惑
第3章 ヒトの脆さ、ヒトの強さ
第4章 終幕、そして未来へ

こんな感じっすね…。


さて、今回のアステムルートは短いですね^^;
アステムイベントは第3章の最後の予定なので、まだまだぎこちない関係ですが
少しずつ近づいております。

第3章はこのすぐ後の出来事から始まります。
また第1章のようにどこかへ出かけることが多くなると思います。
内容が単調にならないように、所々で設定を出しつつ、第4章に向けて走り続けたいと思います!

まだまだ続きますが、今後もmissingを宜しくお願いいたします☆


吉永裕 (2008.9.7)


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