「…葉月に会いたい」

無性に葉月の顔が見たくなった。
サルサラの境遇が、葉月の境遇ととても似ていたから…。
サルサラを救う前に、愛する彼を救うことができるのだろうか。
一緒に生きていくことを決めたけれど、葉月はきっと呪いが解けなければずっと苦しむことになるだろうから。

世界なんて漠然としたものよりも、貴方という唯一の存在を守りたい、救いたい。
――葉月…。

『コンコン』

はゆっくりとドアをノックする。
多分、まだ身体がだるくて寝ているだろうと思いは返事を待たずにドアを開けた。
するとベッドに葉月の姿はない。

「葉月…?」
「どうしたの、?」

ベッドに向かって呼びかけるを不思議そうに見ながら机に向かっていた葉月が振り返る。

「ちょっと、何してるの!? まだ寝てなきゃ!」

は今までの暗い気持ちも吹っ飛び、葉月の元へ駆け寄った。

「身体はもう平気だよ。結界が効いてるんじゃないかな。 それより溜まった仕事を片付けないと…」
「…仕事って…」

そうやってまた、1人で全部抱え込むの?
何ともないような顔して、感情を私以外の人には見せもせずに?

「――どうして、葉月はそうなの?何で仕事ばっかり…。 そんなの大人の人に任せればいいじゃない」
「大人って言っても俺ももう18歳になったし、変わらないでしょ。 それにさ、俺には――この仕事しかないから」

葉月はに背中を向けて仕事を続けた。

「この仕事があるから、俺はここに置いてもらえる。 仕事をしなきゃ俺は完全に用無しじゃない」
「そんなこと!! そんなこと、ない…」

は顔を覆いながら流れ出した涙を拭う。

葉月がいるだけで私はこんなにも強くなれるのに。
こんなにも救われているのに…。

「――私は誰も救えない。…なんて無力なんだろう」

のポロリと出た言葉に葉月の手が止まった。

「…どうしたの?
 は俺を救ってくれた。それに世界だって救える存在でしょ?」

葉月は顔を覆っていた彼女の手を優しく解き、顔を覗き込む。

「葉月、私ね…」

葉月も、イロハちゃんも、サルサラも、皆を救いたいの。
誰かを救う為に誰かを犠牲になんてしたくないから。
だってその痛みは私、よくわかるもの。
私だって、一般人から見たら特殊な力を持つ化け物だから。
サルサラの気持ちがわからなくないのよ。
だから、サルサラも苦しみから救い出したい。

「…私は巫女失格…?」

夢のことも、伊絽波のことも、全て話したは葉月の顔を見れずにただ俯いていた。

「敵のことをこんな風に思うなんて、やっぱり私、駄目な人間なのかな…」
「…確かに敵に同情するのは判断力が落ちるし良くないと思うよ。 でもね――」

穏やかに微笑んで彼はポンとの頭に手を乗せる。

のそういう所、嫌いじゃないよ。――危なっかしいけど」
「――っ…」

そんな葉月の言葉に今までの不安から一気に解き放たれて、は彼の胸に顔を埋めて声を上げて泣いた。

「…私、何とかするから。イロハちゃんのことも、サルサラのことも、勿論葉月のことも」
「そんなに思いつめなくても大丈夫だよ。は元気に笑ってたらいい。
 が悩んで心を乱せば乱す程、奴らは喜ぶんだから」
「でも――」
「黙って」

囁くように一言発すると、葉月はの腕をグッと掴む。

「今は俺のことだけ考えて?」
「…うん」

そう言うとと葉月は引力で引き寄せられているかように唇を近づけ、そっと重ねた。










いつもいつも葉月は絵のシーン(私の一番書きたいシーン)まで持っていくまでに
話が長くなってしまいます。
余談ですが「ヅキー!!! よくぞここまで成長した!」と思えるのがこの話です^^;
自己肯定感のないヅキさん。自分に自信がありません。
それなのに「今は俺のことだけ…」って!
…ヅキ、ホントによかったね…。と親の心境で見ている私です(;´▽`A``

段々物語の収集がつかなくなってきておりますが、
何とか終わらせますので、これからも宜しくお願い致します。


吉永裕 (2006.2.2)




次に進む      メニューに戻る