第14節




 が体を負傷して3日後、ワイプが宿を訪れた。

「だいぶ顔色が良くなったね。本当に私のせいで怪我をさせてしまってすまなかった」

 そう言うと深々と頭を下げる。
は痛みが残る身体というのも忘れ、飛び起きて首を振った。

「いえいえ!この傷は私が未熟だったからであって、貴方には全然責任はありません。ご無事で何よりです」
「……ありがとう、傭兵さん。 
――それから荷物を届けて貰ったことにも礼を言っておかねばならないね。
 君たちのお陰で、商売がうまく行きそうだよ。本当に、ありがとう」

 そうしてワイプはの手を両手でグッグッと握り、嬉しそうに微笑むと部屋を後にする。
そんな彼には逆に自分が励まされるのを感じた。

 町や村には傭兵を良く思わない人もいる。
まだ仕事を始めて間もないけれど「金さえ用意すれば何でもする血の通っていない人形」と陰口を叩かれたことだってある。
きっとそんな人たちは、レジスタンスと帝国との戦いに巻き込まれて家族を失った人や、悪い傭兵に騙された人なのだろう。
確かにそれなりの報酬を貰うけれども、だからといって傭兵たち全員が収入目当てに働いているわけではないと思う。
思いたい。
 だって自分も、恐らくカイトやアステム、リットンも、お金よりも仕事の質や依頼者のことを考えて選んでいるから。
だからこうやって自分の仕事で喜んでくれる人がいることが、とても嬉しい。
 早く身体の傷を治そう。
そしてもっと強くなろう。
多くの人を守る為に。
多くの人に喜んで貰う為に。
――それが私の幸せでもあるから。
 ワイプの後姿を見送ると、は再び目を閉じて眠りについた。


『――どうして、どうしてお前は人や魔物を信じるんだよっ!?
 欲望を満たす為に同じ種族で争いを起こすような奴らなんだぞっ!?
 その力を失えば、お前も唯の――』
『私は信じたいのです。この世界は誰のものでもない。その時を生きる者たちで作り上げるもの』
『世界を破滅へと向かわせることになってもか!?』
『……私は、信じます』


――はっ」

 は起き上がって右の側頭部を押さえる。

「うな?」
「……大丈夫、何でもないよ」

 そう言って擦り寄ってきたキャスカの頭を撫でる。
数日前から時々頭の中が白っぽい光に覆われるような感覚を覚えるようになった。
時々今のように声が聞こえるが殆どがぼんやりとしたイメージで、具体的な情景などはわからない。
 不思議な夢だな、と思う。
別に怖いわけではなく、心がどこか温かくなるような……。
それでも全てを知ってしまってはいけないような、それでも知りたいような。

「……夢とか今まであんまり見なかったんだけどな」

 はふぅ、と息をつくと窓の外へと視線を動かした。
部屋はとても静かだった。
家畜たちの鳴き声や、遊んでくれとせがまれたのだろう、外で遊ぶ子どもたちとカイトたちの明るい声も聞こえてくる。
 先日の切羽詰った状況が本当に嘘のようだ。

「……これが平和ってことだよね、キャスカ。
 これからも私、カイトさんとアステムさんとリットンさんと、傭兵の仕事頑張るよ」
――なぅ……」

 部屋にはキャスカの羽音と小さな返事が響いていた。










〜missing  第1章 終〜



(勿論第2章へと続きますよ^^;)

物語の展開上、章で区切ってこれまでの話は〜出会い編〜的な感じで一旦終わらせることにしました。
そうでもしないと……書きたい話までの間の話が思いつかなくてずっと更新できないっていう……^^;
本当にすみませんね……無計画な作者で^^;
なので、章がわかれておりますが、どうぞご了承くださいませm(_ _)m

ってか、第1章が終わるって言うのに、カイトたち全然出てこなかったですね……。
メインキャラなのに……酷い扱いですみません^^;


次回からは第2章になるかと。
こうやって考えていくと、全3章か4章になりそうです。
多分3章だと思いますが。
でも1章のように節が多くないと思います。

……ま、それもあくまでも予定、の話なんですけども^^;

第2章からは多分、もう少し各キャラとの関係も近くなってくるかと。


というわけで、どうぞ今後もmissingを宜しくお願い致します^^




吉永裕 (2007.4.22)


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