…あれ……ちょっと、何か、変じゃない…?

部屋に戻って着替えようとした時、途轍もない吐き気に襲われた。
慌ててはトイレへと向かう。

『ジャー』

トイレから出てきたはゲッソリとしていた。

「風邪…引いたのかな。昨日、雨に濡れたし」

そう思ったら途端に身体が熱っぽく感じるし、先程食べた朝食を全て出しても胃がまだもたれている感じがする。
残念だが伊吹の所へ行くのは止めて部屋でゆっくり寝ることにした。


 …苦しい。
眠りたいのに、眠れないし、胃もムカムカしたままだ。

『コンコン』

、大丈夫か?」

伊吹の声が聴こえ、は咄嗟にドアの方を見る。

「ウメ婆に聞いたぜ。いろいろ具合悪いんだって?」

心配そうに伊吹がベッドサイドに来る。

「うん…、そうみたい」

そうは言うものの、気分はずっと楽になっていた。
昔から頼もしい伊吹さえいたら何とかなるという気持ちになっていたから。

「こっそり様子見に来てやったぜ。ウメ婆には内緒な」
「うん。来てくれてありがとう」

そう言うとそっと伊吹が頭を撫でてくれた。
この大きい手の感触は昔から気持ちが良い。

「わっ!? 、お前大丈夫か!? 胸が腫れてるぞ!?」

大人しく撫でられていたが、突然、伊吹がの胸を鷲掴みにする。

「腫れとらんわっ!!」

『ゴンっ!』

は今ある限りの力を振り絞り伊吹をぶん殴った。

「今日は気分が悪いからサラシをしてないのよ!」
「あぁ、すまんすまん。それにしても、お前って時代錯誤なことしてんなー」
「悪かったわね。ウメ婆のいうことをそのまま守ってるだけよ」

は自分の胸を隠すように自分の身体を抱きしめて気分を落ち着ける。

「はぁ…、動揺してますます気分が悪くなったじゃない。 もぉ、伊吹兄のせいだからね!!」
「すまん。…それに元々は昨日の雨のせいだよな。ホントに悪い」
「それは別に伊吹兄のせいじゃないよ」

昨日の出来事に関しては、本当に伊吹のせいではない。

…寧ろ伊吹兄に抱き締めてもらって温かかったし。

そんなことを思い出したら途端に恥ずかしくなり、は布団で顔を隠した。

「眠い?そろそろ帰るな。 お前、夢で魘されて夜はあんまり眠れないんだって?ゆっくり寝ろよ」

そう言ってドアへ向かう伊吹をは無意識のうちに追う。

「待って、伊吹兄…!」
、起き上がったりしてだいじょ――」

「あ」

フラリとしたと思ったら、次の瞬間、伊吹に支えられていた。
どうやら自分が思っている以上に身体は脱力状態らしい。

「あ、あの…ごめん」

は顔を真っ赤にして彼から離れる。


「は、はい?」
「俺の霊気、分けてやるよ。そしたら夢で魘されることも少なくなるだろうってウメ婆が言ってたしな」
「でも、どうやって――」

唇を塞がれたその時、周りが真っ白になった。
息が止まるくらいの衝撃。
でもその衝撃は激しいものじゃなく、とても柔らかくて優しくて。
ウメ婆の言ったことは本当みたいだ。
嘘みたいに身体のダルさが軽くなっていく。

「…ぁ…」

唇が離れて目が合うと恥ずかしさが一気に湧き上がり、は俯いた。

「何か俺の方が力もらった感じだな」

そう言って微笑み、伊吹はを抱き締める。

「…そんなことないよ、伊吹兄。私、今とっても満たされてる。
 きっと、私――」

“伊吹兄に恋してる”

がそう言い終わる前に伊吹はもう一度、にそっとキスをした。

「俺もそうだよ、

“好きだ”

そう囁いて伊吹はの髪を優しく撫でた。







その後(会話のみ)

「元気になったか?」
「…まぁ…ね」
「もっとしてやろうか?」
「け、結構です!!(熱が上がっちゃうよ〜っ!)」




…というわけで、第4話・伊吹編でした。
伊吹のようなキャラを殴ってすみません。
でも、兄貴のような伊吹だからこそ、「腫れてる」発言して欲しかったわけで。

では、ここまで読んでくださってありがとうございました!!

吉永裕 (2006.1.10)



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