ミュウは次々に料理を口に運ぶ。
早食いは身体に良くないそうなので、は彼に話しかけて食事の時間を長くとらせようと考えた。
しかしながら特に話題が見当たらなかったので先程の話題を振り返ってみる。
「…先程の話のことですけど、やはりミュウは私を評価し過ぎな気がします。
貴方が私に憧れるなんて不思議で理解不能です。
一体、貴方は私をどのように捉えているのでしょうか?」
がそう言うと、ミュウは食事の手を止めて首を少し傾げる。
そして眼鏡のブリッジを右手の中指で上げた。
「どのようにって言われてもなあ、さっき言った通りだけど…。
あ、でも、最初の印象は“お人形さん”だったよ。
…綺麗な洋服を着てたし、あの頃から君は可愛かったから」
「え? …あの、感情のない機械のような意味での“人形”という意味ではなくて?」
思わぬ返答だった為には目を見開く。
てっきり機械人形のようなものだと思っていたのだけれど、ミュウの言い方は鑑賞人形に近いニュアンスで驚いた。
それに可愛いという単語も自分に向けられるものだと思っていなかったので
は心の中でいま一度“可愛い”の定義を思い返す。
小さく弱々しくて愛らしいと思うこと、または愛情を持たずにはいられない対象のこと――だった筈だが。
今度はが首を傾げた。
「――確かに最初は表情が硬いなと思ってたけど、でも“友達になろう”って君に言ったら少し表情を緩めたんだよ。
それ見た時、ボク、何だか凄く嬉しかった。
ミカサもそうだと思うよ。喜んでたでしょ?」
「…そうでしたか?
ミカサは子どもの頃からポーカーフェイスで、表情の乏しさは私といい勝負だと思いますけど」
「そんなことないよ。ミカサもあれで結構素直だと思うし。
それに、今の君は随分と表情豊かになったじゃない」
「そうですね。それも全部、ミュウたちのおかげですよ。
ミュウとミカサ、そしてナナミと出会ったことで私は楽しさや喜びを知れました。
そしてナナミを失ったことで、私は怒りと悲しみを知った…」
の声は次第に小さくなる。
ミュウは黙ってそんな彼女の話を聞いた。
「……皮肉なことですが、ナナミを失って初めて私は人間になれたんです」
「…」
ぼやける視界の中、ミュウの手が近づいてくる。
彼の手の感触では自分が涙を流していることに気づいた。
生理現象でなく感情の高ぶりで涙が出るようになったのも大切な人を失う悲しみを知ったからだ。
悲しみなど知らなければ良かったのにと思うこともある。
しかし、この感情があるということがナナミとの繋がりなのだと思うと不要だとは言いたくなかった。
「ナナミは、大切な人でした」
は心に刻むように言う。
ナナミは考え方や人生を変える程に大事な人であった。
何より一緒に生きたかった。
「うん、ボクにとってもそうだよ」
の涙をそっと拭いながらミュウは優しく微笑んだ。
恐らく彼もナナミを失ったことで人生が激しく変わった人物だろう。
もしかするとナナミが傍にいたら今頃は科学技術に全く関係のない仕事に就いていたかもしれない。
それでも、事実、ナナミはいない。今の状況が全てなのだ。
いつまでも悲しみに囚われるわけにはいかない。
「…ミュウ、ALを早く完成させましょう。
ナナミの記憶が薄れないうちに、彼女の行動パターンを全て入力してしまいましょう。
合成音声も、近いところまで調整できています。
ナナミに声も似ているナヲミさんも近くにいらっしゃいますし、今年こそ完成させられる気がするんです」
「うん。
…ありがとう、。そんなに一生懸命に取り組んでくれて」
「いえ、貴方の願いは私の願いでもありますから。
――頑張りましょう、ミュウ」
「うん!」
早くALを完成させなければならない。
色褪せていた世界が色付いて見えるようになったのはミュウやミカサ、そしてナナミのおかげであり、皆に大切なものを沢山貰ってきた。
だから、今度は自分が力になりたい――とは改めて決意を固めた。
そして、ナヲミのことも救いたいと心から思った。
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