「アステムさん!」
はふらりと夜の街の中に消えてしまいそうなアステムの背中を追いかけた。
後ろから呼びかけられた彼は歩みを止めて振り返る。
「……どうした」
「あの、私もご一緒していいですか?いろいろ街の中、歩いてみたくて」
「構わないが」
そう言ってアステムは再び歩き始めた。
「ありがとうございます!」
は小走りで駆け寄ると彼と並んで街を歩く。
レンガ造りの建物が多い街に点る灯は温かく2人を包み込む。
「サンティアカは情緒溢れて素敵な街ですね」
は辺りを見回しながら言葉を漏らした。
「……そうだな」
アステムは静かに頷く。
「ここに来るまでに帝国軍の街をいくつか見てきましたけど、
帝国軍の街って何ていうか凄く……殺風景で冷たい感じですよね」
「それが帝国のやり方だ」
アステムは石橋の上で立ち止まった。
「……アステムさん?」
も思わず立ち止まる。
「何でも機械化して科学の力によって利便性を計ろうとするのが帝国軍だ。
……奴らには労力や魔法はいずれなくなる物だという考えがある」
「……そんな、確かに便利になって忙しい人の負担が減るのはいいかもしれませんけど」
はサウスランドの暮らしを薄ぼんやりと思い出した。
サウスランド人の殆どは魔法が使えない。
したがって自分たちの手作業で地下深くまで井戸を掘り、水を確保していた。
しかし砂漠地帯であるサウスランドの水はすぐに枯れてしまう。
そこで井戸が枯れては移住するという生活をするのがそこで生きる者たちの常だった。
移住の生活だけでも大変であるというのに、水の出そうな所を見つけて
石や自分の手などで地面を掘るという作業はその過酷さ故に死を伴うものである。
しかし、遠く離れた文明化の進んだ土地から持ち込まれた木の掘削機によって格段に死亡率は下がり、
効率がぐっとあがったのをは目の当たりにしていた。
なので便利化の何もかもが悪いとは言い切れない。
「……でも自然や魔法があるから人間は豊かに生きてこれたし、これからもそれは変わらないと思うのに」
の瞳に映った街の灯が揺れる。
「そうだな。俺たちが今まで生きてこれたのも自然の恵みがある為だ。
しかしそれが分からない奴もいる」
アステムは石橋にの手摺に腰掛けて下を流れる川を見つめた。
「何かを得る為には労力を惜しまない、それが昔からの決まりのようなものだ。
そのバランスが崩れてしまえば、世も崩れていくのではないだろうか」
キラキラと水面に反射する光に視線を落とす。
「私も……そう思います」
も手摺に腰掛けた。
「やっぱり、働かざるもの食うべからずですよ!!」
そう言って彼女は両手の拳をグッと握り締めた。
それを見てアステムはクッと笑う。
「そうだな」
その険の取れた笑顔を見ても嬉しそうに笑った。
「私も傭兵としてしっかり働かなきゃ」
「お前は前向きだな」
仕事への意気込みを話す彼女に彼は感心しながら頷く。
その隣では手を胸の前で組み、祈るように瞳を閉じた。
「今日も、明日も、明後日も傭兵としてお仕事して……仕事1つ1つは小さな物だとしても、それが誰かの喜びに繋がる」
そう呟くとすっと顔を上げて星空を見上げて微笑み、ピョンと勢いよく手摺から飛び降りてアステムの方を振り返った。
「ホントに傭兵って素敵な職業ですね!」
「……あぁ」
何百年も生きてきた自分に新鮮な感覚を呼び覚ます目の前の少女を見て、アステムは眩しそうに目を細めて手摺から立ち上がる。
「――、帰るぞ。風が冷たくなってきた」
そう言って彼女にあわせてゆっくりと歩き出した。
そんな言葉には微笑みながら彼の背中を追いかける。
「アステムさん。明日もお仕事、頑張りましょうね」
「あぁ」
穏やかな雰囲気に包まれた2人には、確実に仲間意識が芽生えていた。
今回は分岐しました。なんとか、ですが。
さて、アステムはあんまり喋りません。
あぁ、とかそうだな、とか……。ツマンナイ男で本当にすみません。
でもやはりエルフらしく自然にはうるさいようで。
アステムもそれなりの物語を考えているつもりなので
どうか温かく見守ってください。
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!!
吉永裕 (2006.2.15)
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