「…天摩に会いたい」
いつでも自分を元気にしてくれる人。
幸せな気持ちにさせてくれる人。
…こんなにも私は天摩に救われているのに、私は誰一人救うことができないのか。
何て無力なんだろう。
『コンコン』
落ち込みながらは天摩の部屋のドアをノックした。
しかし返事がない。
まだ寝ているのだろうか、身体の調子がまだ戻っていないのだろうか――
心配になったはドアをそっと開けると、部屋の中に天摩はいなかった。
…出かけた…のかな?でもいつも履いてる靴はあった気がするけど。
不思議に思いながらは天摩の部屋に入る。
「勝手にお邪魔しますよ〜」
トーンを落としながらそう言うとは天摩の部屋をぐるりと見回した。
最低限の物しか置いていなかった庵だけれど、今ではすっかり天摩色に染まってしまっている。
それでも彼はいつも山に篭っているので、他の人たちよりは持ち込んだ荷物は少ないけれど。
「…これ…何だろう。――ノート…?」
本が皆無に近く、その代わり可愛い人形や意味の分からないオブジェなどが並んでいる本棚に
ひっそりと立っている薄いノートのようなものが3冊。
1冊はノートであとの2冊はアルバムのようだ。
見てみたいというのと、見てはいけないという気持ちがの中で混ざり合う。
…じゃあノートだけでも見ようかな…。
そうしては誘惑に負けてノートを開いた。
「何これ!」
半怒り状態で言葉が出る。
の開いたノートには、天摩と可愛い女の子が2ショットで映った小さい写真のようなシールが沢山張られていた。
「しかも皆違う女の子だしっ!」
ふざけんなっ!とは咄嗟にカッとなる。
女の子が好きでしょっちゅう遊んでたっていうのは分かっていたけれど…。
こうやって記録に残されるとちょっと凹むというか腹が立つ。
見たこともない女の子たちに嫉妬する自分も情けないけれど
やはりこの焦げるような想いのやり所がなくてはノートを最後まで見ることもできずに放り出した。
…天摩は私のことを好きって言ってくれてるけど、これからもああいう所は変わらないんだろうなぁ。
彼の性分に理解はできても、受け入れることはなかなかできない。
「…って、今日はいろいろ話したいから来たんだった」
ひとまず冷静さを取り戻し、は先程放り投げたノートを拾って本棚に戻す。
そして机の上にあった見ていないアルバムも本棚に戻そうと取り上げた瞬間、ガチャと音が鳴ってドアが開いた。
「…」
「…」
互いに目が合って、その目線は目から他の所へ移動する。
「「…っわー!!」」
次の瞬間、2人とも何故か叫んでいた。
天摩はの持っているアルバムを見て。
は天摩の上半身裸の状態を見て。
「なっ、何でそんなもの持ってるの!? 見たっ!?」
「見てないけど。っていうか何でそんな恰好なの!?」
は慌てて後ろを向く。
「俺は風呂上りだよ。…よかった、下履いてて。
履いてなかったら今頃ちゃんに蹴り飛ばされてただろうね」
そんなことを言いながら天摩はに近づいてきた。
「ちゃん、それ返して☆」
「…これ、アルバムよね?」
「うん、そうだよ。だから返して☆」
どこか必死さを感じさせる天摩の声を聞いては振り向く。
すると見るからに作った笑顔をする彼がそこにいた。
「…なんかやばいものでも写ってるの?あのノートみたいにいろんな女の子とか」
「う…。そっちは見たんだ…」
苦笑する天摩を見て、このアルバムには更に凄いものが入っているのかと興味よりも不安を覚える。
「…まだ見てないから安心してよ。今日は暴れる気分じゃないの」
このままでは強がってアルバムを見てしまいそうだったので、冷静に考えてはアルバムを天摩に返した。
「…そういえば顔色あんまりよくないね。どうかした?」
「…悲しい夢見て、気分が落ち込んで、そしたらイロハちゃんが来た」
「???一気にまとめて言われてもよくわからないけど……ハイ、こっち来て」
天摩は自分から目を逸らしたまま話すの腰に手を回して自分に引き寄せる。
「な、何!?」
風呂上りで火照った天摩の体温を至近距離で感じて私の方がのぼせてしまいそうだ。
髪から滴る水が身体をつたう様子にも、そっと私の髪を撫でる彼の表情にも、彼の全てに色気を感じてしまう。
「まずは元気になりましょう☆」
目が合うと天摩はチュッと軽くキスをした。
「――っ!!」
は元気になるというよりも動揺してしまう。
「元気になった?顔色は良くなったけど☆」
「う、うん」
確かに天摩と接することで精神的な疲労は和らいだ気がする。
だけど顔色は…天摩のせいだよ。
「それで?何かあったの?気分が落ち込むとか、イロハちゃんがどうとか…」
「うん…。それが…」
それまでの高調した感情が一気に落ちる。
そんなの様子を察知したのか、天摩は彼女を離して「真剣に聞きたいから」と服を着始めた。
「…はぁ、なるほどね。ちゃんらしいや」
天摩は複雑な表情をしながらも笑顔を見せた。
「そうやって人の苦しみも背負っちゃう所なんて、ホント、ちゃんだよねーって感じ」
そう言って天摩はベッドに手を広げて寝転ぶ。
「それって馬鹿にしてるでしょ…」
「いや、そういうトコを尊敬してるんだよ!」
の溜息と共に、彼はガバッと起き上がった。
「人の痛みを感じれる人って、凄い優しい人だと思うよ。 しようと思ってできることじゃないし。
やっぱり、それはその人の一種の才能っていうか……その人の優しい心が無意識のうちにそうさせるんだと思うし。
俺はちゃんのそういうところが好きだもん!あ、ちょっと話がずれちゃったけど。
もし、その夢が事実だとしたらさ、ちゃんみたいな人が彼の周りにいたら
サルサラという邪神は生まれなかったかもしれないじゃない?
――だからちゃんのそういう所って凄いと思う」
弾けるような無邪気な笑顔を向ける天摩には見惚れた。
こういう考え方ができる彼を心から尊敬する。
「でもね、だからってちゃんが元気じゃなくなったら駄目なんだよ」
「…?」
急に天摩がパッと真剣な表情になり、の手を握る。
「ちゃんが暗い気持ちに引き込まれていったらそれこそ向こうの思うつぼでしょ?
そしたら誰も救えないし、もっと多くの人が苦しむことになる」
「…うん」
「だからちゃんが元気でいれば、きっと全て上手くいくよ。
ちゃんの霊気が強ければ強いほど、サルサラたちには効果があるんだから。
そのちゃんの霊気を高める為には、ちゃんが自身が強くならなきゃ、でしょ?」
「うん」
心が少しずつ軽くなってくるのを感じる。
「先が見えなくて不安になるのはわかるけど、でも、前向きに笑っていようよ。
クヨクヨするよりずっといい解決策だと俺は思うな」
「…うん」
「あ、でも無理して苦しいのを我慢しろっていうわけじゃないよ?
泣きたい時はうんと泣いて、それで気分が落ち着いたらまた、笑えばいいんだから。
だからね――」
天摩はそっとを抱き締める。
「泣いていいよ?」
「…天摩…」
は穏やかな天摩の言葉で身体の力を一気に抜いた。
「まだ、苦しさ出し切れてないみたいだから」
ポンポンと背中を撫でるように叩く天摩の肩に頭を乗せる。
微かに香る石鹸の香りも、額にそっと口づけするその唇も、全てが優しく感じられた。
彼の温もりが静かに涙を流すを包む。
「ありがと、天摩…」
他の皆はしんみりしているのに、何故か天摩はこんな感じになっちゃってすみません。
危うく最初の展開のまま、主人公が凹んだ話にならずに終わってしまう所でした。
さすがにそれでは次回の統一ストーリーに支障をきたす恐れがあるので(といってもまだ詳しく考えていませんが)
無理矢理、天摩にも凹んでもらいました。
でも彼らしいまとめ方です。
段々物語の収集がつかなくなってきておりますが、
何とか終わらせますので、これからも宜しくお願い致します。
吉永裕 (2006.2.2)
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