『コンコン』

は呆然としながらレノンの部屋のドアをノックする。

「…どうした」
「…少し、話したい事があって」
「…そうか」

そう言い、レノンはを部屋へ招き椅子を用意する。

「…さよならを…言いに来たの」
「…アーク国に戻るのか」
「ううん。自分の居場所、思い出したから」

そう言うと、レノンは一瞬戸惑うが、すぐに優しい表情に変わる。

「記憶が戻って良かったな」
「…うん」

(レノンさんは私の幸せを願ってくれてる…。こんな人だから…、私は――)

「貴方が好き」

言おうと思っていたわけではない。
躊躇する間もなく、息をするという行為のように、ごく自然に、無意識にその言葉が出た。

「…」

彼の驚く顔を見てはハッとする。

「…あ、ごめんなさい」

は立ち上がり部屋から出て行こうとしたその時――


「…俺も、だ」

ドアノブを持っている彼女の手にレノンが後ろから自分の手を乗せた。

(あぁ…、こんなに幸せでいいの? もうすぐいなくなるのに…?)

は振り向き彼に抱きつく。

「レノンさんに会えてよかった。
 私、ここからいなくなるけど…、でも、ずっとレノンさんの事忘れないから」

の目からは次々と涙が溢れてくる。その涙をレノンは長い指で拭った。

「…泣くな。おぬしには笑顔が似合う」
「…ん」

彼の言葉で無理やり笑顔を作る。

「…すまない。無理強いをするつもりはなかったのだが」

は首を横に振る。

「私、ホントに幸せだなって思って」
「…」

レノンは穏やかに微笑みの唇に軽く触れるキスをした。

「今日はずっと傍にいてもいい?」
「構わないが…」
「抱いて。私、レノンさんとひとつになりたい。 …忘れないように」

真っ直ぐ自分を見つめるにレノンは驚くが静かに頷き、彼女の左頬にキスをする。


『ギシリ』

2人分の重みでベッドがきしむ音がする。
窓から漏れる月明かりでレノンの銀髪が浮き上がって見えた。

「…前に城の図書室で話した事を覚えているか?」
「うん。戦いがなくなったら、って話?」
「あぁ。あの時、俺は…」
「…王以外の守りたい誰かの為に生きるのもいいかもしれない、って言った」

そう言うとレノンは微笑む。

「…殿を守る為に生きるのも良いと…。そうしたいと思っていた」
「私も、貴方の傍にいたいって思った」

2人は互いの身体に手を伸ばす。
静寂の中に響く息遣いと布ずれの音。

「…っ…ぁ…あたし…レノンさんを…愛してる…」

レノンの腕に抱かれながらは涙を流した。



 「…幸せに…なってね。そして…大切な人を守ってあげて…」

左手でレノンのサラサラの髪をそっと撫でた。
そしてしっかりと握られた右手を見つめる。

「…この手を放したくない…。 …私、消えたくない…。消えたくないよ…」

は朝までレノンの隣で泣き続けた。




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