「真織のとこに行こうかな」

は真織のことを思い浮かべる。
最後に会ったのは4歳の時だったと思う。それ以来、ずっと会ってはいなかった。
しかし、あの頃は凄く慕ってくれていたし、さっき会った時も、優しくて礼儀正しそうだったし、
一緒にいてのんびりできそうな人だったから何だか彼に惹かれてしまったのだ。

 「…こ、こんばんは」

は玄関から頭をちょこんと出して挨拶をする。
すると出てきた真織も若干ぎこちない笑顔を向けた。

「あ、こんばんは。…ど、どうぞ」
「…お邪魔します」

そうしては真織の庵に入れてもらうが、2人とも何だかおどおどしながら一定の距離を保って座る。

「…あの」
「ん、何 !?」

ただ話しかけられただけでこんなに動揺する自分が恥ずかしい。

「貴女のこと、何て呼んだらいいですか?」
「え?普通にでいいよ。 それに敬語も使わなくていいよ、ちょっとしか違わないし」

彼の意外な質問に緊張が少しほぐれてきた。

「あ、じゃ、じゃあ…。…」
「は、はいっ!」

つい、正座をしてしまう。

自分で言っておいて、名を呼ばれると緊張する私って一体…。

そんなことを思っていると、真織は優しく微笑みかける。

「あ、そうだ。ゲームか何かする? 初日からあまり知らない人とは…ねぇ」
「う、うん。そうだね」

この気の遣いよう。真織を選んでよかった。
天摩だったら…危険に違いない、うん。

「でもさ、真織ってそういうこと、するの? …あんまりそういう風に見えないけど。
 っていうか私、根本的にどんなことするのか全然分からないんだけどね」

緊張も解けてきたので素朴な疑問を投げかけてみた。
しかし真織の表情が歪む。

「う…」

もしや、聞いてはいけないことなのだろうか。

「いつかこういう日が来た時の為にって、特別な訓練は受けてたけど…」
「…特別な訓練?」

ちょっと待て。
その言い方だと、無理矢理させられた感があるではないか。

「僕が許婚の1人に決まったから、何としても巫女様の伴侶に選んでもらえるようにって、
 そういう修行みたいなことを親にさせられて…」
「しゅ修行!?  修行って…どんなこと、するの?」
「えっ!!」

あ、地雷踏んだ、私?

真織が物凄く困った表情をしている。

「そ、そうだな…。まぁ、簡単に言えば実技と本での勉強かな…」
「実技…は何となく予想がつくけど、本って何?」
「本ならここにもあるけど。親に持たされちゃって。見る?」
「…うん、見てみたい」

すると彼は本棚の一番上の段から本を取り出した。

「…」
「…」

挿絵を見ては固まる。

「…こ、こんなことするの!?」
「…そ、そうだね」

え!? 何がどうなってるわけ!?
どこがどうなってるの!?

「…真織、実技でこんなのもしたの…?」
「え!? さ、さぁ…」

…したんだ。
っていうか、こんなことを家族がさせるなんて…。
…そもそも私が…私という存在がいるから。
変な掟があるから…悪いんだ。
何でこんな一族が代々残っているのだろう。

押し込めていた黒い感情がドロドロと胸に広がり始める。

「…ごめん、真織。迷惑かけて。 私の許婚になんてならなかったら…無理矢理そんなこと…」

が俯いて謝ると真織は慌てて慰めた。

「ううん!確かに常識を外れてる一族だけどさ、でも、の許婚になれて嬉しかったよ。
 僕、ずっと憧れてたんだから!」

か、可愛い…!
そして何てありがたくて嬉しい言葉……。

キラキラした彼のオーラをは微笑ましく思う。

そういう経験は兎も角、こんなに純粋そうな男の人に会ったの、初めてかも…。
いい友達になれそう!!

本来の目的を忘れ、はそう思っていた。

「真織、これからも仲良くしようね!!」
「う、うん!」

そうして真織の手を握りブンブンと振る。


これから先、真織と私はどんな風に進んでいくんだろう。
不思議だけれど、何だか楽しみに思えてきた。






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