昨日はドタバタして真剣な話ができなかったので今日こそはちゃんと将来を見据えた話をしよう、と思い
は天摩の庵のドアを叩いた。
「あ、ちゃん!! いい所に☆ 遊びに誘おうと思ってたんだよね!!」
「あ、そう…」
「じゃあ、遊びに行こう!」
あまりの勢いには真剣な話をしに来たことも言えず、手を引かれるまま天摩について行くことにする。
「嫌!!」
「何で?これ、レースがついてて色っぽいよ」
「派手で露出しすぎでしょ!! こんなの着れないっ!」
何だかんだで2人は隣町のインナーショップに来ていた。
最初は天摩が一緒に店に入ることを嫌がっていただが、店員を味方につけた彼には何も言えず、
仕方なく一緒に下着を選ぶことにしたのだった。
…にしても、互いの好みが合わないので1時間以上、店の中で言い合いが続いている。
「…」
「それが気に入りました?」
がある下着の前で佇んでいると、店員がやってきた。
「サイズはいくつですか?」
「…よくわからないんですけど…多分普通…」
「じゃあ、測りましょうか」
そう言っては言われるままに試着室に連れて行かれる。
「まぁ!今までそれを巻いていたんですか!? 駄目ですよ!胸の形が悪くなりますよ。
それに血流も悪くなって身体にも良くないんですから」
「はぁ、すみません」
「でも、ちゃんと筋肉があるからかしら。胸の形、綺麗!」
「あ、はぁ…」
そんなやりとりをしながらサイズを測ってもらい、取り合えず10枚ほど下着を買い込んだだった。
そこで一気に疲れてしまい、そのまま帰宅することにした。
こんなのが初デートだなんてちょっと寂しいかもと思ったが、
久しぶりに大量の買い物をしたので何だかそれだけで気持ちは高揚していた。
「…これが、こうなってこう…」
風呂から上がり、は今日買った下着を試着していたが、風呂上りだというのに汗が少し滲み、四苦八苦している。
「ん?どうやったらこれは固定できるの!?」
初心者らしく、後ろのホックに手間取っていた。
「…できた。っやったぁ!!」
ブラの装着にが喜びをかみしめていると
『コンコン』
「ちゃ〜ん!今暇?」
ドアの向こうから天摩の声がした。
「ちょ、ちょっと待って!! 絶対開けな――!」
『ガチャ』
「「あ」」
勢いよくドアを開けた天摩と目が合う。
「っ!!」
は咄嗟に胸を隠す。
「…着替え中だった?ゴメンね!」
笑顔で部屋に入りドアを閉める天摩に叫ぶ。
「そんなことはいいから出てって!」
「うん…って言いたいけど、ヤダね。 ウメ婆ちゃんの目を盗んでわざわざ会いに来たんだもん」
そう言って彼は静かにとの距離を縮める。
「や、来ないで!」
「手は出さないよ。ちゃんの照れぶりを堪能したいだけ☆」
天摩が手を伸ばせば届く程の距離まで迫ってきていた。
「見ないでよ!恥ずかしいんだから!!」
下着姿のは半泣き状態である。
「じゃあ見なきゃいい?」
「え――っ!?」
グっと天摩に抱き寄せられた。
「こうすれば見えないよ☆」
「接触してる!手は出さないって言ったじゃない!」
「だってちゃん見ないでって言うからそれに従っただけだよ」
「出て行ってっていっても言うこと聞かなかったのに」
は必死で天摩から離れようとする。
「…あんまり抵抗すると、ホントに俺、もたないよ?」
いつもの天摩らしからぬ静かで低い声には固まる。
「…天摩…?」
怖い――という気持ちが浮かぶ。
どんなに天摩より私の方が霊力が優れていたって、どんなに私が身体を鍛えたって、
隙を突いて霊力を叩き込めば別だが、基本的な力は男の天摩には敵わない。
改めて天摩は男だという事実を突きつけられた気がした。
「ごめん、傷つけたくないけど、でも…」
「天摩…?」
顔は見えないけれど、天摩の切ない声に胸がキュンとする。
何故、自分はこんな状況なのに彼の苦しそうな様子が気になってしまうのだろう。
「…今はこれだけで満足できるけど、次はきっともっと欲しくなる」
天摩の手が背中から腰へと下がっていくが
「俺って我侭だからさ☆」
そう言って天摩はパッと笑顔を作り、の両肩を持って自分の身体から離した。
「…ごめん」
彼の手から放されたは思わず謝る。
そうだ、天摩は私のペースに合わせてくれてるんだ。
彼だって、巫女に精を与えるという使命を持っているというのに。
…天摩が苦しんでいるのは、私のせいだ。
私を大切にしたいという彼の優しさが彼を苦しめている。
「何で謝るの!? 謝るのは俺でしょ?」
目を丸くして天摩が顔を覗き込む。
「私が巫女としての役目を果たしてないから…」
「…ヤダな、そんな巫女だなんて! 俺は婚姻の契をさっさと済ませたい程、責任感強くないよ。
純粋に男としてちゃんを抱きたいだけ☆」
「っなっ!?」
「だからってちゃんを無理矢理奪いたくない。 ――好きだから」
そう言って天摩はまっすぐの目を見つめて手を握った。
その真剣な眼差しに胸が締め付けられる。
「でも時々暴走しちゃうけどね☆」
…もぉ、この人は。
は苦笑する。
「ありがと、天摩。私のこと、大切にしてくれて」
この人はこういう人なんだ。 真っ直ぐで優しくて。
それを無邪気さで隠してるだけなんだ。 だから昔も隠れて修行をしてたんでしょ?
私、知ってるんだからね。
「…ちゃんの笑顔ってホントに凄い」
「え?」
気がつくと天摩はこちらを呆然と見つめていた。
「すっげ〜幸せな気持ちになれる☆」
そう言って再び彼はをギュっと抱き締める。
「ちょっ…!」
…ま、いいか。
もう暫くこのままでいよう。
天摩の笑顔は私に元気をくれるから。
は暫く彼の温もりを感じていた。
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