『ピンポーン』
「葉月?」
葉月の庵のドアのチャイムを鳴らしても反応がない。
まだ寝てるのかな…。
庵に上がり、部屋のドアノブを回すと鍵は掛かっていなかった。
「玄関も部屋も鍵開けたままなんて、無用心ね」
そう言いながらは部屋の中へ入っていった。
部屋に入ると、風で机にあった書類が床に散らばっていた。
葉月はベッドの上に倒れこみ、布団を被らずに眠っている。
きっと一息入れようして、そのまま眠っちゃったんだ。
この町の自治と、我が一族の仕事を全部請け負ってくれている葉月。
彼自身に能力がないわけじゃない。
頭脳明晰だし、霊力だって他の婚約者と同じくらいあるし、潜在能力は葉月が一番上だとウメ婆が言っていた。
ただ、サルサラの呪いのせいで葉月の力が外に出ようとすると無力化するらしい。
…私の力じゃ、呪いは解けないのだろうか。
は眠っている葉月を見つめる。
風で髪が微かに揺れている彼を見ていると、とても平和な一時のように見えるのに。
葉月を起こさないようにと、は静かに床に散らばった書類を拾い上げて机の上に置き、電卓で重石をする。
書類には来年の予算だの、予定だの、知らないことばかりが書かれていた。
…本当は私の仕事なのに…。
胸が苦しくなるのを感じながら、葉月の顔を眺める。
葉月はいつだって私のことを助けてくれてた。
仕事を任された時も嫌な顔せずに引き受けて。
…葉月がいてくれたから、今まで家を空けて修行して来れたんだ。
葉月がいたから…私は…
『PiPiPiPi…』
目覚まし時計だろうか。机の方から音がした。
起こした方がいいのだろうか。
「葉月…?朝だよ」
「……?」
「おはよう」
「おはよ」
葉月は髪を整えながら起き上がる。
「ごめんね、勝手に入っちゃって」
「いや、構わないよ」
そう言ってすっと彼はの腕を掴んで引き寄せた。
「は、葉月…?」
至近距離で葉月の顔を見るのが何だかとても恥ずかしい。
きっと最近やたらと接触が多いからだ。
「朝一番に見るのがの顔って、何かいいね」
フッと笑ってそう言ったかと思うと、急に葉月の顔が近づいてきた。
「はづ――」
唇に感じる初めての感触。
でも何故か嫌じゃない。
逆に葉月を身近に感じて安心していく自分がいた。
きっとコレが“好き”ってこと――
は静かに瞳を閉じた。
その後(会話のみ)
「…っていうか、キスしてもよかったの? つい寝ぼけてしちゃったけど」
「…寝ぼけてたんかいっ!!」
「じゃあ、もう1度してもいい?」
「え…」
「――…」
「っ…!」
…というわけで、第4話・葉月編でした。
キスまでが長くてすみません…。
ここまで読んでくださってありがとうございました!!
吉永裕 (2006.1.10)
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