こんな時間に行ったら真織は迷惑がるかな。
でもきっとそれを顔には出さないだろうな。真織は優しいから。
…そんな真織の優しさを期待する私は卑怯?
「こんばんは。真織、いる?」
は庵の入り口から真織に呼びかける。
「あれ、。どうしたの?…また悩んでるとか?」
声を聞き、真織は小走りで玄関までやって来ての肩に手を置き、心配そうに顔を覗き込んだ。
「ううん。その逆。悩みをぶっ飛ばす為に真織に会いに来た」
「あはっ、そうなの?嬉しいなぁ」
少し照れながら喜ぶ真織を見ても笑顔になる。
やっぱり会いに来てよかった。
私、真織の笑顔が好きだ。
「何してたの?」
「窓から星を見てたよ。最近いろいろあって星を見上げる余裕なかったから」
「そっか。そうだよね」
そんな話をしながら部屋に入ると部屋の中は真っ暗だった。
どうやら星をよく見るために明かりを消していたらしい。
「ごめんね、電気つけるから」
「ううん、いいよそのままで。私も星見たいし」
「ホント?じゃあ一緒に見ようか」
笑顔になった真織はの手を引いて窓辺に行く。
田舎なだけあって明かりが少なく、星空がよく見えた。
「はチャイラにいた頃は星とかよく見えた?」
「うん、見えたよ!人里離れた山奥に篭ってたから、ごろんって寝転ぶと流れ星がいっぱい見えて綺麗だったよ」
「凄いなぁ…。僕も今度行ってみようかな」
「じゃあ2人で旅行しよっか?私、案内するよ!…といっても山の周辺しか知らないけど」
「うん。臨邪期が終わったら行こうか」
「やった!」
は真織の腕に抱きつく。
彼は優しく微笑み、もう片方の手での髪をそっと撫でた。
その感触が気持ちよくては目を閉じて真織の肩に自分の頭を乗せる。
いつの間に私はこんな風に甘えるようになったんだろう。
1人でも生きていける強さを持たなければと思って精一杯何でも言われた通りにやって来た。
いや、言われた以上のことをしなければ期待に応えられないから、それ以上のことをしようといつでも強がって踏ん張ってきた。
なのにここに戻ってからの私はすっかり弱くなってしまった。
すぐに不安になって、迷って。
そして真織から差し出された手を取った時から、私は彼の前ではただの女になってしまった。
は真織の腕をギュウッと抱き締める。
「どうしたの?寒い?」
「ううん。――真織のこと、ホントに好きだなーって思って」
「…」
幸せそうに微笑むに真織は見惚れるが、優しく彼女の頬を撫でて額にキスをした。
「僕も好きだよ。好き過ぎて時々怖くなるくらい」
「怖い?」
「うん。が誰かを好きになったらどうしよう。このまま放したくない。壊れるくらい抱き締めてしまいたい。
…そんな思いで胸がいっぱいになるんだ」
「真織…」
は苦笑する真織の頬にそっと触れる。
可愛い。愛しい。どこか頼もしくてホッとする。
…そんな真織に自分がそのように思われているのが嬉しかった。
「放さないで。ギュッと抱き締めて」
「――」
その言葉で何かが弾けたように真織はを抱き締め、その唇に深いキスを落とした。
唇は放れようとせず、もっともっとと彼女の熱を求めてくる。
息をすることもできない程の激しさと痺れるそうな程の甘美な刺激には眩暈がしそうだった。
「…まお…り…」
「…ごめん、。…でも…もっと君を近くに感じたい」
「…うん」
苦しい程に抱き締めて、真織はの耳元で想いを吐き出す。
その想いには胸を打たれてコクリと頷いた。
「――。ホントに…大丈夫?」
「…うん」
2人は何も纏わぬ姿でベッドにいる。
「っ…あぁでもどうしよう…恥ずかしい…」
「大丈夫。僕に全部任せて?は力を抜いてて」
「うん…」
真織がそっと自分の胸を隠していたの手を解いていく。
「っは…っぁ…」
優しく揉むように胸を触られ、先端に吸い付かれる。
「んんっ…やぁ…あっ」
力を抜いてと言われたが、感じたことの無い快感に怖くなり、はギュッと真織の背中を抱き締めた。
しかし力を込めたくても次第に身体から力が抜けてくる。
「…綺麗だよ」
「やだ…見ないで…」
自分がどんな顔をしているのか想像もつかない程の恥ずかしさではプイっと横を向いた。
そんな彼女の横顔に真織は軽くキスをする。
「あ…っ…」
彼の唇は頬からの全身へと落とされていく。
首、胸、腰、太もも、足首…。
くすぐったいような恥ずかしいような、よくわからない感覚がをゾクゾクと刺激した。
そしてその感覚がの下半身へ集まっていく。
「っああっゃ…ん…だめぇっ…」
細い指がの敏感な部分に触れた。
真織の指が滑らかに動くのが身体が溶けてしまうのではないかという程感じてしまう。
その時、ふっと以前話したことを思い出した。
例の、修行のことである。
相手を好きとか好きじゃないとか、そんなのは別としても…でも…ちょっと哀しいな。
好きな人が今まで沢山の女の人を抱いてきたなんて。
「…っ…あ…っ…ま、真織…」
「何?」
「…あの……っ…他の人にも…同じようなことしたの…?」
「…」
真織の手がピタリと止まる。
「…僕の性的な修行のこと、気にしてる…よね?」
「…ちょっとだけ。その相手の人にヤキモチは焼いちゃうかもしれないけど…」
「そう…だよね。――親に反抗できなかった僕が悪いんだ。ごめんね」
「ううん!真織を責めてるんじゃないの」
真織が親の言いなりになっていたことを悔やんでいるのを知ってしまった以上、
自分がそんなことを思い出させてはいけないと思い、は慌てて首を振った。
「私のこと…誰よりも好き?」
「うん。誰よりも好きだよ。
――こんなに好きになるなんて、幼かったあの頃は想像もつかなかった」
「あの頃って、同じ道場に通ってた3、4歳の頃?」
「うん。あの頃は好きとかいう感情はよく分からなくて、でもただ呆然とに見惚れてたんだ。
いつも前向きで明るくて元気に強くなろうとするは凄く眩しかった。
僕が修行が嫌で道場から逃げて泣いている時も、君はすぐに飛んできて僕を探し出してくれた。
そして優しく慰めてくれて、飴玉を1つくれて……、僕にとっては神様よりも確かな救いの存在だったんだよ、は」
「真織…」
ちらっとこちらをみて真織がはにかむ。
「僕が正式な婚約者と知った時、凄く嬉しかったんだ。
それからは君が道場を去る時にくれたお守りの石を眺めて過ごしてた。
あの仄かな想いと君への感謝を忘れないように」
「…あ…あの石、ずっと持っててくれたの?」
「うん。僕の宝物だから」
そう言って真織はベッドの引き出しから石を取り出した。
お守りとは言うものの効果が期待できるモノではなく、が裏山で見つけ気に入っていたもので、
ただのツルツルしたピンク色の石である。
「だからね、があの頃よりもっと素敵になってたから再会した瞬間、好きだって思ったよ。
他の3人じゃなくて僕を選んでくれないかなって願ってた」
「真織…」
は優しく笑みを浮かべる真織を見つめる。
そんなにまで想い続けてくれていたなんて。
こんなにも愛して貰っているなんて。
「私は幸せ者だね。…ありがとう」
「…」
涙を滲ませながら微笑むを見て、そっと真織は彼女を抱き寄せた。
「ありがとうは僕の方。好きになってくれてありがとう」
「真織…」
は真織の背中に手を回し、そっとキスをした。
「…?」
「…」
真織の腕に抱かれては眠っていた。
初めてのことでいろいろ疲れたらしい。
しかし眠れるのなら破瓜した痛みはもう収まったのだろう、と真織はホッと胸をなでおろした。
愛しくて愛しくて仕方がない。
とひとつになってからは尚更想いが大きくなっていく。
そんな自分ではどうしようもない感情に少し不安になりながらも、真織は目の前のを何があっても守ろうと心に誓った。
「…愛してるよ、」
そっとの瞼にキスをして、真織も瞳を閉じる。
すると真織の瞼の裏に満天の星空が浮かぶ。
――いつか、一緒に星を見に行こう。
星の下で今のようにをこの腕に抱き、一緒に空を眺めている姿を思いながら真織も眠りについた。
がっつきまくりの真織ですみません。
しかもあまり性描写なし。…ごめんなさい。
真織はウサギのイメージです。
弱々しくそういうことに興味を持っていないような感じに見えて…ねぇ、みたいな。
それにしても、ついに一線を越えてしまいましたので、
次回からどういう展開にしようかなぁ…と考え中です。
それでは、皆様、こんな真織に会いにきてくださってありがとうございました!!
吉永裕 (2006.2.8)
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