は気持ちを落ち着けようと風呂に入ることにした。

「ふぅ。気持ちも身体もさっぱりした」

そう言いながら部屋へ戻っていると天摩が部屋の前で待っている。

「天摩…、どうしたの?」
「あ、ちゃん」

許婚がこうやって部屋に来るのは珍しい。
公平にする為に許婚からここへは来ていけないとウメ婆が言っていたが、何かあったのだろうか。

「ウメ婆ちゃんから聞いたよ。まだ誰からも精を受けてないんだって?」
「う…」

ウメ婆のアホっ!何でそんなことを話すの!?

「このままだったらちゃん、サルサラに吸収されちゃうよ?」
「…うん」

天摩が心配そうな表情でを見つめる。

「わかってる!? 本気でサルサラに吸収されちゃうんだよ!?」
「うん」
「うんって…!!」

勢いよく彼は彼女の腕を掴んだ。
その表情はとても険しい。

「俺、そんなの嫌だ!」
「天摩…っ!?」

はドンという音と共に部屋のドアに押し付けられる。

「…天摩…どうし――っ!?」

強引に重ねられた唇は湯上りの彼女とは反対にひんやりとしていた。

「んっ…!――っっ!!」

は身を捩じらせるが、両手を強く掴まれてドアに押し付けられているので全く身動きが取れない。

「っふ――っぁ!! ゃめ……天摩っ」

突然の彼の行動と息苦しさに混乱しているの目からはポロポロと涙が溢れ出した。

…怖い…っ、急に天摩が怖いよ…!
助けてサルサラ。

彼女の頭にサルサラの顔が浮かぶ。
何故、敵に助けを求めるのか自分でもよくはわからないが、確かに心の中で彼の名を呼んでいた。

「…ちゃん」

の涙に気づいた天摩が彼女の手首を解放する。
そうして痛々しい表情で俯いた。

「俺はちゃんが…好きなんだ。 
 ちゃんが幸せなら…、俺は選ばれなくても構わないって――そう、思って…。 だけど…
 このままちゃんが死んじゃうくらいなら、俺が強引にでも抱いてやるよ!」
「天摩!?」

顔を上げた天摩の目からは涙が零れていた。
きっと本当に自分のことを想ってくれているんだろうとは察知し、その気づきは同時に彼女の胸を苦しめる。

割り切る…つもりだった、いつかは。 
これも皆の為だって。 世界を救う為だって。
割り切って誰かの精を受けるつもりだった。
――だけど。

 「ボクが君を穢すよ」

これまで見てきたサルサラの顔が頭から消えない。
彼の意地悪な笑顔も、子どもの頃の誰も信じられない怯えた顔も、寒くて暗い封印の中で眠っている顔も。
彼に会う度に彼に対して親近感を覚えずにはいられない。

――私にとって彼は…特別な人なんだ。
もっと笑った顔が見たい。 もっと心を開いて欲しい。
彼の心を救いたい……。
……こんな気持ちのまま、天摩の精を受けることはできない。

「ごめん、天摩。私は…貴方とは、できない」

そう言うとは泣きながら彼のみぞおちにありったけの霊気を込めて拳を打ちつけた。

ちゃ…ん」

天摩は膝を落として、バタリと床に倒れ込む。
そんな彼を正視することができずには急いでドアを開け、部屋に入り鍵をかけた。

「ごめん…、ごめん…」

膝をついて泣きながらそう言うと、廊下から天摩の気配が消えた。
どうやら去ってくれたらしい。

…私は拒んじゃいけなかった。
ああやって私のことを好きだと言ってくれる人がいるのに、心から私を女として必要としてくれてた天摩を
私は…突き放してしまった。

天摩を傷つけたことにはショックを隠せない。
それでも自分の気持ちに嘘はつけなかった。

…サルサラ。

はもう一度、サルサラの名を呼んだ。

「ここにいるよ、

顔を上げるとの目の前にはサルサラが立っていた。

「どうかしたの?何かあった?」

そう言ってサルサラはの前に跪き彼女の顔を覗き込んだ。

「…っ…!」

サルサラの姿を見ると一気に緊張が解け、涙が溢れ出す。

?」
「サルサラ…っ」

堪えきれなくなったは彼の胸に飛び込んだ。

怖かった。
会いたかった。
貴方が来てくれて嬉しい。

いろいろな気持ちが溢れては消えていく。

…君は…ボクに救いを求めてるの?」

サルサラは呆然と呟いた。

「――馬鹿だな。敵のボクに何ができるっていうの?」
「…っ…傍に…いてくれるだけでいい…」
「…

子どものようにしがみ付くの対処が分からない為サルサラはそのまま動けずにいた。

「――何故君はそんなに…。
 …どうしてはボクを人間として扱うのさ」

苦笑しながら彼は肩越しにに問う。

「だって貴方は人間だもの」
「ボクは邪神だよ」
「でも元々は人間よ」

はサルサラの顔をじっと見据える。
そんな彼女の様子に調子を狂わされて彼はふぅ、と小さくため息をついた。

今までこんな巫女はいなかった。
これまでの巫女は接触しようとも思わなかったけれど。
しかし今回の巫女は付け入る隙があり過ぎる程、脆くて感情的だったから近づいた。
それなのにその人間的な感情を自分に向けられて、更に救いを求められても、
自分はそんな人間としての感情なんて持っていないのに。
…あっさり切り捨てればいいのだろうか。自分が昔されたように。
この小さな身体を蹴り飛ばして、唾でも吐きかければいいのだろうか。
そうすれば彼女は自分に救いを求めることはしなくなるし、きっとこの胸のよく分からないイライラも治まるに違いない。
しかし完全に彼女を突き放せば、後々取り込めなくなってしまう。
早期復活の為には、彼女は欠かせない存在なのだ。

結局サルサラは現状維持という結論に辿り着く。

「ボクの存在を論議しても何もならないよ」
「でも…私は…」

貴方を救いたい。
その邪神という枠から解放したい。

本人の前では言っていけない言葉が胸につかえる。
そうして苦しくてサルサラの顔を見ることができなくなったは彼の腕を掴んだまま俯いた。

「君が何を考えているかはわからないけど。…でも、が望むならボクは傍にいてあげるよ」
「…サルサラ…」

そう言うとそっと抱き締め、サルサラは額にキスをする。

「――ありがとう」
「またお礼?それとも癖なの?」

アハっと笑うとサルサラはの頭を撫でた。

「…嬉しいと思ったから言ったのよ」

はぷぅっと膨れる。

「…嬉しい、ね。
 ――、君はホントに…」

不思議な人間だよ。

サルサラは笑って彼女の膨れた頬を人差し指でつついた。











サルサラの心理描写が少しありましたが、まだまだサルサラさんは冷静ですね。
でも、天摩がトコトン可哀想。…天摩ルートではラブラブなのに。

さて、ぼちぼち書きたいことも書き尽くしたので、
一気に時間を進めて決戦に持って行こうかなと考えています。

そしたらサルサラの登場は増えますしね。
でも、他のルートとサルサラルートは多分エンディングが違うので
やはりサルサラ好きの方は、他の人の話を読んでから最後にサルサラルートで楽しんで頂きたいなと思います。


それでは、じれったい2人の関係は続きますが、
ここまで読んでくださってありがとうございました!!


吉永裕 (2006.2.8)



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