第2章 第10節
マラダイという街の西口にある関所の鉄でできた重厚な扉を役人が開く。
特に魔王軍領と傭兵団との境界に外壁などがあるわけではなく、街の周りは野原が広がる為、
領土を越えようと思えば誰にでも越えられるが、理由もなく進入もしくは宣戦布告もせずに侵入しないということが
町や村の一般人である住人から傭兵、更には帝国軍の兵隊にも暗黙の了解なのである。
ただし傭兵の仕事を請け負う場合は関所でサインと通行手形代わりのペンダントを貰い、身に着けねばならず必ずマラダイを経由することになるのだった。
更に、それらを持たないものは不法侵入者として魔王軍側に裁判・処置権が認められ、捕まれば命の保障はない。
また捕まる以前に危害を与えられたり殺されたりしても、相手の管轄内では文句の一つも言えないのだ。
今回は魔王軍領に正式な許可は得ていないが、もし魔物に捕まったとしてもサインとペンダント所持によりギルドへ連絡が行き、そこで話し合いが行われることになっている。
「……それでも、そんなことにならないようにするつもりだがな」
カイトが関所の説明をしながらペンダントを首から下げて服の中に入れる。
「そうそう今回は極秘任務だから、表向きは水質調査ってことにしろってパッシに言われてるから忘れるなよ」
「はい」
は立ち止まり関所を振り返る。
ここに戻ってくるのは数日後か1週間後か――とにかく無事に戻ってくることを祈ろう。
そう思って前を向いた。
またいつ頭痛と不安に襲われるかもしれないという恐れもあったが今は仕事に集中しよう、と思う。
そんな彼女の肩にバッグから抜け出したキャスカがふわりと乗った。
「……キャスカの故郷もこっち側にあるの?」
「うなん?」
首を傾げるキャスカには笑いかけた。
「どうだろう、魔王が住むといわれる大陸の方じゃないかな。ティン島よりも自然が多いし、獣型魔物も多いと言われているよ」
「へぇ……話には聞いていますけど、魔物だけの大陸もあるんですね」
リットンの言葉に頷き、アステムの顔を見上げる。
「ああ。獣型が多い分、ここよりも治安は悪いが同じように生活している」
「……魔物同士でも争いってあるんですか?」
「そうだな。獣型は知能が低く本能に忠実だから、大陸はこの島より被害が多いだろう」
「そうですか。そうですよね、人だって同じ種族で争うこともあるんだもの……。魔物だから、人間だから、とか関係ない」
その瞬間、の頭に一筋の光が流れる。
「――それでも私は信じます。人を、この世界に生きる者たちを……」
「――なう!」
キャスカの声にハッとする。
今、自分は何を口走ったのだろうか。
意識していなかったのにもかかわらず、何故あのようなことを言ってしまったのだろう。
しかし、昔、誰かに同じようなことを言ったことがあるような気がする。
いつだろう、子どもの時か……いや、それよりももっと遠く昔の――
「うーな?」
心配するような声でキャスカが鳴いた。
そんなキャスカの背中をそっと撫でる。
「キャスカみたいに、分かり合えたらいいのにね。……人も、魔物も」
「……ホント、そうなるといいのにな」
たちを見ながらカイトも静かに呟いた。
相変わらずご無沙汰してます^^;
今回もあまり進みませんでした。
が。
他の作品も完結させていっておりますし、missingメインになる日は近いと思いますので、
どうぞ今後もよろしくお願いいたします。
ここまで読んでくださってありがとうございました(=´∇`=)
吉永裕 (2008.6.20)
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