※この話は名前変換はありません


知識欲の魔物




 この世界のどこかに、この世の全てを知ることができるいにしえの図書館が存在するという。
その図書館に辿り着ける者は数百年に一人いるとかいないとか。
しかしながら全ての知識を手に入れた者はその名を世に轟かせる間もなく無残な死を遂げるらしい。
 ――そんないにしえの図書館の話は全てが本当ではないのかもしれないが、
人から人へと伝わり、何百年もの時を超えている。



「――残念だわ。貴方こそは私を心から愛し続けてくれると思ったのに」

 強引に女を押し倒した男の横腹に深くナイフが突き刺さる。

「貴方はもう知識欲の魔物。
 知識を得る手段として私を抱くという行為すら面倒になってきている。
 私がいなくても知識を得たいと思っている。
 器である私が邪魔だと思っている……」

 女は男の耳にそっと囁いた。とても低く恐ろしい声で。
身悶えた男は咄嗟に組み敷いた女の細い首に手をかけ力を込めるが、
腹部のナイフを引き抜かれて二度、三度と背中や腰を刺されるとあえなく息絶える。
 女の身体にずしりと男の体重がのしかかった。
けれど女は片手でその死体を払いのけ、自分の男だったモノを一瞥しその場を後にする。
酷く苦しみに歪んだ顔をしながら。
とても悲しい目をしながら。

「さようなら、私の愛した貴方。
 私は貴方の初々しい笑顔が好きだった。
 貴方の作るケーキが好きだった。
 新作を一番に食べさせてくれる貴方をとても愛しく思った。
 貴方も私が喜んでケーキを食べる姿が可愛いと言ってくれていた。 
 …知識なんて全く興味がないと思っていたのに」

 

 この世界のどこかに、この世の全てを知っているいにしえの魔女がいるらしい。
その魔女の寵愛を得られる者は数百年に一人いるとかいないとか。
しかしながら魔女を裏切った者は言葉を発する間もなく無残な死を遂げるらしい。

 けれど魔女は愛した者をどうやって殺したかについてはすぐに記憶から消してしまう。
その知識は彼女以外、誰も知らないし決して得られない。
世界の全ての知識が集約するといういにしえの図書館にも、その本だけは存在しないのだ。



 









中二病的話が衝動的に書きたくなったので書いてみました。
自分の身体の中(意識的空間?)に世界の知識を詰め込んだ図書館を持つ魔女の話。
彼女と魂が溶け合うくらいの距離に近づき彼女の理性を失わせることでその図書館に入ることが出来る。
図書館に入った者は一度に一冊だけ好きな本を読むことが出来るし、ページをぱらぱらと捲るその一瞬で理解できる。
そこで得た知識は図書館から出ても失われない。

魔女は昔は人間であったが、生と死の狭間を漂った時にこの世の全ての知識を垣間見る。
その瞬間から不老不死の身体となって魔法が使えるようになり、永遠の孤独を味わうことになった。
基本的には表立った魔法は使わないようにしているが、周りの環境に合わせて見た目を老化させたりすることはある。
しかしながら同じ場所に何十年も留まることは滅多になく、普段は旅人を装っている。

知識を抜きにして自分を愛してもらいたいという気持ちが強い為、
「純粋なこの人なら…」と思う男と付き合うも皆、知識の海に溺れてしまい、
次第に知識を得るためだけに渋々彼女を抱くようになっていく。
その苦痛に耐えきれず、自分の愛を裏切った男を容赦なく殺すようになった。

いつか彼女が本当に結ばれる話を書きたいですね…。
永遠の命なので難しいかもしれないですが。

バッドエンドな話でしたがここまで読んでくださってありがごうございました!

吉永裕(2018.6.11)



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