「まーおり☆」
「あ、

音楽を聴いていた真織がこちらを向く。

「外に遊びに行かない?」
「うん、いいよ」

爽やかな笑顔を向けて彼が立ち上がった。

「どこに行こうか?」
「裏山に行こう!昔、よく行ってたんだ」

そう言うと真織は笑顔で頷いて、私の手を握る。

『ドキン』

昨日から真織にはドキドキされっぱなしだ。
でもこれば嫌なドキドキじゃない。
段々優しい気持ちに変わっていく、そんなドキドキ。

――これをときめきというのだろうか。

 「一緒にいると、胸がドキドキして、嬉しくて、
  もっと一緒にいたい、もっと触れていたい、もっと知りたいって思うのよ」

伊吹の幼馴染で、の従姉のイロハが3年くらい前に会った時に言っていた。

誰よりも一緒にいて欲しい人、一緒にいると胸がドキドキする人――か。

、見て。キレイな花畑があるよ」
「!? …あ、ホントだ」

『ドキンっ』

自分でもこの胸のドキドキに戸惑ってしまう。
彼が名前を呼ぶ度に、ギュッと強く手を握る度に、胸が締め付けられる気持ちになる。
昔は真織のことを弟のように思っていたのに。

何でこんなに背が伸びてるの?
何でこんなに恰好良くなっちゃったの?
なのに何であの頃と同じ笑顔を向けてくれるの?
……こんな気持ち、初めてだから…自分でもどうしたらいいのか分かんない。
自分の胸が高鳴る度に驚いちゃうよ。

「ねえ、行ってみようよ」

こちらの動揺には気づかず真織はの手を力強く引いていく。
そうして2人は花に囲まれた場所で腰を下ろした。
空の青と、白い花のコントラストはとても綺麗だけれど、
今は隣にいる真織の横顔を気づかれないように見るだけで精一杯。
目が合いそうになると慌てて手元の花に手を伸ばしたり、目線を落としたりする自分は何だか恥ずかしい奴だと思ったけれど
今、彼と目線を合わせたらきっと身体が固まってしまうと思った。
そんなことも知らず、真織は辺りをゆっくり歩いている。

男…なんだよね。真織も。
男の子だと思ってた。最初の1日くらいは。
だけど、違ってた。
きっと少年のように純粋で、でもどこか力強い真織に、私は――

「いたっ」

花から飛び出した真織の後姿をボーっと見ながら草を触っていたら手を切ってしまった。

「大丈夫?」

声を聞きつけた彼が慌てて駆け寄ってくる。

「うん。へーきへーき!」

真織のことを考えていました、とも言えず、は恥ずかしさをごまかす為に慌ててピョンと立ち上がった。

「手、見せて。あ、血が出てるじゃない!」
「あ…っ」

グッと手を引かれて、血が滲んだ右手の人差し指を真織に咥えられる。

は、恥ずかしい…っ!

「も、もう平気だから。真織…!」

がそう言うと彼もハッとしたようで、急いで指から口を離す。

「ご、ごめん」
「…ううん」

言葉をなくして2人とも俯く。

「…帰ろうか。消毒しなきゃ」
「そう…だね」

そうして顔を上げると、は真織の唇に血がついているのに気づき、彼の唇に手を伸ばした。

「真織、ごめん。私の血が――」
「――…っ」

ドキドキなんてもんじゃない。
心臓が、一瞬止まったかと思った。
止まったかと思ったら、凄い勢いで鼓動し始めて、まるで心臓が壊れてしまったんじゃないかと思った。

そのくらい真織とのキスは突然で、ときめいて――

「…ごめん。想いが…止められなかった」
「…」
「――が、好きだよ」

私も…そう。きっと、そうなの。

「…」

言葉が出てこない。
こんなにも伝えたい言葉があるのに、どうして喉が詰まってしまうんだろう。

は真織の胸に顔を埋めて、彼の胸に先程切った指で文字を書く。

“わ た し も す き”

溢れ出す想いと涙。
それを受け止めてくれるのは真織。
大きくて華奢な指がそっと頬に触れた。






その後(会話のみ)

「…か、帰ろうか」
「…うん」
「手、痛くない?」
「うん」
「帰ったらちゃんと消毒しようね」
「うん!」
「――あの…手…繋いでもいい?」
「…うん」



…というわけで、第4話・真織編でした。
「その後」まで、トコトンのほほんカップルですみません…。

ここまで読んでくださってありがとうございました!!

吉永裕 (2006.1.10)
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