「真織〜、遊びに来たよ」

庵の玄関を開けて叫ぶと真織がトコトコとやって来た。

「…あ、!い、いらっしゃい!!」

眠そうな顔をしていた彼は一瞬で真っ赤になる。

「ごめん、寝てた?」
「あ…、うん。ごめんね」

彼に続いて部屋に入ると、今まで寝てました!というような布団の乱れ方だった。

「どっか具合でも悪いの?昼間から寝てるだなんて」
「ううん、全然何ともないよ!
 今日はね、ちょっと夜に用事があってその為に寝てたんだ」
「用事?」
「うん。あ、そうだ!も行かない?
 今日から明日にかけて彗星が見られるんだって。100年に1度らしいよ!」
「え!? 見たい!! 私も一緒に行っていい?」
「うん!」

無邪気に笑って頷く真織にも顔がほころぶ。

「じゃあ私も夜に備えて寝ようかな」
「そうだね。あ、ベッド使って良いよ」
「いいよいいよ、気にしないで。あ、じゃあ一緒に寝ようか」
「えっ? あ、うん…じゃあ半分こしよう」
「うん」

言った後でふと自分の言葉の意味を考えて恥ずかしくなったが、
きっと真織もそんなつもりで受け取ってはいないだろうと思い直し、恥ずかしさを表に出さないように彼の隣に寝転がった。
しかしああ言ったもののすぐには眠気が襲ってこない。
なので暫く話をすることにした。


「真織、星が好きなの?」
「うん。僕の家の周りって何もないから昔からよく星が見えるんだ。
 それでね、寝る前はいつも窓から星を眺めてたんだよ。
 冬の寒い日は特に星が綺麗でね、部屋の中でコート着ながら見てたなぁ」

無邪気に真織は笑顔を浮かべる。
そんな彼の表情を見て、も微笑んだ。

「そうなんだ。何かそういうのっていいね。
 自分で気づこうとしないとその存在自体、気づかないことってあるじゃない。
 道端に咲く花とかさ。忙しいと特にね。
 真織は綺麗な物をきちんと見つけて素直に綺麗って思えるんだからそれって凄く素敵なことだよね」

そう言って目を閉じる。
真織は今までどんな星空を見てきたのだろう、と想像しながら。

「…そんな風に考えられるの方がずっと素敵だよ」

彼女の横顔を見ながら真織は呟いた。

「…僕、のこと――」

その瞬間、くるりとが真織の方に身体を向ける。
しかし彼女は穏やかな表情で瞼を閉じていた。

…?
――眠っちゃった?」

すやすやと眠っているを見て、真織はくすっと笑いながら布団をかける。

「…君にもう一度会えただけで僕は幸せだよ」

そうして真織も目を閉じた。



 「…さぁ、彗星を見るわよ!!」
「楽しみだね!」

2人は周りに何もない海岸へやって来た。
彗星が見れると聞いて多くの人がやって来るかと思ったが、
臨邪期で気候が不安定なこともあって、周りには誰一人いない。

「予報ではそろそろなんだけどな…」
「う〜ん、全然わかんない」

2人はあまりにも長時間空を見上げて首が疲れた為、砂浜に寝転がって空を見ていた。

「早くしないと空が曇りそうなんだけどな…ってあれ!?」
「え!? どこどこっ!?」

ガバリと真織が起き上がり、もそれに続いて起きて空を見上げるが、彼女には全然それらしきものが分からない。

「あそこだよ。絶対アレ!!」

そう言って真織が空の一点を指差すが、それでも分からない。

「…真織、分かんないよぉ…」

半分泣きそうなを見て、真織は微笑む。

「いい?あそこだよ」

そう言って彼はの肩に手を置き、グッと抱き寄せた。

「…う、うん」

突然の力強い真織の行動には完全に星を見失った。

「見える?僕の指の先を見てね」

そう言って真織は更にを自分に近づける。
真織、ドキドキするからやめて〜!、と心の中で叫ぶが、そんなこと、無邪気な彼が気づく筈もなく。

「…あっ!」

やっとのことで真織の指の先を見ると、微かに尾を引いた星が見えた。

「あれだね、まお
――っ!!」

『ガツンっ』

気持ちが高揚しては顔を上げると、の頭と真織の左顎が激しくぶつかった。

「〜っ…」
「ご、ごめん!! 真織、大丈夫!?」

顎に頭突きをされた衝撃を一生懸命に彼が堪えているのを見て、は恥ずかしさと申し訳なさで本当に泣きたい思いだった。

「だ、大丈夫…。ごめん、情けない所を見せちゃって…」
「ううん!! 私が悪いの!ホントにごめんなさい」
、気にしないでってば。折角の夜なんだから、笑って?」

そう言って真織は シュンとして俯いた彼女の肩に手を置いた。

「僕ね、一生に一度しかない夜をと過ごせたこと、嬉しく思うよ」

優しく微笑む真織に心から愛しさが込み上げてくる。
彼の言葉も、一緒に彗星を見れたことも、何だかとても嬉しくてを幸せな気持ちにさせた。

「…私も、真織と一緒でよかった。絶対忘れない、今日のこと」

そして2人は星空の下で微笑み合った。






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