第2章 第12節
少し歩くと目的の施設が大きくなってきた。しかし、中は薄暗く静かである。
「一体何の施設なんだ?」
「表向きは魔硝石の原石集積所」
レディネスという男は用心もせずに魔法によって封印されていた扉を開けた。
「お、おいっ!」
「気にしなくていいよ、もう片付けちゃってるから」
そう言うと施設の隅の方に2、3人の人型魔物が倒れている。
「それで、表向きの用途も問題があるが、真実はどうなんだ」
「魔物の洗脳施設、かな」
質問を投げかけるアステムに背を向けたまま、レディネスは奥の部屋へ移動する。
そこには数台の寝台とよく分からない機械が置かれていた。
その寝台にそっとを乗せる。
「魔物の洗脳とはどういうことだ?」
「……そのままの意味だけど。獣型魔物からちょっと知能の低い人型魔物を集めてこの機械で超音波と魔法を使って洗脳してるんだよ。
で、そいつらを傭兵団領や帝国軍領にばら撒いて、積極的に街や人を襲わせる」
「おいっ、それって――!!」
「最近、魔物が増えたのはそれが原因なのかい?」
思わず、ダン、とカイトは壁を殴りつけた。
リットンも驚きを隠せない。
そんな彼らにチッチッチッと舌打ちをするレディネス。
「ほらね、思う壺」
「……ということは、これは魔王の指示ではないのだな」
「そういうこと。――全部1人の男が仕組んだことなんだけどね。それにこの島の全勢力がまんまと乗せられてるから問題なんだよ」
アステムの言葉に眉を上げると、彼は今までの眠たそうでだらしなかった顔をしゅっと引き締めて口を開く。
「そいつは世界を混沌とさせたいが為に、まずこの島を混乱させることにしたんだろうね。
そこで魔王軍を徹底的に悪者に仕立て上げる為にワザと魔物を増やしたり凶暴化させたり――あ、傭兵たちが少しずつ減っているのもそいつの仕業。
さっきのみたいに、新人傭兵が突然仲間を襲うように催眠をかけたり、洗脳してるんだな。
その新人傭兵っていうのも精密にいうと人間じゃないんだけど。
しかも時々、殺した傭兵を魔物のせいにする為にこっそり魔王軍領に捨てていくこともあるし。……ホント、迷惑してるんだよね。
どうやらまずは傭兵団を帝国軍側につけることで均衡を崩したかったらしい。
そんなあれこれを全部魔物の仕業に見せかけて、魔王軍が戦争を仕掛けつつあるという危機感を煽らせ、帝国軍を戦争へと向かわせる。
一方、濡れ衣を着せられていることを理由に魔王軍は宣戦布告し、そいつの思惑通りティン島は戦場になる、という筋書きってなわけ」
「そんな大きなことを個人が行えるものなのか?」
「実際にやっちゃってるからどうしようもないでしょ」
深刻な表情を浮かべるアステムにレディネスは肩をすくめた。
カイトとリットンも信じられないというような顔をしている。
「まぁ、今はそいつが作ったアンドロイドや機械化した人間を実行役にしてるから、以前よりも計画の進行は早まってるね」
「じゃあ……もしかしては機械化されていると?」
「いや、こいつの場合はちょっと特殊なんだよね。は普通の人間だよ。
――だが、マイクロチップを右耳の上ら辺に埋め込まれてる。そこから催眠波が出て、催眠状態にさせられてるわけ。
時々、頭痛起こしてたじゃん? 操作してるのが例の黒幕ってなわけで、あれはそいつの仕業みたい。
ずっとは直接脳に“仲間を殺せ”っていう命令を受けてたってこと。
更に面倒なことに魔王軍領に近づくと催眠波が強まるらしくて。で、この有様」
の傍らに腰掛けて、レディネスは彼女の髪の毛をそっと梳いた。
彼女はまだ目覚めない。
「そんな恐ろしいことをしているのはどんな奴なんだ? お前、知ってるんだろ?」
カイトがレディネスに詰め寄ると彼は窓の外に目線を向ける。
「そいつの名前はエウリード。魔硝石と機械化によって生きている魔獣のような機械人間だよ」
「エウリードだって……?」
その名前にカイト、アステム、リットンの3人は固まった。
「もしかして、そいつ……」
「いや、同じ名前の人間かもしれない」
「レディネス、そのエウリードとやらの詳しい情報はないのかい? どうして機械人間になったとか、過去とか年齢とか」
「そうだな……」
そう言い、レディネスはコートの内ポケットに手を入れる。
「部下からの報告書はこれ。あまり詳しくないけど」
四つ折にされた紙を取り出し、彼はリットンに手渡す。
「――君が話したこととこの報告書の内容が真実なら、一刻も早くギルド長にも伝えた方がいい。パッシにも……」
リットンの表情はとても厳しい。
その様子にカイトとアステムも俯いた。
――エウリード
帝国軍所属の研究員。
魔硝石の研究中に爆発事故に遭い行方不明となり、死亡と認定される。
しかし実は魔硝石の魔力により命を繋ぎ止め、自ら機械化して生命を維持することに成功。
帝国軍領の地下に施設を作り、研究を続けてティン島の動乱を広げている。
彼の存在を帝国軍は知らない。
リットンから渡された紙を見てカイトは呆然と立ち尽くす。
アステムも俯いたままだ。
「やはりパッシの兄か……」
「――あいつが、そんな……。平和の為に魔硝石を良い力として使えるように研究していた奴が、どうして……」
「カイトは兄のように慕っていたんだったな……」
「――そうか。あのガキの兄貴があいつか」
キャスカとしてパッシと接していたレディネスも心中は複雑のようだ。
しかし全員、顔を上げる。
いつまでも絶望しているわけにはいかないのだ。
「――では、お前はエウリードの暴走を止める為にやってきたのか?」
「いや、違うよ」
アステムの問いかけにあっさりとレディネスは答える。
「この島がどうなろうと特に興味はないね。オレが救いたいのはこいつだけさ。
はオレの全て。オレの人生を色付けてくれた存在だから」
そう言って彼はを見つめた。
「――こいつの頭の中の機械は、魔王軍の施設じゃ取り除けない。
いけ好かないけど、あいつの城に行ってそこで外科手術しないとダメなんだってさ。
いつまでもの人生と命をあいつに握られてるのも苛立つし、このまま異物を頭の中に入れておくのも危険だからね」
「まぁ、そりゃそうだ」
彼の言葉にカイトとリットンは頷き、やる気のない調子に戻ったレディネスは腰掛けていた寝台に片膝を立てるようにして座る。
「大体、元々オレはつながりでエウリードを知ったんだ。オレにこの島を守る義理なんてないね。
それにオレが直接動くと、後々厄介なのさ。結局奴の思い通りに事が運んじゃうことになるから。ね、アステム」
「確かにそれは言えているが、もう少しこの島に関心を持て。――それよりも何故を?」
「……というよりも、の魂を探してただけ。大昔にまた会おうって約束したから」
「そうか、は……。
――そうなると先程の魔法の威力が強いのも頷ける」
「そう。……残念ながら、その強い魔力が原因でエウリードに目をつけられちゃったんだけどさ。
一番利用されたくない人間だよ。オレ個人の意見じゃなく、この世界全体から見てもね。
幸い、エウリードはの前世よりもそこら辺の人間を改造する方が好きだったおかげで彼女のことは詳しく調べてない。
知っていたら今頃はもうここは戦場になっていただろうね。いや、既に焼き野原かも」
そんな彼らの話にカイトとリットンはキョトンとしていたが、が非常に強い魔力を持っていることは理解できた。
そしてそれは前世からの影響に因ることも。
「まぁ、とりあえず目的地はエウリードのいる施設だし、を助けるついでにぶっ飛ばしてやろうかと思ってるけどね。
――あいつはオレの大事なものを利用し、傷つけた。だけでなく魔王軍の平穏と誇りを汚した罪は大きい」
ぎゅうっと血管が浮き出るほどにレディネスは拳を硬く握る。
そんな彼にカイトたちは少し表情を明るくする。
「じゃあ、そのぶっ飛ばし要員に俺も混ぜろよ」
「私も一緒に行くぞ!」
「……俺もだ」
「何だ、正義の勇者気取りか?」
やる気に満ちた3人にレディネスはニヤッとして皮肉を言ってみせた。
そんな彼にカイトは首を振る。
「……あの時のは精一杯、抵抗してた。苦しそうな顔、してたぜ」
「あぁ。私たちが雷魔法の直撃を免れたのも、が軌道をずらしてくれたからだ。
彼女は催眠に負けないくらい強く、私たちを想ってくれていた」
「――は大切な仲間だ。必ず救い出す」
各自の顔を見合わせて彼らはうん、と頷く。
「ふん、目的が同じ者が集うのが道理……か。
――団体行動するなんて癪だけど、オレの力を貸してやる。役立てなよ」
男たちが拳を突き出して決意を固めた頃、寝ていたは漸く目を覚ました。
ああああああ、台詞多っ!! なんだこの駄文は……orz
そう思いつつも、他の言葉が思いつきませんでした。
本当に…脚本よりも説明少ない……反省。
どうも説明する場面になると、台詞が多くなってしまいます。
修行が足りません。いえ、修行してませんでした。重ね重ねすみません。
さて、漸くこのmissingの設定をお披露目できたわけで。
…分かりにくいかもしれませんが、こんな裏事情があったわけです。
ヒロインのことも少しずつ出てきます。ただ…レディネスのイベントを読んだ方のみ知る、な気もしますが。
そのレディネス様のこともまた今後分かると思います。
様つけて呼んでるだけでもピンとくる方もいらっしゃるかもしれませんが残念ながら“魔王”ではありません。
期待されて後でがっかりされても申し訳ないので、先にこれだけは言っておきます。
というわけで、ようやくRPGっぽくなってきたでしょう! この作品はRPGゲームのイメージなのです。
さぁここまできたら、あと少しで2章は終わりそうです☆
でもまだまだ続くんですよ…。残念ながら。
丁度、この話が折り返しくらいのイメージです(;´▽`A``
というわけでまだ続きますが、
読んでくださった皆様、ありがとうございました♪
吉永裕 (2008.7.30)
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