六月のある日、トイレから戻ってきた私は次の授業の準備をしようとして机の中の異物に気付いた。
折りたたまれた薄いブルーのシンプルなメモ紙が一枚。
私は窓を背にしメモを膝の上で慎重に開く。この位置ならシオが覗こうとしても事前に気づけるのだ。
とはいえ私は別に見られても構わないが、どこでどう送り主がそのことを知って傷つくか分からないので
余計な災いを未然に防ぐ為にもあまり迂闊なことはしないようにしている。
人に純粋な興味を抱けない私が誰かをむやみに苦しめるなんてとんでもないことだ。
それでも傷つけてしまうこともある。…相手の好意を拒絶せねばならない時などだ。
私は異性を愛せない。かといって同性愛者というわけでもないけれど。
そんな私が恐怖を乗り越え異性と付き合えるはずがない。
私は手元のメモを折りたたんで胸ポケットに入れた。
「放課後、話したいことがあるので校舎裏の銀杏のところに来てください。待っています」
名前を名乗らずどこの誰かも分からない人間の言い分を聞く義理はないが、待っていると書かれたら行かねばなるまい。
それにすっぽかして相手の心象を悪くし悪い噂を流されては残りの学校生活がしづらい。
何より私がトイレに立った隙にメモ紙を机に入れたということは私の行動を用心深く観察しておりタイミングを見計らって自分でメモ紙を滑りこませたか、
私の身近に協力者がいてその人間に頼んだか、だ。
どちらにせよ知らない間に他人から注視されていたというのは気味が悪い。
私は窓の外を眺めて暫く頭を空にすることにする。
放課後、私は指定された場所へ足を運んだ。
そこには既に手紙の主だと思われる男子生徒が緊張した様子で佇んでいた。
顔は見たことがある気がする。同じ学年だったはずだが名前までは思い出せない。
「お待たせ。
…それで、私に何か?」
相手に無関心なのが伝わらないように普段から語調やイントネーションに気を付けているつもりだが、
自分で思っているよりもうまく笑顔を作れなかったみたいだ。相手はより強張った顔になってしまった。
普通にしていれば爽やかで整った顔をしているのに勿体ない。
どうも私はゲームで言うところの表情差分が少ない部類に当たるようである。
長年人に一定以上の好意を抱かないようにしてきたせいで、どうにも無関心になってしまうらしい。
女子に対してはそこそこ打ち解けられるのだが、男子は壊滅的だ。
ゲームのように何がきっかけで相手を好きになってしまうか分からない為、私は異性にはとことん無関心でいようと思っている。
なので異性の友人なんてこれから先、一人もできそうにない。
「君にずっと憧れていたんだ。今、彼氏もいないみたいだし俺と付き合ってほしい」
「…ごめんなさい。私、今恋愛に興味がないから付き合えない」
相手から目線を逸らし私は間髪入れずにはっきりと断る。
こういう時は曖昧な表現は避けるべきだ。
変に期待を持たせてしまったり、前向きに解釈されてOKだと勘違いされる可能性もある。
そうなると後々壮絶な日々が始まってしまう。
相手の心が病んでこちらに危害を加えたり、周囲に付き合っていると公言されて周りから固められてしまい、すぐに別れられなくなる。
…というのはどれもゲーム内で得た情報だけれど。
とはいえ、私は周りを固められても気にせず即座に誤解をとく。
私が皆にどう思われようと構わない。皆という存在自体に私が興味を持っていないからだ。
シオは姉妹だったら楽しいだろうなと思う唯一の人間だから彼女が離れていくのはつらいかもしれないけれど、
それ以外は今のところどうでもいい。
「…はっ、何だよ、やっぱり君は面食いで理想が高いって噂は本当だったんだな。
タイプでもない男には全く目もくれずにツンとする」
間髪入れずに断ったのが癪に障ったのか、彼の態度は一変した。
鋭い目線をこちらに向け薄ら笑いを浮かべている。
大人げないが、私は少しむっとした。
「貴方がそれを真実だと信じるなら、それが真実でしょうね」
今、自分がどんな顔をしているか鏡を見なくても分かった。
恐ろしく冷たい笑みだったのだろう。相手の顔がぞっとしたように歪んでいく。
そのまま一歩後ずさったのが見えた。
「――残念な女でごめんなさい」
私は相手を一瞥して踵を返した。
彼もすぐさまその場から逃げ出すように駆け出したようだ。足音がどんどん遠ざかっていく。
名前も分からず私のどこに憧れを抱いたのかも分からないまま去った男子に嫌悪感を抱くも、同時に罪悪感にも襲われた。
そして彼が口にした私の噂とやらはもっと広がるだろうなと思った。
明日から彼の周りの人間は私をああいう女だと認識するのだろう。
シオに軽口を叩かれるのと、悪意を持って噂されるのとは全然胸の痛み方が違う。
けれど人を傷つけておいて苦しむなんて許されないことだ。
それでも私はどうしてこんなにも臆病で心配性なのだろうと悔やまずにはいられない。
私が普通の女だったら「じゃあ付き合ってみる?」と軽いノリで先程の彼と交際することもあったかもしれないし、
女子らに混ざって「○○くん、格好良いよね」と騒ぐこともあったかもしれない。
それらは全てシャボン玉のように儚い夢なのだ。私がどんなに手を伸ばしても届いた時には割れてしまう。
いや、手を伸ばすことも怖くてできない。遠くから眺めて想いを馳せるくらいにしか。
何故なら私は普通の生活を手に入れることを放棄するくらいに見えない血縁者を恐れるのだから。
全く名前も思い出せないような相手に拙い告白と掌を返したかような失望を口にされて
心身ともに疲れてしまった私は気分転換にエクレールへやってきた。
エクレールは大型ショッピングビルで、中には若者に人気なブランドのテナントが揃っており、この辺では一番トレンドのスポットだ。
アパレルだけでなくカフェやレストランも注目を浴びる店舗が入っている。
しかしながら私はそれらに用はない。私が一直線に向かうのは一階隅の書店の隣にあるゲームコーナーだ。
この国では携帯型のゲームが流通している。
精子や卵子の提供者の情報を守り抜く国だ、プライバシー保護に関しては力を入れていて人に見られる恐れのない程度かつ
遊ぶことに不自由しない画面の大きさで持ち運び可能な携帯ゲーム機が流行るのも分かる気がする。
私もゲーム好きと自覚するだけあって携帯ゲーム機を持っているし、ソフトウェアも所有している。
恋愛要素のあるゲームを好むのでジャンルには拘らない。
ロールプレイングゲームやシミュレーションゲーム、アドベンチャーゲーム、ビジュアルノベルゲームなど
十把一絡げに女性向け恋愛ゲームとして楽しんでいる。
今日は特に買う予定はなく、次にどのゲームを買うかの下調べといったところだ。
新作を次々に買うほど夢中になっているというわけでもないし時間もお金も限られているので、
レビューや口コミで評価が高く世界観やキャラクターの設定に興味が持てるもの、
そして自分好みのシナリオライターやイラストレーターが参加している作品を優先的に選んでいる。
それでも全てが何もかも満足できたものばかりではない。
もう少しシステム周りが快適だったら、とか、恋愛を求めて買ったはいいがこのゲームに恋愛要素いらなかったな、などと
いち消費者いちプレイヤーとして思うことはあるのだ。勿論、世間には私とは違う感想を持っている人が多々いるとは思うが。
「ねえ、君…」
さて、どれにしようかとソフトウェアのケースを手に取り説明を読んでいると背後から声をかけられる。
怪しまれるような仕草をしたつもりはないが、私は商品を棚に戻して振り返った。
するとそこには私が通っている学校の制服を着て、どことなく似た顔の男子生徒が三人立っていた。
その中の一人は見覚えがある。
「レナード・ブリズナーくん、だっけ?」
「うん。…僕のことを覚えてたんだ、さん」
三人の中で一番切れ長な目をして冷静そうに見えるレナードが頬を緩めて笑った。
これまで特に興味を持って見ていないが最初の印象のまま美形だと思う。
「ええ、クラスメイトの顔と名前くらいは。
それで、私に何か用?」
先程の男子のことが呼び起された。顔も名前も思い出されることもなく振られた彼が少し気の毒でもある。
シオのような気さくで友達の多い女子なら、同じ学年はもとより先輩や後輩もある程度は知っていただろうに。
そんなことが頭を過る私をよそに彼は私の質問にきちんと答えた。
「熱心に見てたからゲームが好きなのかなと思って」
「ええ、好き。月に1本は買ってる」
「俺たちもよくゲームやるんだ」
「ねー。ボクらはそれぞれ好きなジャンルが違うけど基本何でも遊ぶんだ。
お互いにプレイ済みのソフト交換したりして」
私の言葉を聞き、レナードの三つ子の兄弟と思われる二人も話しかけてきた。
最初に話しかけてきた一人称が“俺”の男子は髪を短くカットしていて日に焼けた肌をしており快活そうに見える。
一方、親しげに会話に入ってきた一人称が“ボク”の男子は明るい色合いと緩いウエーブの髪の毛で三人の中では一番目が大きく童顔だ。
「あ、ごめん、名前も名乗らずに。ボクはハリソン。クラスは2−3」
「俺のクラスは2−8で、名前はルゥ。一応俺が長男、レナードが次男、ハリソンが三男なんだ。
兄弟共々よろしくな」
「ええ…よろしく」
二人をちらりと見た私の視線に気づいたのか、彼らは簡単に自己紹介をした。
特段よろしくすることもないのだが、社交辞令として私もよろしくと言っておく。
「ちゃんはどんなゲームが好きなの?」
「私は恋愛要素のあるゲームだったらどんなジャンルでも好き」
「恋愛?興味はあるんだね」
「…どういうこと?」
私が尋ねるとハリソンは「あ」という表情をした。
私とは違い、彼の表情差分は多そうである。
そんなことを考えていたら目の前の三人はばつの悪そうな顔をして「ごめん」と謝った。
「校舎裏でのこと、見てたんだ俺たち」
「ああ…」
「すぐ傍の茂みで野良猫に餌をやってたんだけど、声がしたからつい覗いちゃって最後まで見ちゃったんだ」
「そう。…別に構わない、私はね」
ハリソンがしゅんとした顔で項垂れているが、私は特に気にもしない。
人に知られてはならない重要機密を話していたわけではないし、恐らく知られて気にするのは相手だけだろう。
「こう言っては悪いけど相手は失礼な奴だったな。
緊張していたのかもしれないが、あんな告白はあり得ない」
「名前も言わなかったしね。仲が良いなら分かるけど、ちゃんは相手のこと知らないみたいだったし」
「そうね、同じ学年とは思ったけど名前も顔も未だに思い出さない。…知らない人だと思う」
「知らない相手にいきなり告白する勇気は大したもんだがな」
不思議なものでブリズナー兄弟とも今知り合ったばかりなのに同じような感覚を共有している。
先程の彼を悪者にしてしまって申し訳ない気もするが、やはり他の人にしてみてもあんな告白の仕方は気分を害しても仕方がないようだ。
「第一あの捨て台詞は何だよ。今までに振られた連中が作ったような噂を鵜呑みにして暴言吐いてさ。
君の言葉の真意もろくに考えようとしなかった。
僕は今後あいつと同じクラスになったとしても友情は育めないな」
レナードの物言いは彼が私の言いたいことに気づいているように聞こえた。
私は理想や姿形に関係なく人を愛せないのであってあの噂は真実ではない。
知らない相手に説明するつもりは端からなかったけれど、相手が知ろうとする意欲を見せたならもう少し違った対応をするつもりだった。
とはいえ、目の前に別の人間がいるのに終わったことをいつまでも引きずるわけにもいかない。
私は話を逸らす。
「…ところで校舎裏の猫ってどんな猫?」
「可愛い三毛猫なんだよ。最近、子猫が3匹生まれてさ。
母猫が痩せ細った体でうろついてたから見るに見かねてつい…ね。最初は凄い威嚇されたけどだいぶ慣れてきたんだよ。
――あっ!里親はボクらが責任もって探すからこのことは誰にも言わないでくれる?」
「分かった。言わない」
「ちゃんは猫が好きなの?」
「ええ、好き。危ない動物以外は基本どの動物も好き。
…でも母親は動物が嫌いだから私は猫を引き取れそうにないの。ごめんなさい」
「ううん、気にしないでよ。ボクらのところも引っ越しが多いし母親が体が弱いからペットは飼わないようにしてきてるんだ」
動物の話で盛り上がっているハリソンと私の横ではルゥとレナードが新作ゲームのポスターを見ていた。
ゲームが好きだと言った通り、彼らは新作ゲームについて楽しそうに話している。
「そう言えばゲームのことを聞いてた途中だったね。
女の子向けの恋愛ゲームってどんな感じなの?」
「うーん、男性向けと大して変わりはないとは思うけど…。
それぞれゲームによっても違うけど多いのは複数の攻略対象の相手がいて、その中の一人の好感度を上げて最終的に結ばれる展開かな。
ジャンルによって恋愛要素がメインになったり、サブイベント程度だったりもするけど。
でも女性向けのゲームは攻略対象がプレイヤーに最初から好印象を持っているものが多いかもしれない。
恋愛をメインにしているものは謎解きも多くないし一直線な内容が多いからゲーム性としては簡単なものが多いかな。
勿論、最近はゲーム性に富んだ恋愛抜きにしても面白いゲームはたくさん出てるけど。
…貴方はどんなジャンルのゲームが好きなの?」
「ボクは基本何でもするよ。得意なのはアクションとかシューティングとか格闘とかかな」
「アクティブね」
「そうだね。ルゥはRPGとかスポーツ系、レナードはパズルゲームとかノベルゲームとかシミュレーションゲームとかよくやってるよ」
「そう、仲が良いのね」
これまできょうだいという言葉にあまり良い印象がなかったが、彼らのように好きなものを共有できる身近な関係はいいなと思った。
とはいえきょうだいが欲しいとは思えない。思って口にした途端に現実になってしまったら困る。
目の前のブリズナー兄弟と血が繋がっている可能性もなくはないのだ。
「女子向けのゲームって色んなジャンルがあるのか?」
レナードとの会話を終えたルゥがやってきた。
ハリソンも随分親しげだと思ったが、ルゥも気さくな性格をしているようだ。
知り合ったばかりの私に自然体で接してくる。
「あるよ。RPGもあるしシミュレーション、アドベンチャー、アクション、珍しいところでパズルゲームとか格闘もある。
とはいえプレイヤーの性別が選べるっていうだけで女性向けとも言い難いゲームもあるけど」
「色んなゲームしてきたつもりだけど女子向けっていうのはなかったな。男がやっても面白い?」
「ええ、性別関係なく楽しめるだろうなって作品は結構ある。
例えばこのゲームはRPGで街ごとに恋愛イベントがあるんだけど、恋愛イベントをこなさなくてもきちんとしたエンディングがあるの。
ストーリーもシリアス多めでしっかりしてるから男性もそんなに抵抗ないと思う。
こっちのはシミュレーションだけど謎解きの要素が入っているし、これはアドベンチャーだけどマッピングシステムとミニゲームが楽しいの」
彼らがふむふむと聞いてくれるので、私は自分の気に入っているゲームを次々と紹介していった。
女子の中にもゲームをしている人はいるが、あのキャラクターが格好良いだの展開が泣けるだの
着眼点が私とは違う人が多くてあまり話し込んだことはない。
彼女らにとっても思い入れのあるゲームだろうから私個人の評価や感想をいうのは憚られる気がしたのだ。
「…ただ攻略対象が男だから、プレイヤーである貴方たちのような男の人が恋愛要素を楽しめるかどうかはちょっと保証できない」
「まあ、それはそうかもしれないけど話を聞く限り面白そうだし、に勧められた中の一つ買ってみるかな」
「ボクも試してみたくなったよ」
「僕もだ」
そう言って彼らがソフトウェアのケースを持とうとしたので私は止めた。
やはりプレイヤーが男である以上、生理的に無理だと思うこともあるだろう。
ここは勧めた私が責任を持たねばなるまい。
「私がソフト持ってるから貸すよ。少し試してみて面白そうだなと思ったら買ったら?
ゲームが合わなかったらお金が勿体ないよ。安い買い物じゃないんだから」
私がそう提案したら彼らは驚いた様子だったが喜んで受け入れた。
その後、彼らが気になるソフトをチェックして明日そのソフトを学校に持っていくと約束し私たちは別れる。
ゲームの話をしたからか落ち込んでいた気分は晴れやかなものになっていた。
翌日、朝のHR前にブリズナー兄弟が約束通り私のところへやってきた。私は手早くそれぞれにソフトを渡す。
彼らが引き揚げた後、その様子を一部始終見ていたシオは驚きつつも嬉々として話しかけてきた。
ボリュームは絞っているが興奮は隠せていない。その様子は子犬のように可愛らしい。
「ちょっと…!ブリズナー兄弟とどういう関係なの?
全然興味ないって感じだったのに」
「昨日、エクレールのゲームコーナーで会ってゲームが好きって話で盛り上がったのよ。
それで私がプレイしてる女性向けのゲームに興味があるっていうから貸すことになったの」
「へぇ、あの兄弟ってゲームが好きなんだ。インドアな趣味持ってるなんて意外かも」
「…そうなの?」
私は人に興味がない分、先入観や固定観念がないに等しい。なのでギャップがあるとか意外だと思うことはあまりない。
その時その時出会う相手が全てだと考え、別れた後はその人との会話は覚えていても人間性は忘れるようにしている。
ゲームに出てくるキャラクターのように重い過去だとか深い心の傷だとかを持っている人もいるのだろうが、
相手がそれを表に出さない以上、私はそれに気づかないように気にしないように接するのみだ。
深入りすれば相手に興味を持ってしまう。
「良い傾向じゃない。好きな話をしてるうちに惹かれていって恋愛に興味持てるようになるかもしれないわよ」
「…別に恋がしたいわけじゃないもの」
「まぁ、私も今はあんまり興味ないから無理にしろとは言わないけど、は時々何か思い詰めてる顔してるからさ、
誰か頼れる人が傍にいたら少しは楽に生きれるんじゃないかなって思って」
思いがけない言葉を受けて私ははっと息を呑んだ。
シオは私が情報を全て出していないのに私の苦悩を感じ取っている。
「ありがとう。…シオみたいな姉か妹がいたら頼もしかっただろうな」
「って一人っ子だったっけ?兄弟か姉妹がいたらもっと逞しくなってただろうけどね。
私は弟と妹がいるからか随分お節介になっちゃったわ」
いつもは無意識にしていることではあるが、今知ったシオの新たな一面をリセットしてしまうのはとても忍びない。
今のところ私の心を揺らすのは彼女しかいないのだ。彼女なら血が繋がっていても嫌だとは思わない。
しかし、もしそうなら彼女は嫌がるだろう。私に対し嫌悪を露わにする彼女を見てしまうことはとても胸の痛むことに違いない。
だから私は会話だけを記憶して新しく知ったシオをリセットする。ブリズナー兄弟もそうしたつもりだ。
――こうして何事もなく私の日常が今日もまた始まるのだ。
第3話へ進む メニューに戻る