「カイトさん、待ってくださいよ〜!」

 はさっさと行ってしまうカイトを追いかけた。

「ん?どうした、お前も飲み足りねーのか?」
「いえいえ。もう充分ですよ!でも、この街のお店をいろいろ回ってみたくて」
「おう、そっか。じゃあついて来いよ。穴場教えてやるぜ!」
「はい!」

 そうしてを引き連れてカイトはお勧めの酒場へと向かう。
道具屋と宿屋の間の路地を進んで右に曲がった先にある地下への階段。
石で作られた酒場はどこかひんやりとした空気が流れる。
カランと音を鳴らしてドアを引くと、そこは小さな酒樽や瓶が綺麗に並び、静かな音楽の流れるバーであった。

「ここは結構静かに飲めるトコだな」
「大人〜って感じで恰好いい雰囲気ですね」

 そうして2人はカウンターの隅に席を取る。

「蒸留酒、ロックで」
「畏まりました。
――お連れの方は?」
「あ、私はマスカットの発泡酒をください」
「畏まりました」
「結局お前も飲むのかよ」
「いいじゃないですか。折角こんな素敵な所に来たんだから」

 そう言ってユウはカウンターの向こうのバーテンの行動を見つめる。
バーテンは氷とアイスピックを簡単なおもちゃのように扱い、綺麗なアイスボールを作っていく。

「お待たせしました」と言うとバーテンは小麦の蒸留酒とマスカットの発泡酒をすっとカウンターに置いた。
「お、来たな。
――じゃあ、乾杯」
「はい。乾杯です」

 そうして2人は少しグラスを持ち上げて目を合わせると、グラスに口をつけた。

「カイトさんっていつもここに来てるんですか?」
「いや、そんなに来ないぜ。……時々だ」

 そう言うカイトは物憂げな表情を見せた。
そしてグラスの氷を見つめる。

「……カイトさんって……時々そんな目しますよね」

 はそのことに触れてもいいのかよくわからず、控えめに言葉を発する。
その言葉にカイトはピクリと反応し、彼女の方に顔を向けた。

「変なこと言うなぁ、お前。……俺がどんな目してるって言うんだよ?」

 フッと表情を戻してカイトは声の調子を上げた。
そんな彼の様子にはこれ以上は聞いてはいけない雰囲気を感じ取って笑顔を作る。

「強いお酒の似合う渋い顔してましたよ」
「お、マジで?じゃあもっと強い酒、飲もーかな」

 その言葉にカイトは笑顔になった。
やはりカイトは兄貴のように元気にどーんとしていた方がずっと素敵だ。
はそう思って自分からは彼のことに深く突っ込むのはやめようと考える。

「次の1杯で終わりですよ。私までアステムさんに怒られますからね」
「ちぇ……、わかったよ」

 そう言うとカイトはじっくり味わいながら酒を飲んだ。
もそれに合わせてゆっくりと味わった。



 その後、のんびり任務の話などをして過ごした 2人は会計を済ませ、ゆっくりと夜の街を歩いて家へと向かっていた。
空はよく晴れていて星が全天に広がっている。

はこの大陸の人間じゃねーのか?」
「そうですよ。よくわかりましたね」
「昼にパッシと話してた時に、この大陸に来てから……とか言ってた気がしてな」
「カイトさんって注意力ありますね」

 そう言ってはあはっと笑う。

「私はサウスランド大陸から渡って来ました」

 サウスランド大陸は殆どが砂漠の大陸だ。
昼夜の温度差も激しいし、気性の荒い野生の魔物が多く生息することで有名な大陸である。
しかもこの島とは違い、殆どの者たちが魔法を使えない。

「サウスランド人か。そりゃ逞しい筈だ」
「失礼ですね〜。まぁ、実際そうなんですけど」

 そう言いながら2人は広場の噴水の所で立ち止まる。
噴水は静かに街の灯を反射して、昼間とは違った美しさを見せていた。

「……私、傭兵になれてよかった」

 がポツリと呟く。

「アローア洞窟の魔物をやっつけたって聞いた住民の人たちのホッとした顔を見たら、こっちが元気になりました」

 噛み締めるようにその充実感と達成感を味わう彼女を、カイトはまるで成長する子どもを見守るような温かい目で見つめる。

 ――傭兵にはいろいろなタイプの人間がいる。
金の為に取り合えず仕事をする者。
自分の力を磨きたい者。
家族全員が傭兵の為、何の疑問も持たず傭兵になった者。
そして、人の為に役に立ちたい者。

「だから傭兵って辞められないんだよな」
「はいっ!」

 そうして2人は拳を握り締める。

「また明日も仕事、頑張ろうな」
「はいっ!!」

 そんな2人は足取り軽く家へと帰っていった。







今回は分岐しました。なんとか、ですが。

さて、カイトは元気の良いお兄ちゃん設定なのですが
いろいろカイトはカイトなりの物語を考えているので、
まだまだ深くは突っ込みませんでした。

いろいろ気になるかもしれませんが、長い目で見守って頂きたいと思います。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!!


吉永裕 (2006.2.15)




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