初恋クインテット<小説版> プロローグ(side K)



 仲良し四人組、四馬鹿カルテット、残念イケメングループ等々、俺たちは周りから様々に呼ばれているが、
確かにいつも四人でいることには変わりない。
 三井章博(みついあきひろ)、日向浩輝(ひゅうがひろき)、伊藤直彬(いとうなおあき)、そして俺、坂本孝輔(さかもとこうすけ)の四人は
幼稚園に通う頃から大学生になった今でもつるんでいる。
 そもそも国立大学付属幼稚園で出会ったのもあって、そのまま全員が小、中、高と付属校に進学し、
大学まで同じところに合格してしまった為に何となく俺たち四人はずっと一緒にいるのである。
 それでも昔から四人は遊びの趣向が似ていたのもあり同じゲームや漫画に夢中になる為、成長しても自然と集まって遊んだり話したりするので
気安い遊び仲間が同じ大学に進学したというのは心強い気もした。
 とはいえ「世界が狭すぎる」と浩輝はよく言っている。
自称“全世界の王子”こと浩輝は昔から目立ちたがり屋でいずれ俳優になって有名になるのが夢らしい。
なので地元で休みの日に見飽きた四人で集まってゲームをすることにいつも不満を言っているのだが
「ゲームしようぜ」と呼びかけるのは毎回浩輝である。
 そんな浩輝に振り回されているのはナオとアキだ。
ナオは無口で自分からはあまり話さない。話しかけると手短に言葉を返す程度だ。
それでもゲーム中などは叫んだり暴言を吐いたりもする。
性格が暗いというわけではない。ただ極度の面倒臭がりなのだ。
色々と考えて話すのが面倒、料理を作るのが面倒、洋服選びが面倒。
そんなわけで奴はそのまま食べられるバランス栄養食などを常備し、よく齧っているし、
好きな洋服を厳選して着回すのでさながら女性雑誌に出てくるモデルのようである。
また俺たち四人の中では一番背が高いのと無口キャラとが相まって神秘的な雰囲気を醸し出している。
自称王子の浩輝はそう言うだけあって同性の俺から見ても綺麗な顔立ちをしていて腹が立つが残念イケメンなのでまだ許せる。
が、ナオはずるい。あいつは絶対モテる。モテてる筈だ。
ただ面倒臭がって付き合わないという理由なのが更に腹が立つ。
 まだアキの方が許せる。あいつはきちんとした身なりをすると穏やかな好青年のようだが、
普段は身なりをあまり気にしないし、気を抜くとすぐに太る。
親が食に厳しかった為に逆にジャンクフードをこよなく愛し時々暴食するし、
特に好きなメニューであるカレーライスなら三皿はぺろりと食べる。
だからゲームとプラモデルを作っている時以外はダイエットと筋トレに勤しんでいる。女子か。
普段は真面目だが仲が良い仲間といる時は無茶をしやすく羽目を外すと手が付けられない。
怒らせると怖いタイプだ。
 ――あ?俺のこと?
俺様は素晴らしい男に決まってるだろ。聡明で好きなことには一直線の熱い男。
目が悪くてコンタクトと眼鏡が手放せないしアキと同じ量を食べても全く太らない華奢な身体は気に入らないが、
何でもそこそここなせる万能型だ。

 ――こんな個性的な俺たちだが共通点もある。
相手のむかつくところも気にならないくらいに遊ぶこと自体が好きなこと、
ある女の子が全員の初恋の相手だったこと、だ。


「――おい、あれちゃんの家じゃないか?」
「引っ越しのトラックだな。あの家、誰か買ったのかな」

 大学の入学式を三日後に控えたある春の日、前日の晩から集まって多人数でプレイできるゲームを徹夜で遊んだ後、
大衆的レストランで遅めの昼食を摂った俺たちはアキの家に戻る途中である光景を目にして足を止めた。
 “ちゃん”というのは俺たちの共通事項である初恋の相手の名前だ。
彼女も同じ付属幼稚園に通っていた。
そこら辺の男子よりも背が高く活発だったが、皆に優しく世話焼きで精神的に皆よりも年上のような子だった。
煩くて手間のかかるガキだった俺や浩輝は先生だけでなくの手も借りてなんとか集団生活ができていたように思う。
ナオはナオで全く動かず周りを困らせていたのだが…。
とはいえ俺たちも本気で馬鹿ではないので、小学校に入学してからはわざわざ先生に怒られるようなことをするのはやめた。
勿論、大人に見えないところで馬鹿をやっていたわけであるが。
 そんなわけで騒がしいガキだった俺たちは他の園児の殆どから苦手とされていたが、は変わらず接してくれた。
しかしながら彼女は他よりも大人びていたので、こちらの頭を撫でたり手を繋いで行くべき場所に連れて行ったりと
一緒に遊ぶというよりは世話を焼かれていた記憶の方が多いのであるが、俺たちはそんな彼女に揃って親しみを抱いていた。
 だから幼稚園卒園時に親から彼女がすぐに引っ越すと聞いた俺たちは皆して秘密基地である河原の隅で泣いたのだ。
当たり前のように皆で付属小学校に進学すると思っていた俺は自分の幼さが憎かった。
皆きっとその時、彼女に対する恋とも呼べない程の淡い思いが自分の中にあることに気づいたのだろう。
それから俺たちは彼女の話をするのを意識的に避けるようになった。
 とはいえ、同じ幼稚園に通っていた彼女のことは自然と耳に入ってきた。
何故なら引っ越したのは彼女と両親だけで彼女の生家には彼女の祖母が残って住んでいたからだ。
なのでご近所の章博の母親を通じてが引っ越し先でも元気にやっていることは何となく俺たちは知っていた。
けれど年を重ねるにつれて次第にそんな初恋の相手の話題には縁遠くなり、
更には彼女の祖母も元気ではあるが膝を悪くしたとかで生活が不便になり、有料老人ホームへ入居したらしく
ここ数年は完全にの話題を耳にすることはなかった。
 そんな彼女の生家の前に引っ越しトラックが停まっている。
もしかすると俺たちが知らなかったがあの家は売りに出していたのかもしれない、と思った俺は
どんな奴が越してきたんだと新しい家の主を捜した。

「――ちゃんだ」

 引っ越し業者に荷物の置き場所を指示していた同年代の女性を見て浩輝が呟いた。
自分たちの記憶の中の彼女とは随分と異なってしまっているが、確かに見覚えのある顔をしている。

ちゃん!!」

 高校の演劇部で身に着けた大きな声で浩輝が呼びかけると、びくっと肩を揺らしてその女性は振り返った。
恐る恐る声の方へ視線を向けた彼女の顔は数秒ぼーっと呆けて見えたが、ハッと何かに気づいたような表情を浮かべて
こちらへ小動物が飛び跳ねるような小走りをして近寄ってくる。

「もしかして、浩輝くん?
 …君はあっくんで、君はナオくん、君はコウちゃんだね!?」

 次第に興奮して声が大きくなっていくは目をキラキラと輝かせる。
「すげー!久しぶり!」と今にもハグをしそうな勢いの浩輝と「はわわわ」と困惑中のアキ、
何を考えているのか分からないいつもと変わらない態度のナオに囲まれて
は「皆、背が高いねー。あと声がひくーい!びっくり」と親戚のおばさんのような会話をしている。
 俺と言えば…久々に会った初恋の相手の印象があまりにも強烈過ぎて動揺していた。
しかしながら表に出すわけにはいかないという小さなプライドで何とか感情を抑え込み、
和気藹々と話をするの頭をぐっと掴んだ。

「わっコウちゃん、痛いよー」

 本気で痛がっているわけではないだろうが涙目風な表情を浮かべは俺を見上げた。
俺は怒り顔を必死で作る。

「おーまーえーはーー何で引っ越すことを言わなかったんだ。
 卒園式の次の日には急にいなくなっちまったからびっくりしただろうが」
「ああ、あの時のこと!?ごめん、言ってなくて!
 …だってさぁ、皆に話したら絶対泣いちゃうと思ったんだもん。
 卒園式も凄く辛かったんだよ。これが終わったら皆とお別れかと思うと。
 私も子ども心に必死だったんだよー」

 俺にこめかみをぐりぐりと押されながらは口を窄めながら答えた。
俺も何となくそのくらいは予想がついていた。
けれど他の奴らと同じ行動は取れないだろう、キャラ的に。

「急な引っ越しだったの?」
「急ってわけでもなかったんだけど、私がちゃんと理解したのが卒園式当日だったんだよね。
 それまでは遠くへ遊びに行くみたいな感覚だったものだから」
「へー」

 とりあえず落ち着いたらしいアキが会話に加わり、表情を変えないままナオは相槌を打つ。
アキはともかくナオは平常運転過ぎだろう。

「ところで、あの荷物は何なんだ?」
「ああ、あのね。デタール大学に受かったからおばあちゃんの家から通うことにしたの。
 ずっとこの家を空き家にしとくのも心配だし、行きたい学科があったから両親を説得したんだ」
「じゃあ俺たち全員一緒ってこと!?」
「え、皆も今年から一緒の大学?嬉しいなぁ!」

 話していた俺を押しのけて浩輝がとの間に割って入る。
俺はこっそり肘打ちで応戦した。脇腹に痛打を受けた浩輝は「うっ」と声を上げる。ざまぁみろ。

「学科どこ?」

 そんな俺らを尻目にナオはパーカーのポケットに手を突っ込んだままを見据えて首を傾げた。
四人の中で一番背が高いナオはと30cm近く身長差があるように見える。

「私は教育学部。音楽教育コースだよ」
「あーなんか分かるかも。俺は理学部地球科学科」
「ナオくん、昔から自然とか虫とか好きだったもんね」
「うん」
「俺は工学部で社会工学科っていう学科で…」
「あ、知ってる。一昨年から新設された学科よね?土木事務所とかの公務員向きな学科って聞いたよ。
 倍率高かったでしょう?あっくん、頑張ったね!凄いなぁ」
「こいつは真面目なのが取り柄だから」
「悪かったな」

 無表情なままのナオを拳で軽く叩くアキを見ては微笑む。
昔からはナオやアキとは仲が良かった。
ぼんやり型の子どもだったナオとアキはよくに手を引いてもらっていたのだ。
 俺と浩輝は逆にを追い回すような子どもだった。
浩輝は純粋にが好きでいつも付きまとっていたのだが、俺は興味を引くために叩いたり虫を突き付けたりしていたと思う。
――俺の印象、最悪だなきっと。

「俺は、俺は、人文学部!文化学科!!そこで人と文化を学んでーいずれ俺は芸能人になる!!!」
「浩輝くんは子どもの頃からアイドルみたいだったけど、そのまま成長してるね」

 はくすくすと笑って見せた。
笑い声に連動するように髪の毛がふわふわと揺れる。
そんな彼女を見ていると唐突に目が合った。

「コウちゃんは?どの学科に入ったの?」
「経済学部経営法学科」
「旅行会社に入って海外に行きまくりたいんだよなー?だから国際諸法が学べるここにしたんだって」
「何で浩輝がしたり顔で説明してんだよ。
 …別に旅行会社じゃなくてもいいけど。空港の案内係とかでも」
「あーコウちゃんは飛行機が好きだったね。パイロットとか整備士とか目指さなかったの?」
「うるせー。目が悪いし機械いじりは苦手なんだよ、俺は」
「あ、ごめん」
「謝られると余計にむかつく」

 俺はそう言って再びのこめかみをぐりぐりと軽くではあるが押さえつけた。
彼女の口から「ごめんって〜」という声が漏れる。
 何でこいつは昔のことをいちいち覚えているんだ。
俺が飛行機が好きだとか、どうでもいいことを。
やはり初恋の相手は強烈だ。

「おい、引っ越し業者の作業が終わる頃じゃないか」
「そうみたい。そろそろ行かなきゃ。
 また皆、会えるよね?」
「うん、会おう会おう!っていうか連絡先教えて!」
「あ、そうだね。連絡先、聞いとかなきゃ。
 そう言えば皆は実家にいるの?」

 浩輝にせっつかれては急いでカード型の携帯端末をポケットから取り出した。
それぞれ携帯端末を取り出し、俺たちは手際よく連絡先を交換する。

「ナオと浩輝はアパート借りてるね。
 ナオはいい加減自立しろって家を追い出されて、浩輝は我儘言って独り暮らしさせてもらってる」
「いいじゃん!俺、大学に入ったら演劇の勉強めっちゃするつもりだし、
 バイトとかもするつもりだから深夜に実家帰ると家族から怒られそうなんだもん」
「そうなんだ。じゃああっくんとコウちゃんは実家から通いなんだね」
「うん、そう。やっぱり実家は楽だからなー」
「でもお前、既にナオの家に結構入り浸ってるよな?」
「ああ、ジャンクフードばっかり買ってきやがる」
「いいじゃんか!お前だっていつもカロリーバーみたいなのばっか食ってるだろ」
「楽だから」
「不健康な奴らだな。お前ら早めに死ぬぞ」
「「いや、生きる!」」

 そんな俺たちのやり取りにはまたもや肩を震わせて笑っている。
こんなに笑う奴だっただろうか。しかもこんな可愛い顔で。

「じゃあ皆、またね!」

 そう言っては家に入っていった。
今更引っ越しの手伝いを申し出ることもできず、俺たちも予定通り章博の家へと向かった。
それぞれはっきりと表には出さないが全員の気分が高揚しているのが分かる。
ただ浩輝は無邪気な馬鹿なので「ちゃん、大人っぽくなってて綺麗だったなー」と恥ずかしくなるようなセリフを口にする。

、確かに見た目は大人になってたけど雰囲気は変わってなかったな」
「そうだね。相変わらず明るくて優しそうだった。
 …で、孝輔は何で久々の再会なのにちゃんいじめてんの?ガキなの?」
「うるせー。久々に会ったからって急に大人な対応できるかっての。
 逆に恥ずかしいだろ。“やあ、久しぶりだね、元気?”とか言えるか」
「うん、確かにそんな態度取ってる孝輔見たら俺らも恥ずかしい」

 気に入らないのでわざと立ち止まりアキの進行の邪魔をしてみる。
ナオと話をしていたアキは気づかず俺にぶつかり「ぶおああ」とよく分からない奇声を発した。
ざまぁみろ。

「俺さー子どもの頃、ちゃんのこと好きだったんだよね。
 今日の再会で何かときめいたわ」

 俺たちの気持ちを考えもせず浩輝は事も無げに自分の心をおっぴろげる。
彼の大きな独り言を聞いた俺たちは一瞬黙り、すぐにゲームの話へと話題を移した。
 ――ときめいたのは皆も同じだ。
俺たちは浩輝みたいに明け透けに自分の気持ちを公にできない性分なのだ。
 それでも走り出したら容赦はしない。
ゲームの中じゃ、俺は味方でも自分が楽しいなら同士討ちもいとわない我ながら自己中心的思考の持ち主だ。
だから長年の遊び仲間であろうと遠慮はしない。
せいぜい俺がに本気にならないことを祈っておけ、野郎ども。



漫画版を見てみる




これ実は『雨の七夕』というSSで描いていた『LOVEstyle』というネタをタイトルを変えて創作してみました。小説版です。
元ネタのLOVEstyleには登場人物が多かったので今回の話は今描きたいキャラに絞っております。
なのでSSに出てきたヒロは今回登場しません(多分)

漫画版と違うところは小説版の方がやはり細かく描いていると言うことでしょうか。
漫画版はだいぶ端折っております。
そういえば、一応この小説は現代部屋においておりますが、舞台としてはジッカラートの現代をイメージしております。
なので大学名や携帯電話の名称などがファンタジー世界基準になっていてアレですがそこまで関わりを持たせないような書き方をするつもりなのでさらっと流していただけるとありがたいです。


漫画版でも同じことを書いていますが
ちなみに、キャラたちの下の名前やモデルは私が幼稚園実習に行った先の園児たちです。
漢字は適当なものを当てておりますし、恋愛話にしやすいよう性格もちょっと脚色してはおりますが大体こんな感じでした。名前つけるのが苦手だから過去の知り合いを思い出してしまうんですよね。

モデルとなった子について≒キャラ。
←本来の浩輝のイメージ図。コミPo!ではあまり髪型など種類がないのが残念です。


ひろきくん。顔が4,5歳なのに既に整っておりアイドルのような振る舞いをしておりました。
本編ではちょっと五月蠅すぎかもしれませんが。こういうキャラがいないと話が進まないことが多いもので。使いやすくしてます。



←本来の章博イメージ図。

あきひろくん。のんびり屋で根が真面目な子なのでそこまで目立つことはありませんでしたが、
お弁当のカレーを美味しそうに食べてました。お弁当でカレー!?とびっくりした記憶が今も残ってます。




←本来の直彬イメージ図。

なおくん。うまく気持ちを言葉にできない無口な子でしたがゆっくり話を聞くとはにかみながらお話をする可愛い子でした。
工作や虫取りが得意で誘うと誰よりも上手でした。




←本来の孝輔イメージ図。

こうちゃん。いたずらっ子でいたずらをした後よくにやりと可愛く笑ったものでした。
でも照れ屋で好きな先生の前にいくと隠れたりしてました。
本編ではつっこみ&まとめ役かも。書きやすいのもあって大まかなストーリーが彼だけ決まっています。



ちなみにヒロインさんはこんなイメージでした。






こんな個性溢れる子たちをモデルにしたこの話。一応こちらの小説版の方を先に書いてから漫画を作っているのですが、テンポ的に漫画の方が合っている感じです。
ちなみにプロローグは孝輔メインの回でした。孝輔は今まで私が名前変換できる男の子に毎回つけていたくらい気に入ってるキャラであります(^_^;)贔屓してすみません。

のんびりやっていこうと思っておりますので気に入ってくださったお客様はどうぞ続きをお楽しみに!
久しぶりの更新がまた人を選ぶような作品で恐縮ですが、読んでくださったお客様ありがとうございました!!


吉永裕 (2017.7.15)




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使用したアバターは 萌える!アバターメーカー で作製しました。
無料でパーツが何パターンも選べるのは本当に凄いです。
ありがとうございました!!