第13話 たとえその身が滅びても
「――好きだ、」
穏やかに笑顔を見せた彼は確かにそう言った。
は呆然とその言葉を心の中で反芻する。
そんな彼女に向かってアゲハはもう一度、懇願した。
「だからあんたには生きてて欲しい」
「……っ!」
は首を何度も横に振る。
「そんなの…っ…できな――」
「!」
グッと手を引かれ、力強く胸の中に抱き寄せられた。
一瞬、そのまま彼の背中に手を回しそうになるが、すぐに身体を離そうとは腕に力を入れる。
「放して!ダメ、私に触れちゃ!!」
首を振りながら涙を流す彼女の頬にそっとアゲハは触れた。
「もう…いい。オレはあんたが生きてくれれば、それでいいと思った。
サルサラ様を裏切ったんだ。どっちにしても、もう長くは形を成していられない。
だから…最後にあんたをこの手で抱き締めたかった」
「――アゲハくん…っ」
そんなアゲハの言葉には何もかも弾き飛ばされ、ただ只管に彼を抱き締めた。
彼もまた、を抱き潰してしまいそうな程の力で抱き締める。
しかし、互いに腕に力を込めてもその想いは満たされず、寧ろ切なくなるばかりだった。
「――っくっ…ぅ!」
突然、呻き声を上げてガクリとアゲハが膝を落とす。
彼の足首から下は既に砂に戻っていた。
「アゲハくん!!」
は慌てて傍らに跪くが、顔を上げたアゲハは吹っ切れたように微笑んでいた。
「…なぁ、。オレは砂に戻るだけだ。
あんたが外に出て地面に触れるだけで、オレは傍にいることができる。オレはそれだけで充分だ。
もしかしたらずっと海の底にいたかもしれないオレが、こうやって人間の世界に形作られて、あんたに出会えたんだ。
――こんなに幸せなことってねぇよ」
「――っ!!」
はアゲハの胸に顔を埋めた。
声にならない程の想いが彼女の頬を濡らす。
「…今度、人間に生まれ変われる時が来たら、一番にあんたに会いに行く。
だからそれまで元気に笑ってろ。は笑ってる時が一番綺麗だ」
「っ…ぅ…っ…」
は静かに頷いた。そして顔を上げる。
目の前でアゲハの左腕は流れるように砂となって地に落ちていく。
「…本当に……お別れなんだね」
覚悟を決めた彼女の顔を見て、アゲハは首を縦に動かす。
「――じゃあな、」
「…また…ね、アゲハくん」
そう言って2人はそっと唇を重ねる。
――が目を開けると、邪気の風が静かに砂の山を崩していた。
今回はアゲハルート、一気に2話更新です!
お待たせしてすみませんでした!!
ついにアゲハルートのクライマックスが終わってしまいました…。
エンディングはどうなることやら^^;
幸せになれるように励みますので、どうぞアゲハをこのまま愛してあげてくださいね。
それでは、次のお話をどうぞお楽しみに^^
吉永裕 (2006.5.11)
次に進む メニューに戻る