第7話 とてもとても昔のそれはそれは哀しい物語(前編)
「…なみだが……あふれる…」
――それは長い長い夢でした。
以前、見たような自分自身が魘される程のモノではなく、古い映画のような、絵本のような、そんな光景を見る夢。
私はその夢に出てくる人たちや物事と全く接触しようもないくらい遠く離れた場所にいて。
でも、そんな客観的に見ているにも関わらず、それはとても苦しくて哀しくて切ない夢――
その日は不気味な風が吹き、激しい雨が家の窓や壁を叩きつけるように降っていた。
「おぎゃおぎゃ…っ!」
「…む…?な、何じゃ…?」
その夜、ジッカラートのある小さな村に男の子が生まれた。
一族を未来へと繋いでいく望むべき男児。
しかし、その男児を取り上げた産婆はその男児を生まれたばかりだというのに放り投げてしまう。
「何をするんだ!?」
慌てて父親が赤子を拾い上げるが、彼もすぐに手を離した。
赤子からは火傷するかのような高熱が発されていたのだ。
しかし、赤子自身は熱で苦しむ様子もなく、元気に泣き叫んでいる。
――その時から、この赤子は何かが違うとその場にいた者全員が思うことになった。
あ…、また苛められてる…。
は目の前で小さく丸まって倒れている少年を見つめた。
彼の手や足にはミミズ腫れが多く見られる。
その痕がどうしてできたのか、いつできたのか、は全部、知っていた。
――あの嵐のような日に生まれた赤子は、強い力を持っていた。
物質を曲げたり、燃やしたり、爆発させたりする不思議な力。
その力を彼自身も理解できていなかった。
あまりにも強大な力は彼に舵を取らせようとせず、彼の意思にかかわらずその力は発動された。
そんな彼は、両親からも、親族からも、近所の人たちからも異常な目で見られ、
名前も愛情も与えられず、その代わりに身を切るような暴言と冷たい目線、
そして不可思議な力を持つ子どもに対する恐怖は激しい拳となって、毎日毎日、幼い彼に降り注がれた。
少年は自分の力を呪った。
親にすら愛されない自分を悲しみ、憎み、周りの人間を恐れた。
毎日が闇のようだった。冷たくて怖い漆黒の闇。
それを何年も味わい、自分には光が全く差さないとわかってしまった彼は次第に悲しみという感情を失い、
周りの人間に対する恐怖を憎しみへと変えていった。
そして殴られれば殴られる程、彼の人間へ対する憎悪は育っていき、
彼の手から自由に放てるようになった炎は次第に赤から黒き業火の炎になっていた。
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