――真織はどうしてるだろう。
「会いに行くだけだったら大丈夫だよね」
そうしては真織の見舞いに行くことにした。
苦しそうな顔。
嫌な夢でも見ているのか、それとも身体がまだ辛いのか…。
は真織の傍に腰を下ろす。
「真織…」
そっと彼の手を握った。
邪気を入れられた時は冷え切っていた身体が、今は熱っぽい。
きっと風邪を引いた時など身体の中の菌を排除する為に熱が出るように、
邪気を浄化する為にエネルギーを必要としているのだろう。
「…う…」
少し唸って真織がギュッと手を握り返してきた。
するとピクッと瞼が動く。
「…っあ…!? ――…かぁ」
「大丈夫?」
「うん」
そう言うと目覚めたばかりというのに真織は優しく微笑んだ。
優しくというよりも、力なくという方が適切かもしれない。
「苦しかった?…そんな顔して寝てた」
「そうだね。苦しいというか、怖いというか…よく分からない恐怖に怯えてた」
暗い表情で彼は起き上がり、珍しく「ふー」とため息をついた。
「僕はきっと、誰かに失望されるのが怖いんだ。だからあんな夢を…」
「真織…?」
彼の顔を覗き込むとその瞳はどこか不安げに揺れていた。
「僕ね、いつも兄様と比べられていたんだ。
兄様は僕ら一族の掟とか、決まりとか、そういうのを凄く嫌って僕が10歳の時に家から出て行ったんだよ。
だから両親は必要以上に僕に期待するようになっちゃってさ」
苦々しい表情で真織は話し続ける。
「でもね、僕は嬉しかったんだ。両親が僕のこと、やっと見てくれたから」
「…」
…何となく、真織の気持ちわかるかも。
私も見て欲しいって思ってたから。
巫女としてじゃなく、普通の子どもとして皆に見て欲しかったから。
「それで喜んで両親の言うままに頑張ってきたつもり。
――だけど、きっとどこかで逆らえない自分がいるんだ」
「…失望されるのが怖い…?」
「うん。きっとそんな強迫観念に縛られて生きてきたんだ、僕は」
「…」
彼は自分の身体に手を回した。
そして怯えるような表情で口を開く。
「…あの女の人の邪気がね、段々僕の身体を乗っ取っていく感じがしたよ。
僕の汚い、醜い感情が増殖していくような、そんな感じ…」
「真織…っ」
は真織の痛々しい姿に絶えられず彼をギュッと抱き締めた。
「汚くなんてない!
だって親に愛されたいって思うのは、失望されたくないって思うのは、子どもとして当たり前のことだもん!!
真織は全然悪くない…っ!」
誰だって愛されたいに決まってる。 自分を必要としてもらいたがってる。
その感情があるから、人は傷つくこともあるし、逆に奮起できるんだと思う。
「…君は…どうしてそんなに温かいの…?」
「え…?」
真織がそっとの背に手を回した。
「こうやって僕の為に抱き締めてくれたのは、だけだよ。…ありがとう」
「…真織…」
「――、大好きだよ」
「…っ…」
笑顔の裏でずっと真織は自分自身に違和感を感じて苦しんでいたんだね。
誰かに必要とされたくて、嫌われたくなくて、自分自身を見てもらいたくて。
小さい子どものように、ずっと自分で自分を抱き締めることしかできなかったんだね。
誰かの温もりを必要としていたのに、それも叶わず今まで生きてきたんだね。
イイコでいることが、真織の悲しい処世術だったんだね。
「…私も真織のこと、大好きだよ」
まるで自分自身を見ているようで、今のには彼を抱き締めることしかできなかった。
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