「具合はどうだ?」

 アステムのシルエットが見えた。

「……まだ……動けません」

 喉がカラカラなのと、倦怠感で声が出ない。
するとアステムがテントの中に入ってきての傍に座る。

「……まだ毒が抜けてないようだな」
「毒……?あぁ、それで……」

 それでこんなに休んでも身体がだるさがとれないのかとは納得する。

「……でも気づかなかった。いつ毒にやられたんだろ」

 薄っすらと倒れる前のことを思い出してみる。
しかし、毒を持つ魔物になんて出会っていない筈だ。

「カイトが誤って毒キノコを昨日の夕食に混ぜたらしい」
「え?……あぁ、じゃああのシチューのキノコが」

 成程、それで食後から何だか気分が悪かったのか、と呆然とした頭では目を瞑った。

「一応、薬を持って来たが……」
「あ、ありがとうございます」

 そう言って起き上がろうとするが、身体に力が入らなかったので起き上がるのを断念する。
するとアステムが彼女の脇を抱えて上半身を起こしてくれた。

「飲めるか?」
「はい」

 そう言って毒消しの薬草を煎じた粉と水を渡すと、アステムは肩を抱いて彼女の身体を支える。
普段こんなにも彼の傍に寄ることがないは驚きながらもゴクゴクと薬を飲んだ。

「……ふぅ」

 薬は苦いが気分的に楽になった気がする。それに喉も潤った。
の顔に少しずつ生気が戻ってくる。

「毒消しと共に回復薬も混ぜておいた。恐らく明日の朝には熱が下がるだろう」
「アステムさんが調合してくれたんですか?」
「あぁ」
「ありがとうございます」

 は嬉しくなって微笑んだ。
その顔を見てホッとしたのか、アステムの表情も穏やかなものになる。
そうしてまた彼女を横たわらせる。

「そういえば、アステムさんはどうやってカイトさんと出会ったんですか?」

 隣で膝を立てて座っているアステムの顔を見上げながらは問いかける。

「やっぱりギルドで?」
「……いや、最初は敵同士だった」

 アステムは呟くようにそう応える。

「……私が聞いても、いいことですか?」

 アステムは暫し無言を貫いた後、そっと洋服の中にしまっておいた紫の天然石のペンダントを取り出す。

「俺は数年前、魔物側についていた。帝国の機械化政策に反対してな」

 はサンティアカでの夜、アステムと話したことを薄っすらと思い出す。

「そして傭兵団の中で、帝国軍へのレジスタンスが生まれた。俺もその中の一人だった」

 ランプの光がゆらゆらと揺れて、テントに映ったアステムの影も揺らいでいる。
辺りはとても静かだった。

「それを鎮める為に帝国軍が傭兵団に討伐依頼を出し、それに参加していたのがカイトだ」

 あの時カイトは15歳だったな……とアステムは静かに呟く。

「俺たちは帝国の魔力を吸い取るというよくわからない機械にやられて壊滅状態だった。
 
――俺も、もう死んでもいいと思った。実際、カイトに殺せと言ったしな」
「……アステムさん」

 アステムは当時のことを思い出していた。


 辺り一面焼け焦げた大地。 機械と生物の焼ける臭い。
最初は大義を抱いて戦っていた両陣営も、最終的にはただ自分が生きる為に傷つけ合っていた。
 そこに現れたのが小さな赤い髪の少年。
まだまだ腕は未熟ながらも、その瞳には何か大きな悲しみと強さを秘めており、生命力に溢れているのが見て取れた。
「こいつになら殺されても悪くない。それに……もう俺は疲れた。何もかもに」
――地面に倒れたままのアステムはそう思った。
そしてその少年に殺せと言った。
しかしその少年は首を振り、アステムを起き上がらせると肩を貸した。

「もう、いいだろ。充分戦ったじゃねーか」

 そう言うとその少年はサンティアカまでアステムを連れ帰った。
――その後、アステムは忌み嫌っていた人間側につくことに決める。
人間側につくというよりも、もっと人間を理解したいと思うようになった。
カイト、そしてその後に出会ったリットンと接するうちに、人間に対する認識や感情が変わったのだ。


「その時、このペンダントを捨てるつもりだった。 
 完全に中立の立場になる為に生まれ変わる気持ちでいたし、これは俺がエルフの村の一員であるという証。
 いつ魔物側に戻るかわからない、という証だからな。 
――だが、カイトはそれを止めた」

『それがあればいつでも家に帰れるんだろ?家の鍵は持っとくもんだぜ?』

 そう言ってアステムは口を閉ざした。
はそっと彼の腕に手を伸ばす。

「大切にしなきゃですね、そのペンダント」

 そう言ってニコリと笑いかけた。

「……そうだな」

 アステムも優しく笑い、の手に自分の手を重ねた。

「話が長くなってしまったな。すまない」

 そう言うと彼は彼女の手を毛布の中へ入れる。

「ゆっくり眠るんだな」
「はい」

 薬が効いてきたのかすぐにスヤスヤとは眠りに入った。
そんな寝顔を見ながらアステムは考える。

「……過去の話など、するつもりはなかったのに」

 仲間になったばかりのに不思議と親近感を抱いていることに気がついたアステムだった。





相変わらず、missingの更新遅くてすみませんっ……!!
1ヶ月ぶりかぁ……。
しかし今回は分岐することができました☆

今回はちょっと寄り道です。
まぁ、こんなことでもないと恋愛イベント起こりませんので。
といってもまだまだ恋愛は皆無ですが……(;´▽`A``

いきなりアステムの過去を暴いてしまいました。
しかしアステムルートなのに、カイトがいい奴すぎてアステムの存在が薄いっ!!!

……まぁ、普段クールで全然気を遣わないようなアステムが見舞いに来ただけでも
私は嬉しいんですけど……。
皆さんには物足りないですよね……ぅう、精進します!


こんなmissingですがどうぞこれからも宜しくお願いします!
更新が遅めですけれども……。

それでは、ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました!!


吉永裕 (2006.6.9)




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