第11話 婚姻の儀
…ついに来たんだ。決戦の朝が。
はゆっくりと身体を起こした。
隣に寝ていた伊吹は既に目を開けて天井を真っ直ぐ見据えていた。
「おはよう」
「おはよう。ちゃんと寝たか?」
「うん」
久しぶりに夢も見ずにゆっくり眠ることができた。
伊吹とずっと一緒にいるからだろうか。
昨日の夜から霊力が急激に高まっている気がする。
「今日は特別な日になるぜ。が自由になる記念日だ」
「…うん」
は微かに口元を上げると決意を固めて伊吹に唇を重ねた。
「よいか?」
「うん」
朝食後、の家の敷地内にいた全ての者が道場に集まった。
昨日までは何もなかった道場の真ん中に赤い布を被せた台が設置され、その上には剣や杯などの小物が置かれていた。
と伊吹とウメ婆以外の者たちは左右に分かれて1列になって座る。
その中には勿論、葉月や真織、天摩の3人もいて、彼らは真剣な表情で目の前の台を見据えていた。
すると巫女装束を着たウメ婆が台の向こう側、道場の奥の方へ立ち、入り口の所に立っていたと伊吹に合図をする。
「「…」」
伊吹とは顔を見合わせて頷いた。
そして手を取って台の前へと進んでいく。
「今から婚姻の契りの儀を執り行う」
そう言うとウメ婆は壷のようなものに何かの葉っぱを数枚入れて火をつけた。
たちの目の前で細い煙が上へと立ち上っていく。
「ではこの剣で手を切り流れる血を自分の目の前にある杯に入れよ」
「どのくらい切るの?」
「指先を剣先で少し突けばいい。血は1滴あれば充分じゃ」
そう言われ、まずはから恐る恐る左手の人差し指に短剣の剣先を当てて力を入れた。
…さすがに血が流れる程の傷ではないが、自分で肉を押すと少し血が滲み出る。
それをは目の前の杯に落とした。
次に伊吹に短剣を手渡し、彼も同じように血を杯へと落とす。
するとその杯にウメ婆は酒を注ぎ、の血の入った杯を伊吹に、伊吹の血の入った杯をに渡した。
「この杯を交わすことで婚姻の契りは完了する。――さぁ、飲み干すがいい」
「「…」」
ちらりと互いを見ると、2人は同時にグッと杯の酒を飲み干す。
すると身体の奥から力が湧き出すような感覚がし始めた。
「これで心身ともにひとつになったお前たちの力は何倍にも増えた筈じゃ」
「…うん」
はその力を確かめるように拳を握って頷く。
「――では行くぞ。サルサラの元へ」
「うん。――行こう、伊吹兄」
「あぁ」
そうして、葉月、伊吹、真織、天摩、ウメ婆の6人はサルサラの封印された神殿のある地へと向かった。
の胸が静かに鼓動を増していく。
6人は古びた神殿の前に立っていた。
その周囲は黒い邪気で覆われ、視界が遮られる程である。
冷たくて不気味な風が神殿の中から吹いて髪を揺らした。
は腹に力を入れて入り口を見据える。
「…この中に、サルサラがいる…。イロハちゃんも…」
「力が増したからといって油断するでないぞ、。 イロハや他の者の妨害があるかもしれぬ」
「…うん」
きっとサルサラの元へ着く前に伊絽波に出会う筈だ。
彼女は自分の死を望んでいるのだから。
は自分の中の迷いを捨てて、戦う覚悟を決める。
「じゃあ行こうか。…皆、力を貸して」
は5人の顔を見回した。
「了解」
葉月は静かにの前へ出た。
「援護するね」
優しく微笑むと真織は葉月の隣へ行き、ポケットから数枚の札を出す。
「ささ〜っと終わらせちゃおう☆」
天摩がポンと背中を叩き、身体のあちこちを伸ばしながら前へと歩いていく。
「、覚えてるか?さっさと終わらして指輪買いに行くってこと」
「うん。覚えてるよ」
そう言うと伊吹はの頭をグッと右手で抱き締めて静かに離れた。
「――相手も戦闘体制に入ったみたいだよ」
天摩はそう言うとグッと構える。
神殿の入り口付近にはサルサラの呼び寄せた怨霊や作り出された魔物が現れ、壁を作っていた。
「…必ずサルサラの所に行くんだから」
そのひと言で6人は敵に向かって走り始める。
まずはウメ婆が霊波動で前列の怨霊を一掃した。
伊吹は直線的に魔物や怨霊を切り裂き、天摩は舞うように霊気の篭った拳や蹴りを繰り出す。
真織は呪符を用いて炎を操り、葉月は銃に弾を詰めては魔物に向かって放つ。
そしては入り口に向かって真っ直ぐに魔物たちを倒しながら進んでいた。
「、お前は先に行きなよ。こんな所で霊気を無駄遣いするな」
「葉月…」
「道は僕が作るから」
「…真織」
すると真織は新しい札を取り出し、入り口に向かって2枚シュッと投げる。
その札は炎の壁となり、入り口までの道を作り出した。
「…ありがとう、皆。すぐ戻るからね」
「気をつけるのじゃぞ、!」
「うん」
そうしてが伊吹をチラリと見た瞬間、真織の声が聞こえてくる。
「伊吹さんも一緒に行ってください。ここは大丈夫です」
「…いいのか?」
「伊吹さんにはを守って欲しいんです」
「わかった。後は任せる」
伊吹は真織たちの顔を見回すと男たちは皆、笑顔を向けた。
「行くぞ、」
「…うん」
差し出された手を取り、は伊吹と一緒に炎でできた道を入り口に向かって走り出す。
後ろからは皆の戦う声や音が聞こえるが、振り向かずに2人は只管走った。
「皆、無理しないでね!」
入り口まで辿り着いたは振り返り全員に叫ぶ。
すると皆、手を挙げたり親指を立てたりしてその声に応える。
「行ってきますっ!!」
は大きくそう言うと、深呼吸して神殿へと向き直す。
不安もあったが皆の優しさが彼女の背中を力強く押した。
「行こう、伊吹兄。サルサラとイロハちゃんの所へ…!」
「おう。…、俺から離れるなよ」
伊吹は彼女の手をグッと握り、はコクリと頷く。
そして手を離すと前をキッと見据えて2人は同時に神殿の中へ足を踏み入れた。
今回はとても短く、絵もなくてすみません。
あんまりキャラとの絡みもないし…。
もうちょっと突っ込んだトコまで書いたら2話同時に更新しようかな、と思ったのですが
今週末から来週あたりが忙しくなりそうなので
今回は短いですがアップしました。
さて、伊吹は違うキャラの話の方が男前な感じがする…。
どうしても主人公の前では飄々としてるので。
それにしても、伊吹さんと呼ぶ真織にちょっと萌えました。
主人公は呼び捨てなのにね。
次回は久しぶりに伊絽波がでてくる…かも。
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!!
次回をどうぞお楽しみに…☆
吉永裕 (2006.2.22)
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