「…真織に会いたい」
身体の力は戻ってきつつあるが、次々と不安が浮かんでくる。
救いたいのに救えない。
そんな無力な自分が悔しくて情けない。
どうすればサルサラも伊絽波も救い出すことができるのだろうか。
「あ、。どうしたの?
――何か具合悪い?顔色が悪いけど…」
いろいろなことを考えるうちにいつの間にか真織の庵のドアをノックしていたらしい。
「…真織…起きても大丈夫…なの?」
話したいことは山ほどあったが、すぐには出てこない。
は咄嗟に普通の言葉を出してしまう。
「うん。もう大丈夫だよ。どうぞ、入って?」
「うん。…よかった、元気になって」
そう言ってが彼の部屋に入ると、海のBGMが流れていた。
「海…」
は真織の用意してくれた座布団に座りながら呆然と呟く。
「うん。自然界の音聞くと何か癒される気がして。はこういうの嫌い?」
「ううん。好きよ。海、好きだし……」
「…、どうしたの?」
はらりと涙を流した彼女を真織は心配して覗き込む。
「……私って…ちっぽけな存在だね…」
静かな波の音に、優しい真織の声に、の感情の針は完全に振り切れてしまった。
「…?」
の言っている意味は分からなかったが、穏やかに真織は微笑む。
「――、おいで」
真織は静かにゆっくりと手を広げてを呼んだ。
その温かい声と笑顔に引き寄せられる。
目の前に子どものようにちょこんと座り、ポロポロ涙を流しながら自分を見つめる彼女を真織はそっと抱き締める。
「何かあった?」
「…っぅ…」
は泣きながら彼の肩に手を回した。
そして気持ちを落ち着かせるように努めながらゆっくりと夢のことやサルサラや伊絽波のことを話し始める。
「…うん……うん…」
真織はそんなの気持ちを汲み取るように相槌を入れて話を聞いた。
彼の声や優しい気持ちはの心に響き、染み入るように広がっていく。
「…救いたいんだね、は彼らを」
「うん…」
「でもどうしたらいいのか分からないから、苦しんでるんだね」
「…っ…ぅ…」
言葉にならずに頷くだけの彼女の背中を真織はそっと撫でる。
そんな彼の肩をはギュッと抱き締めた。
「――いろいろやってみようよ、。もしかしたら話せば分かってくれるかもしれない。
それで駄目なら、邪気を奪えば正気に戻るかもしれない」
「…」
「攻撃を与えなければ和解できないなんて悲しいけど、
でもそれで彼らを救えることになるなら、戦うことも1つの選択でもあるんだよ」
「…うん…」
そうだ。
助ける手段が分からないからといって不安から逃げてはいけない。
ちゃんと対峙しなければ。不安や恐怖と。伊絽波やサルサラと。
話し合えればそれに越したことはないが、それでも駄目なら戦うことも厭わない覚悟が必要だ。
戦いを正当化したいわけじゃない。…でも、戦うことで救えることもあるのかもしれないから。
戦うことで私の霊気を彼らにぶつけたら、もしかしたら彼らの邪気を少しでも浄化できるかもしれないから。
「…ありがと、真織」
の顔には薄っすら笑顔が浮かんでいた。
「ちょっと元気になった?」
「うん」
「そっか。よかった」
そう言うと真織は身体を放しての頬についた涙の跡を拭いていく。
「でもね、真織。――もう少しだけ…」
このまま抱き締めていて。
はそう言って真織の胸に身体を預ける。
「僕が傍にいるからね、」
「うん…」
そんなを大切そうに真織は抱き締めた。
何だか今回は大人な真織です。
第6話で素になったもんだからそれが尾を引いてるみたいですね。
でも年下が年上に「おいで」って言うのが凄い。だけどそれがこの話の一番最初に浮かんだシーンだったものですから
口調を変えたくなくてそのまま使いました。
きっとこれからはもっと男らしくなるのではないかと。(だって残すのは性交渉と決戦だし)
でもきっとそんな複雑な絵は描けないです。まず裸が描けませんから…。
段々物語の収集がつかなくなってきておりますが、
何とか終わらせますので、これからも宜しくお願い致します。
吉永裕 (2006.2.2)
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