「…伊吹兄に会いたい」

伊絽波が来たことだし、今後のことを伊吹に相談しなければと、は伊吹の庵へと向かうことにした。
しかし、伊絽波のことで動揺させたら伊吹の身体に悪いかもしれないと
いろいろなことに不安を抱き重い気持ちでドアをノックする。
すると中から「入っていいぞ〜?」と能天気な声が聞こえた。

「お、。今日も見舞いに来てくれたのか?」
「…うん」

部屋に入ると伊吹はベッドにまだ寝ていたが、顔色もよくなったし、どうやら元気になってきたように見える。

「何かお前の方が元気がないみたいだが…何かあったのか?」
「うん、まぁ…ちょっと」

はベッドサイドに椅子を持ってきてそれに座ったが、何から話そうか迷っていた。

まずは夢を見たこと。それでサルサラをどうにかして救えないかと思うようになったこと。
そして先程来た伊絽波のこと。

頭の中で整理して話さないと、伝えたいことまで伝わらない気がした。
冷静に話すには、あまりにも内容の濃いことばかりだから予め心の準備をしておかなければ
きっと話の途中で感情的になってしまう。
そうしたらきっと伊吹を困らせるだろう。
ただでさえ、伊絽波のことで気を揉んでいる伊吹をこれ以上、自分の為に気を遣わせることはどうしても避けたかった。

「…?」

あまりにも真剣な顔をして黙り込んでいるに伊吹は心配そうに呼びかける。

「あ、ごめんなさい。考え事してて」
「考え事?」
「うん。――あのね…」

そうしては努めて冷静に、心をモヤモヤさせる原因を話し始めた。


 「…ふぅ。――まぁ、何ていうかさ。お前って優し過ぎるんだよな」

の話を黙って聞いていた伊吹が深く息をついた。

「…そんなことないよ」

は話したいことを吐き出して頭の中はすっきりしたものの、話す途中で夢の映像が再び蘇ったり、
伊絽波のことを聞いて厳しい表情になる伊吹を見ると苦しくなったりしたこともあり、
結局、心が乱れて身体が重くダルい状態になっていた。

「…、何か苦しそうだな。こっち来いよ」
「こっちって?」

伊吹の手招きにつられては椅子からベッドに腰を移すと、「こっち」と伊吹が布団を上げて待っていた。

「え!? いや、別に私は病人じゃないから…」
「まぁ、そう言うなって。この前一緒に寝ただろ?」
「だってあの時は…」

まだ伊吹兄のこと、男としてはっきり意識していなかったし
思いっきり私、睡魔に負けて記憶がなかったし…。

と思っていると、の腰をグイっと掴んで伊吹が布団の中に引きずり込んできた。

「ちょっと伊吹兄!病人が何してんのよ!?」

身体が重かったことも忘れ、動揺しまくる

「いいだろ。を腕枕したかったんだよ」

そう言って彼がの首の下に左手を置く。
そんなことをアップで言われてしまったは断ることもできずに伊吹の腕に遠慮しながらも頭を乗せた。

『トクン・トクン』

聞こえてくる彼の鼓動には次第に落ち着いていく。

「――伊吹兄を近くに感じる」

愛する人の温もりはこんなに癒されるものだったのか。
は温まっていく自分の心に喜びを感じながら伊吹を見上げた。

「俺が守るから…は笑って傍にいろよな。
 きっとの思いは通じるよ。伊絽波にも、もしかしたらサルサラにもな…」
「…うん…――っって伊吹兄!?」

ロマンチックな台詞に酔っていたのも束の間、彼女の頭を撫でていた伊吹の手は移動して腰を触っていた。

「どこ触ってんの!?」
「腰」

いや、それはわかるけど…。今の台詞は「止めろ」という意味です。

「やっ…くすぐったいっ!」

が逃げようとするが、腕枕をしている伊吹の左手がの肩をグッと掴んで放さない。
そしてもう片方の手はゆっくりと彼女の腰をさすり続ける。

の身体、凄い締まってるな。……これちょっと鍛え過ぎじゃないのか?」

半ば呆れ気味で伊吹が言った。

う…。どうせ筋肉まみれですよ、私の身体なんて。
この十数年、修行で体術ばかりやってましたから。
自分でも鏡を見て凹むこともあるのだ。

「あ、でも肉自体は柔いな」

軽い口調で伊吹がのヒップにまで手を伸ばす。

ちょっとちょっと!? そんなトコ触るなんて…っ!

「やだっ!! 伊吹兄の馬鹿!エッチ!!」

は思いがけない伊吹の行動に反射的に霊気を手に集中させ、彼の手を掴み捻りあげた。

「いててててっ!! おい、!? マジで止めてくれ…!」

青ざめて懇願する伊吹の顔を見てはやっと我に返り、ふうっと深呼吸して霊気を収め、彼の腕を解放してやる。

「おいたが過ぎるわよ」

はジロッと伊吹を睨んだ。

「…ご、ごめんって。つい理性が本能を押さえきれずに…」
「冷静そうに見えましたけどね」

ばつの悪そうに謝る伊吹に背を向け、はベッドの上に正座する。
そんな彼女をを伊吹はグッと後ろから抱き締め、口を開いた。

「冷静ぶらないと本気でお前を…」

『ドキっ』

伊吹の濁らす言葉での心臓は大きく脈を打った。

「――無理強いはしたくないから…待つつもりだけどな。
 でも…もしがいつか受け入れてくれるんなら、覚悟はしといてくれよな。
 その…俺もそこまでできた人間じゃないから…」

照れているのだろうか。伊吹の言葉が所々で詰まっている。

「…そういうことになったら、男の本能丸出しになるかもしれないってこと…」

そう言うと伊吹は優しくの首筋にそっとキスを落とした。

「…努力、します…」

伊吹と接した背中から身体全体に熱が広がっていくのを感じながらは俯いて一言発した。







段々伊吹が崩れたキャラになっているような気がしますが…。
伊吹のプロフィールを考えるうちに、
彼はエロだ、ということが判明したので、今回は天摩以上のことをさせてみました。


段々物語の収集がつかなくなってきておりますが、
何とか終わらせますので、これからも宜しくお願い致します。


吉永裕 (2006.2.2)



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