第16話 血と狂気が襲う時、誰が最後の一撃を放つのか



 彼女は……淋しがりやだった。

今となってはそう思える。
あの人は自分の周りに人が寄り付かなくなったのをとても恐れていた。
人に嫌われるのが怖かったみたいだ。
だから俺の存在を疎ましく思うのは仕方がない。
自分が生まれてきた為に、彼女の人生は180度変わってしまったのだから。
だから俺は誰よりも自分のことを怨んできた。

『自分のことだけ?』
『母親が憎くないの?父親が憎くないの?』

再びサルサラの声がする。
葉月はふっと子どもの頃の自分を思い出す。

「…嫌いだ。母さんも父さんも、近所の人も、大人全員嫌いだ」

そう言って身体を丸めて泣いていたあの時。
いつからか熱く怨みにも似た激しい感情を抱いていたのは事実。
それが次第に冷静で冷たく残酷な感情に変わっていった。
それがきっと失望というものだったんだろう。

誰も自分を助けてくれる人間はいない。
親にも愛されない自分は生まれてきてはいけなかったのだ。

そう思うと何もかもがどうでもよくなった。
しかしそんな目が更に母親の気に障ったらしい。
日に日に母親の狂った声が上がる回数が増えていった。

『そんな母親が憎いでしょ?』
『人間が憎いでしょ?』

「――憎い…?」

今でも憎いのだろうか。
あの時の感情は年月が経っても治まることはなく、いつだって自分を苦しめてきた。
でも、そんな自分が自分を見失わないでいられたのは――

天使が現れたから。
温かい愛という温もりをくれた彼女に会えたから。

「――

葉月は愛する人の名を呼び目を開けた。
身体に纏わりついた黒い手が次々と悲鳴を上げて消滅していく。

『チ…ッ』

サルサラは舌打ちすると葉月の思念から消えた。

俺は暴力を振るう母親にほんの少しの愛情を注いでほしかった。
家に帰らない父親に会いたかった。
…両親に愛されたかった。
ただ、ただそれだけだ。
それは子どもとして当たり前の感情なんだ。

「…許すよ、全部」

葉月は上を向いた。
そして笑顔で言う。

「俺は母親を、父親を、周りの人間を、こんな自分も、全て――許す。
 俺を愛してくれるの為に」

周りの闇が晴れ、辺りの景色が薄くなって消えていった。



 葉月は首を上げた。
辺りは地下室の景色に戻っている。
向こうではが必死に結界を張っているのが見えた。

「…悪いけど、俺はお前とは違うよ」
「フン、残念だよ。君はいい仲間になりそうだったのに」

そう言うとサルサラの分身は肩を上げて見せた。

「じゃあ、そろそろ消えてくれる?」
「消せば?ま、どーせまた300年後に目覚めるだけだし」

そう言ってサルサラはニヤニヤと笑う。
完全に彼を封印しなければ、永遠に邪気の脅威はなくならない。
くそ、と思いながら葉月は銃に弾を込めた。

「――この一撃に俺の全てを込めて」

力がみなぎってくる。
今まで封印されて外に出ることが許されなかった霊気が身体の外まで溢れ出してくるような、そんな感覚だ。
葉月は目を閉じた。
そしてゆっくりと銃を構える。
自分の手には青白い霊気が取り巻いていた。

…呪いが解けたのだろうか?

そう思いながら葉月はの方を見る。

「――呪――」

向こうでは最後の言葉を唱えていた。
辺りの邪気が次第に薄れていく。
それを見て葉月は呟いた。

「…眠れ、サルサラ」
「――おやすみ、愚かな人間たち」

サルサラの神殿内に一発の銃声が響いた。













やっと更新できました!
さて、葉月の特別ルート終了です。
葉月だけはあまり戦闘シーンがありませんが
その分、心の中で闘っていたというわけで。

さぁ、葉月ルートだけ(もしかしたらサルサラベストエンドも?)は葉月の呪いが解けます。
それ以外のルートはそのまま呪い持ち。
一生葉月は苦しんでいくのだろうか、と少し気の毒な気もしますが
ま、そこは割り切っていこうと思います…^^;

…というわけで、もう少し物語は続きますが、今後もどうぞ宜しくお願いします。
それでは、ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました!!


吉永裕 (2006.5.11)

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