第2節
「……で、お前ホントに傭兵希望なのか?」
「はいっ!こう見えて、昔から剣術は習っていたんですよ」
そう言うと、は腰にある細い刀を抜いてみせる。
「――その肩に乗ってるヤツは何だ?魔物か?」
冷静な表情でアステムがの肩に乗っている猫もどきを見つめる。
皆に注目された猫もどきは表情を変えず欠伸をした。
「あぁ、紹介が遅れました。この子はキャスカ。私が魔物に襲われて気絶してる所を助けてくれたんです。
それからはずっと私の傍にいてくれるんです。今では私の唯一のお友達です。
……でも、やっぱり魔物なんでしょうか? 私には羽根の生えた、ただの猫にしか見えないんですけど」
唯一の友達が魔物もどきって……、と心の中で突っ込みながらカイトは彼女に質問を投げかける。
「ってことはお前は“魔物側”の人間なのか?」
「魔物側?……ってことは帝国側もあるってことですか?」
「その通り!! ――この大陸は分立状態。
その中でも傭兵団と呼ばれる我々傭兵達は魔王軍、帝国軍のどちらにも属さない。
特定の主はおらず、民を第一に考えることを目的に結成された軍団さ。
……まぁ、客観的に見て、帝国軍の方が民の味方のような立場だから、殆どの傭兵は民間の依頼の次に帝国側の依頼を受ける者が多い。
しかし、魔物側の依頼は帝国に危害を与え逆賊扱いにはなるが、報酬として金と一緒に、
精神を興奮させ脳神経を麻痺させる作用のある“魔硝石”という石をくれることがある。
その石は裏の世界では非常に高価なものなのでそれを求めて魔物側につく傭兵もいるのさ」
どこからともなく現れたリットンが簡単にティン島の各勢力を説明すると、という少女は驚いた様子で口を開いた。
「そ、そんな世界だったんですか。
――もしかして、私が魔物側の人間に見えたから、依頼を断られ続けたり、変な危ない感じの傭兵さんばかり集まってきたんですかね」
「恐らくそうだろうな」
「まだまだ勉強不足ですね、私。……でも、まずは身近な人たちの役に立ちたいです!!」
彼女は両手を握り締める。その瞳は強く輝いていた。
かつての自分達を見ているようで青年達の口元は少し微笑む。
「まぁ、任務も受けちまったことだし……じゃあ、行くか」
「はいっ!!」
そうしてカイトたち一行はサンティアカを出発した。
「……っふぅ」
「お前、意外に戦闘の時はクールだな。普段はぽわ〜としてるくせに」
「クールというか必死なだけですよ。相手のことを考える余裕がないだけです」
はカイトの言葉に答えながら額の汗を拭う。
アローア洞窟にもまだ入っていないのに、一行は高い頻度で魔物たちに遭遇していた。
「なぁ、カイトよ。この平原はこんなに魔物が多かったか!?」
掌に魔力を集中させながらリットンはカイトの方を見る。
「何か昔に比べたらよく出現する気がするな。あぁ、面倒だぜ。楽な仕事だと思ったのによ」
「……最近、傭兵が失踪したのと同時期に、魔物が増え始めたというのは本当の話だったようだな」
そう言いながらカイトはトンファーで地上の敵を殴り倒し、アステムは空を飛ぶ魔物に弓を射る。
「――魔王軍がついに動き出したんじゃないのかい?帝国軍を打ち破る為に」
「……もしそれがそうなら、傭兵失踪には魔王軍が絡んでるってことだな」
「やっぱり、魔王軍は、魔物は悪者なんですか……?」
そんな話を聞いたは、哀しそうな目で少し離れた空中で彼女らを眺めるキャスカを見つめた。
「……別に全部が全部、悪いヤツとは限らねぇんじゃないか?
現に、キャスカはお前や俺達に危害を加えようとはしてねーし。っていうか、興味もねぇみたいだがな」
カイトは背を向けて言う。
その彼の言葉にはホッとしたようで穏やかな表情になる。
「私、頑張ります。カイトさんやリットンさん、アステムさんの足をなるべく引っ張らないように……!」
の掲げた刀が太陽の光を反射して、キラリと輝いた。
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