「飲み物を買ってくる。匡の部屋の飲み物ばかり飲むのも申し訳ないし」
「えーそんなの気にしなくていいのに」
「あ、じゃあ俺も一緒に行くよ。アイスは入りそうになかったけど、炭酸飲みたくなってきたから」

そう言って緑も席を立った。

「では食堂まで行ってくる。匡は何か欲しいものはないか?」
「んーじゃあ俺も炭酸のジュース!」
「わかった」

そうして匡にパスワードを教えてもらい、緑と一緒には部屋を出た。


 外に出ると日が高く昇り、気温も午前中以上に上がっている。
出店の方は一層賑わいを増して多くの人で溢れていた。
そんな体感的な暑さと見た目の暑苦しさにはふぅとため息を漏らして帯を整える。

「あっちから行こうか」

緑はやってきたのとは違う道を指差した。
そうして出店を回避するように教育学部の駐輪場を通り抜けてその奥にある学食の売店へ向かう。
教育学部の売店は開いていなかったが学食と学食内部の売店は本日だけ特別に開いており、学食内も混雑している。
と緑は入り口横の売店へ向かって飲み物を見て回り、その後、各々の飲み物と匡と夏香の分の飲み物も買ってその場を後にした。

「持つよ」
「え? いや、私は大丈夫だ」
「でもさん、荷物も持ってるし。気にしないで」

そう言って緑はの持っていたペットボトル2本を手に取った。
穏やかに微笑む彼の手にはペットボトルが4本。
それを普通に持っている彼の手を見て、「大きな手だなぁ」とは思ったのと同時に緑の優しさを改めて実感する。
人のいない道を選んでくれたり、こうして荷物を持ってくれたり、
普段からも自分のことを気にかけてくれる緑の存在はとても心強くてありがたい。

「……すまない…ありがとう…」

いくら礼を言っても足りないくらいにいつも緑の世話になっていることを感謝して、は彼に礼を言った。
ペットボトルのお礼だと思った緑は笑って首を振る。

「いえいえ。女の子に重いものは持たせられないしね」
「おっ――!? わわわ私なんて全然女らしくないし…っ。そそそれにペットボトル2本くらい全然重くなんてないぞ!」

思いがけず女性として扱われたことに酷く動揺しているを見て緑はくすっと笑った。

さん、もっと自信持ちなよ。さんって綺麗だし、時々可愛いし」
「きっ……かっ……」

今まで匡から可愛いと言われたことは何度かあったが、緑にこのように言われるのは滅多にない為、
匡に言われた時以上に恥ずかしさと驚きで困惑する
そんな彼女を緑は穏やかな表情で見つめている。

「た…高田くん、そんなフォローしなくてもいいから」

は暫く顔を赤らめていたが、努めて冷静さを取り戻した。
その言葉に緑はうーん、と首を傾ける。

「フォローしてるつもりはないんだけど。っていうか何の為のフォロー?」

そう言って彼は無邪気に笑った。
その後、再び穏やかな表情に戻り、前を向いたまま口を開く。

「いつも思ってても匡に先に言われちゃうからさ。たまには俺にも言わせてよ」
「…っ」

再び紅潮していくを見て彼も少し照れながら微笑んだ。



 「おかえり〜」

匡の研究室に戻ってくるとまだ夏香は戻っていなかった。
緑は机の上に飲み物を置いていく。

「ただいま。これで良かった?」
「うん、サンキュ! ん、、何か元気ない? 大丈夫?」
「いやっ、な、何ともないぞ」

今までとは少し違った緑の一面を見て未だに動揺が収まらないものの、は平静を装って首を振る。
そんな自分を見て、少し緑が笑ったような気がした。

「――あ、そうだ。2人とも手紙とか書く?」

一人で待っていて暇を持て余していたのか、突如、匡が立ち上がった。

「んー、最近はあまり書いていないが、それでも手紙は好きだ」
「ホント? 俺さ、最近消しゴムスタンプ作るのにはまっててさー」

そう言って彼は扉のないロッカーの中からお菓子の缶を取り出して持ってくる。
そして缶の蓋をあけると、その中には10個程の消しゴムで作られたスタンプが入っていた。
消しゴムには可愛らしい動物や、傘や車などの物体、デフォルメした人の顔が彫られている。

「凄いな!どれも可愛い」

思わずは声を上げる。
その言葉に匡は嬉しそうに笑った。

「これ、全部匡が作ったの?」
「そうそう。 良かったら好きなのあげるよ」

そうして彼は消しゴムを並べていく。

「いいのか? 手間暇かけて作ったものなんじゃ…」
「いいのいいの。また作ればいいんだから。それに手紙とか手帳とか、そういうのでいっぱい使ってもらえた方が嬉しい」
「そうか。じゃあ選ばせてもらうぞ」
「なるほど、手帳にも使えるんだ。じゃあ俺も貰おうかな」

そんな話をしていると夏香も戻ってきた。
買ってきた物を机の上に置くと、彼女も匡の作ったスタンプに興味を示す。
その後は皆でスタンプを紙に押して遊び、一つずつ好きな絵柄のスタンプを貰ったが、
緑も作ってみたいと言ったので食堂横の売店に行き、
消しゴムの5つ入りを3セットも買って全員でスタンプ作りをすることになった。


 「今年の七夕祭は凄く楽しかったなぁ」

午後も匡の研究室でずっと消しゴムスタンプを製作していたが、満足した様子で夏香はうーんと腕を上げる。
教育学部の玄関を出ると、辺りはオレンジ色に染まっていた。
それでも夜の9時まで開かれる屋台周辺はまだ騒がしい。

「いい経験をしたな」
「うん。一度やり始めたら止まんないね、あれは」
「でしょ? しかもうまく作れたら次はもっと頑張ろうって思えるし」
「失敗したら悔しいしねぇ」

そうして4人はそれぞれ消しゴムを手にして帰宅していった。














そんなこんなでまだ続くんですよ……。


うひゃああ、ご無沙汰しておりますっっ^^;
これは酷い、約3か月ぶりの更新…? すすすすみませんっっ(><)
それにしても自分で書いておきながら凄いつまらない小説だと…思うのですが、これ以上書き直せません。
もう本気でこの作品は全体的にスランプになります。

さて、今回初めて分岐しました。
ここから一気にラストまでもっていきたいので、あと2話か3話で終わるつもりなのですが…
私のことだから無駄な描写で1話増えたりしそうです。気をつけます。

しかも今回、キャラの扱いに差が…ありまくるんですけども
匡を贔屓しすぎたような。まぁ、匡好きな方にはいいことだと思いますけども^^
緑は…ちょっと文章少ないし、内容も少ないしで可哀想な気もするのですが、
ヘタレな私はこれ以上は突っ込めませんでした^^; 書いてる私も動揺してしまいます…。
私の中では天然設定な緑なので、意外と恥ずかしいことを言える人間です。
それでもまだ匡ルートほどヒロインの心は動いていないのですが。

基本的に私は“有り得ないシチュエーションを前提として有り得そうなちょいリアルなことを混ぜて書く”のが好きですので
ヒロインのような人間はいないだろうな、とか自分でも思うんですけどね^^;
でもそんなヒロインやキャラ達の一側面に自分の欠片のようなものを感じ取っていただけたらと思っております。

というわけで、意味不明なあとがきになってしまいましたが読んでくださったお客様、ありがとうございました^^


吉永裕 (2008.12.22)



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追記:2008.12.27
書くのを忘れていましたが、作中のようにパスワードは教えちゃダメですよ^^;
と、念の為に書いておく。
恐らくそんなことをいちいち気にする方もいないと思いますが。