Papillon du machaon −2 零れる砂−
巫女を見張り始めてから、数日が経った。
それでも最初の印象とあまり変わっていない。
…だけど、あいつはよく涙を浮かべたり、今にも死にそうな顔をして俯く。
今日もいきなり海の中に入って、バシャバシャと水を蹴り上げたと思えば急にそのまま後ろに倒れた。
身体を半分、水に浮かべながら天を仰ぐその姿は今にも海に飲み込まれてしまいそうな程、弱々しくて頼りない。
最初は全身を厚く覆っているように見えていた霊気のオーラがここ数日で薄くなっているようにも思える。
――サルサラ様と関わっているから。
アゲハは神殿の方を振り向いた。
普通の人間には見えない黒い邪気が、その一帯に集まっている。
サルサラと関わり始めて数日で、巫女は一気に霊力が減少し始めた。
霊力が減少したというよりも、霊力を維持する強い精神力を失った、と言う方が正しいのかもしれない。
サルサラが巫女の迷いにつけ込んで、彼女の心を揺れ動かしているのである。
「――ここにいたんだ」
青かった空がオレンジ色に変わる頃、突如、後方に邪気の塊が現れた。
振り向くとサルサラが夕日を背に立っている。
「いい感じだね…。巫女は確実に自分の存在の意味を疑ってる。 一族に対する嫌悪感も育ってるみたいだ」
巫女の様子と霊力を察し、ニヤリ、と彼は口角を上げた。
そうしてゆっくりと砂浜に寝転んでいる彼女の所へと向かう。
「…」
アゲハは複雑な思いでサルサラの背中を見つめていた。
そして相も変わらず空を眺め続けている巫女に目をやる。
――またあいつは後で泣くんだろうか…。
巫女のことなど、どうでもいい筈なのに、それでも苦しそうな表情で俯く姿を見るのは、辺りに当り散らしたくなる程の不快感だった。
やるせなさ、と言った方がいいのかもしれない。
それに――
「今度一緒に星を見ようよ。 今日はの体調が悪いみたいだしね」
「…考えとく」
サルサラと巫女が話している様子を見て、アゲハはグッと唇を噛んだ。
まただ。
…サルサラ様と一緒の時、あいつの霊気がピクリと反応する。
何だかそれが…妙に嫌な感じがして。
何で敵にそんな優しい顔見せるんだ?
何でそんなに無防備なんだよ?
何で――――
――何でオレは巫女のこと、何にも分からねぇんだ…?
拳を握り締めると、掌からは血ではなく砂が零れ落ちた。
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