このティン島という小さな島は3つの勢力に分かれていました。
1つは魔法が栄えた魔王軍。
もう1つは科学の進んだ帝国軍。
そして、どちらにも属さない傭兵団。
それぞれの利害の不一致で争いは常に絶えませんでしたが、
魔王軍と帝国軍の本拠地は別の大陸にある為に、今は均衡を保っています。
しかし最近、異変が起こり始めました。
傭兵たちが次々と姿を消しているのです。
第1章 第1節
ここはサンティアカ。傭兵らの集う大ギルドのある街である。
そのギルドに向かう3人の青年らがいた。
1人は髪の毛がツンツンしてロングマフラーを首に巻いた男。
もう1人はがっちりとした鎧を着込んだ男。
そしてツンと尖った耳が特徴的なエルフの男。
傭兵団と一般的には呼ばれているが、傭兵らが団体で行動することは滅多にない。
仕事の内容によって、多くの人間を集めることもあるが、大体は2、3人のパーティを組んで行動する。
そんな傭兵にはレベルが設定されており、仕事の難易度やこなした仕事数によってランクが上がるようになっている。
「そういえば聞いたかい?傭兵失踪の噂」
「あぁ。しかもゴールドLvの傭兵の割合が多いってな」
「そのせいで傭兵が急に減って仕事が追いつかないらしい」
ギルドへと向かう青年らの耳には住人たちの噂が入ってくる。
街の人たちも傭兵が急に失踪したことに不安を抱いているようで、街中、傭兵の噂が絶えない。
「おい、聞いたか?新人傭兵をパーティに入れたらギルドから補助金が出るらしいぞ!」
「仕事も2割増の報酬になるそうだ!」
ギルドの前には多くの傭兵達が集まっていた。
どうやらドアの前に貼られた紙に何か有益な情報が載っているらしい。
「“傭兵経験のない新人傭兵の世話をするパーティには、ギルドより補助金を与える。
さらに、新人傭兵を入れての仕事については、報酬は2割増とする”……だとよ」
「よほど仕事が溜まってるのだな、ギルドは」
貼紙を見ていた鎧男が振り返ると、マフラー男は耳を掻きながら欠伸をし、エルフ男も特に興味がない様子でギルドへ入っていった。
「……パッシ。ホントに金払ってくれんのか?」
「あん?払いたきゃねーけど、上層部からキツク言われてんだ。ちゃんと補助金と報酬は払うぜ」
マフラー男が話しかけたのは、ギルドのカウンターに偉そうに座っている14歳くらいの少年である。
「……で、何か楽で高収入の仕事ねーか?」
「そんなもんあるわけねーだろ。まぁ、そこまで高くはねーが、結果的に高い報酬を貰える仕事ならキープしてるぜ?」
「本当かい?いやぁ、さすがは14歳で大ギルド長代理に選ばれたパッシ=ルミナール殿!!」
鎧男がパッシの手を取り、ブンブン振り回す。
「鬱陶しいんだよ、お前はっ!」
「……で、何故結果的に高い報酬が受け取れるんだ?」
鎧男のことは放っておいて、質問するエルフ男。
「……あぁ。お前ら外の貼紙はもう見たろ?今回の任務は新人傭兵を護衛する仕事だ」
「新人傭兵の護衛?なんだそりゃ」
「詳しく言えば、傭兵認定の証であるアローア洞窟の虹色水晶を取りにいく、新人傭兵希望の依頼人を補助する仕事だ」
「めんどくせ〜。あの単調なダンジョンにまた入るのかよ」
「でも道を知っている分、時間はかからないだろう」
「そうだな。――どこかの馬鹿のせいで金が酒代のツケに消えた現時点においては、仕事を選ぶ余裕はない」
「う……」
エルフ男の冷淡な言葉を聞き、マフラー男の顔が引きつる。
そんな彼らは相手にせず、パッシは書類を指さした。
「じゃあ、この仕事でいいか?」
「勿論だとも!!」
「じゃあ、いつも通りここにサインしろよな」
「毎回、毎回、面倒だよなぁ」
『カイト=リ=シュトラエル、18歳』
ブツクサ言いながらマフラー男が雑な字で、
「カイト!私の枠にまではみ出ているではないかっ!」
『リットン=アズバーグ、20歳』
カイトに文句を言いながら鎧男が小さな字で、
「……」
『アステム=リンガルート、304歳』
無言なエルフ男は几帳面な字でサインをした。
「――で、依頼人はどこだ?」
「奥の席に座ってる女と猫」
パッシが指差した先には猫の背中に羽根の生えたような生き物を肩に乗せ、
少女から女性への過渡期のような容姿の女が長い髪をふわっと風になびかせていた。
完璧おもりって感じだな、戦えるのか? っていうか、あの肩に乗ってるヤツ、魔物じゃ ねーの? ――という表情をしたのが2名と目を輝かせたのが1名。
「あ、もしかして私を補助してくださる傭兵さんたちですか? 仕事、引き受けてくださってありがとうございます。
私、です!」
嬉しそうに近寄ってきた彼女の勢いに飲まれる3人。
本当にこんな無邪気な少女が傭兵などできるのだろうか、と他人ながら不安に思う。
「、何て素敵な名前だ!君の護衛はこの私に任せてくれたまえ!!襲い掛かる魔物など、我が剣で薙ぎ倒してくれる!」
「……っていうかお前、魔道師だろ。剣とか使わねーじゃん」
「ぐっ。それを言うな、カイトよ!」
これが新人傭兵見習いと、その補助をすることになった3人との出会いであった。
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