――天摩はどうしてるだろう。

「会いに行くだけなら大丈夫だよね」

そうしては天摩の見舞いに行くことにした。


 いつも明るい天摩が苦しそうに寝ているのが辛い。
どんなに苦しい修行でも、私の前ではそんな顔は見せない天摩。
何があっても「大丈夫だって!」と私の肩を叩いてくれた天摩が
今、目の前で苦しんでいるのに、自分は彼に何もしてあげられない。
…こんなに無念なことってない。

「…天摩」

そっと彼の名を呼んでみる。
すると少しだけ表情が和らいだように見えた。

「…私、傍にいるよ」

そう言って彼の手を握る。
2日前、氷のように冷たかった手だが、今では温もりを感じられる。
それだけでホッとした。

「…ちゃん…?」
「そうだよ」

掠れがちな声が聞こえ、咄嗟に返事をする。
完全に覚醒した天摩はホッとした様子でこちらを見た。

「…心配かけちゃったね。ごめん」
「私の方こそ何もできなくて…ごめん」
「全然。 ちゃんの手、温かいよ。すっごい幸せ感じてるし!」
「天摩…」

こんな時でも笑顔の天摩に、の心は和らぎながらも痛々しさを感じずにはいられなかった。

「もっと苦しいとか、辛いとか、言ってもいいんだよ…?」
「…ちゃん」
「無理して笑わなくていいんだよ?」

そっと天摩の額に触れる。

「そんなの…かっこ悪いじゃん」
「恰好悪くなんてないよ。好きな人が無理して笑ってるの見る私の方が辛い」
ちゃん…」

呆然とこちらを見ていた天摩がフッと笑い、その後、真剣な表情になる。

「……すっげー嫌な夢見た。 苦しくて、周りが全部真っ暗で、俺は独りぼっちで…。
 ――ちゃんが傍にいなくて怖かった」
「…うん」
「でも、もう夢から覚めたから大丈夫。
 ちゃんの顔見るだけで俺は幸せになれるんだ。 勝手に笑顔になるんだよ」

そう言うと天摩はウインクして笑ってみせた。

「しかもちゃんに好きって言われちゃったし。今、すっごく嬉しいよ、俺」
「天摩…」

好き。 目の前で微笑む天摩が好きだ。
こうやっていつでも明るく前向きな天摩だから、いつでも私を真っ直ぐに愛してくれる天摩だから好きなんだ。
こんなにも、人を愛することが幸せなことだなんて。
こんなにも愛されることが幸せだなんて……。

の目から涙が溢れた。

「…私も、幸せだよ。 大好きな天摩が笑ってるから」

はそう言うと、少し乾いた天摩の唇にキスをした。








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