「ねぇ、地図取ってくれる?」
「はいはい」
細身でふわふわとした亜麻色ロングヘアーの少女は、教室の後ろにあるロッカーから近頃放置気味の地図帳を手に取ると
珍しく鞄の中に物を詰め込んでいる少年のもとへ歩み寄り、笑顔で彼に地図帳を手渡した。
いつもは教科書や資料集、辞書など全て学校に置いているにもかかわらず、急に地図帳や辞書を鞄に詰め始める彼の行動は今に始まったことではない。
そんな彼の今後の行動など彼女には予想がついている。
「いつ帰ってくるの?」
「結構遠くに行くって言ってたからね……早くても2週間後くらいかもしれない」
「私はお父さんから何も聞いてない」
「急に決まったんだよ。許して」
「――無事に帰ってきてね」
「うん」
そう言うと彼は少女の手をそっと握った。
心地よい風が誰もいない放課後の教室のカーテンを揺らしていた。
――将来、トレジャーハンターになる。
高等学校に入学した頃から少年はそんなことを言うようになっていた。
そして自称トレジャーハンター、しかし実際は学者をしている少女の父親の世界を回る旅に少年も同行するようになった。
少女の父親は彼女が幼い頃から色んな地方の薬や医学に興味を持ちつつも、伝承や伝説とされている不老不死の薬や万能薬といったようなものまで関心を示し、
東の方で不老不死の老人がいるらしいと聞けば東に行き、南の密林にあるという木の根が万病に効くと聞けば南に行く父親の姿を見てきた少女は、
あながちトレジャーハンターというのも間違っていないような気がしていた。
そんな父親のある意味病的なトレジャーハントを許す母親はというと、代々家業でもある商店を切り盛りする女主人である。
彼女の収入に支えられてのトレジャーハントなのだが、いつも母親は快く父親を送り出していた。
少女はそんな母親も好きだったし、何かを得ようと意気軒昂に家を出る父親も好きだった。
したがって幼馴染で大の仲良しの少年が父親のように世界中を旅してまわることになっても、不安や心配はあるがいつも笑って見送っている。
寂しい思いを抱える日もあるけれど、きっと彼は戻ってくると信じているし彼は沢山のお土産と土産話を持って帰ってくるので
彼の帰ってくる日を想像しながら待つ時間も少女は好きになっていた。
「じゃあ、手続きをしてくるから荷物を預かっててくれるかな」
大きな港にある事務局の入口の前で少年は背負っていた荷物を下ろし、少女の隣に立っていた旅の水先案内人に荷物を手渡した。
本当は少女の父親が雇っている用心棒のような存在なのだが、娘には水先案内人と話している。
「もぉ、そのくらい私にだって持てるわよ。 本当、昔から非力扱いなんだから」
目の前を素通りしていった荷物を少しムッとした表情で眺めながら、少女は少年に向って口を尖らせた。
色が白くてとても細い腕をしている彼女には今後も絶対に重いものなど持たせるつもりはないが、彼は優しく笑って「ごめん」と言う。
そんな彼の笑顔につられるように彼女も穏やかに微笑んだ。
「いってらっしゃい」
「いってきます」
早く改善策を見つけなければ――船の甲板で小さくなる少女を見つめながら少年は毎回出港の度に思うことを頭の中で繰り返す。
身近に死が迫っているわけでもないし、急病というわけでもない。
早世が決まっているわけでもない。
それでも彼女の蜉蝣のようにか細くか弱い体つきや体質と、満月の夜に酷く高熱を出して苦しむ謎の状態を不治の病だと決めつけて、このまま手を拱いて過ごすことなんてできなかった。
だから彼女の父親は昔から世界中、旅をして同じような症状の者がいないか調べたり、最新の医学やその土地独自の医療などを積極的に学んでいる。
高校入学後、苦しそうな表情をした彼女の父親に事情を話されてから少年も旅に同行して手伝うことに決めた。
彼女の話を偶々家の前を通りかかった自分にしたのは彼女の父親も先の見えない不安に押しつぶされそうになって苦しい思いをしていたのかもしれない、と少年は思っている。
もしくは自分を長年責めて懺悔をするような気持ちだったのかもしれない――とも。
そんな彼らの旅をする理由も自分の体が特異体質だとも露知らず、少女は彼女自身の人生を楽しそうに生きている。
子どもの頃から彼女は、自分は体力が普通の子よりも少なくて風邪を引きやすい体質だとか発育が遅くて貧弱だとか言っているが、
それは自分も覚えていない頃に起きた事件がそもそもの発端らしい。
父親が連れていった山で獣型魔物に襲われてから、彼女の体質はがらりと変わってしまったのだそうだ。
彼女の父親は魔物の血が彼女の血と混ざってしまったが為ではないかと言っている。
もしかするとその魔物は毒を持っていたかもしれないとか、
毒を持っていないにせよその魔物の血は生物濃縮もしくは生物蓄積によって毒化している可能性もあり得るとか、
そもそも魔物の血は人間にとって毒のような存在なのかもなどと考えているが、今のところ原因は全く分かっていない。
このままではずっと彼女は体が弱くて体調を崩しやすいままだし、
もし彼女が大病など患ってしまったら自然治癒力に頼ることもできないし、手術などしようとしても体力が持つかどうかも分からない。
それに満月の度に高熱に魘されると分かっていて満月の日を迎えなければならないなんてあまりにも彼女が可哀想だ。
彼女が自分のことを何も知らないからこそ余計に気の毒でならないものの、逆に知らなくてよかったとも思っている。
もし彼女が全て知ってしまったら、将来への不安や恐怖に打ちのめされてしまわないとも限らない。
あの優しいわた飴のような笑顔が消えてしまうのだけは嫌だった。
「今回はどんなブツが目的なんですか?」
「ブルー諸島から西に向かったところにあるティン島という小さな島には昔から解毒効果の強い薬があるらしい」
「ティン島……?」
鞄に詰めてきた地図帳を取り出して少年は目的地を探す。
「――ここ、薬以外に何か特産物とかあるでしょうか?」
「さぁどうだろうな」
「もう置き物は売り物になるくらい部屋に並んでるみたいなので、今回は違った趣向にしようかと思って」
「ははっ、君はいつも優しいね。だが、あの子は何でも喜ぶさ」
「そうでしょうね。彼女は本当に謙虚というか日々のありきたりな生活の中でも幸せを見つける天才ですから」
そう言う少年の胸には確信はなかったものの良い予感がしていた。
隣にいた父親もそうであった。
「――綺麗な装飾のついた指輪でも買ってやるといいさ」
「お父さんがそう言うなら、そうします」
サウスランド南の港を発った船はチャイラとジッカラートが見えてきた頃、大きく汽笛を鳴らした。
何故か連載中の小説を書かずに、意味不明なSSを書くことにしました(;´▽`A``
昔から物語風な夢をよく見るので、一時期夢日記をつけていたこともあったのですが
今回はその小説版、という感じでしょうか。
どうも夢の中に出てきたシーンと、その続きが自分でも気になって。
ちなみに、夢で見たシーンは会話から始まる段落部分です。(ちょこちょこ場景や会話を追加していますが)
残りの部分は私の推測やら、夢を見ていた自分の感覚(この女の子は本人は気付いてないけど病気持ち)が混ざっています。
SSなので当たり前ですが続きはないです^^;
ついでに言うと、ヒロインさんは軽めの魔硝石中毒という脳内設定です。
魔物に襲われた際に微量の魔硝石が体内に。
サウスランド人のヒロインには魔力などがないので、魔硝石の魔力に体が耐えられないっていう感じで。
(体の防衛機能やエネルギーが全て魔硝石からの魔力打ち消しに使われる)
…完全に私の自己満足です^^;
更に言うと、これは『missing』の時点からかなり未来の設定です。
でも『desitn』よりも過去のつもり…だけど。
……というわけで、連載をサボった揚句の意味不明SSでした(;´▽`A``
まぁ元々『destin』なども夢をネタにしたので……これが管理人の作品の作り方だとご了承くださると幸いです^^;
これからもSSのネタになりそうな夢を見たら、時々SSにして残して行こうかと思っています。
(完全に不定期更新になると思いますが^^;)
では、読んでくださったお客様、ほんっとうにありがとうございました^^
吉永裕(2009.9.2)
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