最終話 Le lieu de destin
は涙を流していた。
「…救えなくてごめんなさい」
サルサラを鎮める為に作った小さな墓の前では佇む。
そしてそっと屈むと白い花を供えて手を合わせて目を瞑った。
「…寒い。ここから出して、誰か――」
地下室でクリスタルに触れた時に身体の中に注ぎ込むように入ってきた言葉を思い出し、
目を開けたの頬にはいくつもの涙の筋が流れる。
「――私は…貴方を一時的に眠らせることしかできなかった…っ!!」
わぁっとは顔を覆って泣いた。
葉月は暫くそんな彼女の様子を静かに見守り、頃合を見てそっと肩に手を置いた。
背後から優しく声をかける。
「…、そろそろ帰ろうか」
「…うん」
は顔を上げ、涙を拭って微笑んでみせる。
そして立ち上がると、2人はその場から静かに立ち去った。
そうしてジッカラートにはまた平和が訪れた。
神殿の周囲は再び閉鎖され、次第にサルサラへの恐怖心は人々の中から薄れていっているようだ。
は首都で一番高い建物の窓から遠くを眺める。
「国主様、お仕事です」
「…わかってる」
スーツ姿の葉月が書類の束を持ってやって来た。
サルサラの結界を張って巫女としての役割を果たしたは、その後、国主として祭り上げられた。
最初は断っていたのだがこの一族や国を変えようと思い、それを受け入れたのである。
しかし最近は書類に判子を押す仕事ばかりで、本当に自分はこの国を変えていけるのだろうかと少し不安だ。
葉月が秘書として傍にいてくれるのが唯一の救いだった。
今まで全く政に関わっていなかったに、一から説明してくれる葉月は仕事の上でも大切な存在だ。
――呪いの解けた葉月は、少しずつ両親と打ち解け始めたらしい。
彼の母親は実はウメ婆の所へ葉月の様子を陰から見る為に、約10年間ずっと通っていたそうだ。
彼女は葉月を愛していないわけではなかったのである。
若かった当時の彼女には愛し方が分からなかったのだろう。
そんな彼らの距離が少しずつ近づくのがにとっても嬉しかった。
最近は葉月の笑顔も増えてきている。
は椅子に座ると、葉月から差し出された書類を受け取ってジィっと眺めた。
「…これはちょっと許可できないなぁ。何か鎖国的じゃない? 私はこの国をもっと開放的にしたいと思ってるの」
「成程。それがの公約だしね」
彼はの傍らに立つ。
「じゃあこっちの案はどう?」
「――これって…」
机の上に置かれたのはいつもの書類ではなく、婚姻届だった。
「あれから慌しくて1年以上経っちゃったけど、俺の気持ちは変わってないから」
「…うん」
は机の引き出しを開けて私用でしか使わない判子を取り出す。
そしてグッと判を押した。
「承諾、します」
そう言っては結んでいた髪を解いて微笑んだ。
「愛してる、葉月」
「俺もを愛してる。 …一緒に生きよう」
2人はそっと互いの温もりを確かめるように抱き締め合う。
と葉月の物語はまだ始まったばかり――
−END−
やっと完結です!
長い間、読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!!
葉月や作品についてはあとがきでかいておりますので
興味のある方は是非あとがきにいらしてくださいね^^
吉永裕 (2006.5.17)
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