「葉月のところに行こうかな」
は葉月を思い浮かべる。
一番長く傍にいた人。
家族同然の人。
…許婚、といってピンとくるのは葉月しかいなかった。
「…こんばんは」
葉月の庵の玄関のドアからはひょこっと頭を出す。
彼女の声を聞き、やってきた葉月は微かに笑ってみせた。
「…入る?」
「お邪魔します」
いくら家族同然の葉月といえども、久しぶりに会うと何故か緊張してしまう。
しかもこんな状況だ。
はドキドキしながらソファに腰掛けた。
前に立つと、普段表情をあまり変えない彼が珍しくニコッと笑う。
「…さて、は俺の精を受けに来たのかな?」
「え!?や、そこまで深くは考えてなかったけど!」
は顔を赤くして咄嗟に声を上げた。
まぁ、この状態ではそう思われても仕方ないかと思いながらも、やはりいきなりだなんて恥ずかしいし
それに久々に会ったから話をしたかったのだ。
「…まぁ、そんな所だろう。俺を相手に選ぶはずはないからね」
予想外の葉月の言葉に思わずキョトンとなる。
「何で?寧ろ、一番よく知ってる葉月が最有力じゃない」
――って、自分で何を言っているのだろう、私は。
そんな彼女を見ながら葉月は表情を曇らせる。
「よく考えてみなよ。俺は呪い持ちだよ。
そんな血筋が、直系血族のと交わってごらん? お前の一族から殺されるさ」
「そ、そんなことないよ!第一、私が誰を選ぼうが周りには関係ないでしょ!?」
「…そうかな」
彼は静かに窓辺へ歩み寄り、外を眺めた。
「もし、俺とが交わって子どもができたとする。その子どもが男だったら?
…どんなに直系の血を引いても、きっと呪いは解けない」
「…」
「俺がお前との間に子孫を残せたとしても、俺たちの子どもには相手が見つからず、子孫を残せないかもしれない。
高確率で一族が減っていくのが分かっているのに、お前の一族は俺とお前を祝福するかな?」
葉月の曇った横顔を見ていたら、彼が母親に虐待されていた時のことが頭に浮かぶ。
「お前は一族を根絶やす為に生まれてきた悪魔の子どもよ!!」
男だと分かっていたのに。
それでも自分で産むことを決めたのに。
周りからの嫌がらせに母親は心を病んでしまった。
それ以来、葉月は自分の存在を憎み続けている。
「サルサラってのは、ホントに性根が曲がってるよね。
その場で俺の祖先を殺せばよかったのにさ、ジワジワ一族を減らしていくような呪いをかけるなんて」
そう言い、葉月は乾いた笑いをこちらに向けた。
…そんな悲しそうな笑顔、見たくないよ。
「何で、俺が許婚に選ばれなきゃいけなかったんだろう」
「…っ…」
そんなこと、思わないで。
誰にも幸せになる権利はあるよ。
私が人のこと、言えた義理じゃないけど。
でも、葉月は全然悪くない。
いいたいことは沢山あるのに、どうして大切なことは喉に詰まって出てこないのだろう。
彼が一緒に暮らしてくれたことで自分は救われたように、彼の心を軽くしてあげたいのに。
「…泣かないでよ、。同情されても嬉しくない」
「同情じゃない!同情なんかじゃないよ…っ!!」
そんなボロボロと涙を流すをじっと見つめた後、彼女の髪を撫でて葉月はそっと頬にキスをした。
「…戦いでは役には立てないけど、お前の盾くらいにはなれる。
これからは、俺がを守るよ」
「…頼りにしてるね、葉月」
これから先、葉月と私の絆はきっと強くて深いものになるだろう。
…私にはそんな予感がしていた。
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