『コンコン』

は呆然としながらエドワードの部屋のドアをノックする。

「…貴様か。どうした?」
「…べ、別に用事はないんだけど。
 ――ほら!エドワードの事だから、明日の事、考えて眉間にふか〜い皺ができちゃってるんじゃないかと思ってさ。
 この優しいちゃんが癒しに来てあげたってワケよ!!」

自分でもワケのわからない事を口走っている事に気づいたがどうしようもなかった。
本当の事を言えば、明日、自分がいなくなる事を言ってしまえば
エドワードとの別れがつらくなって離れられなくなってしまうと思ったのだ。
それに明日、彼の身に何かが起きないという保障はない。
もしそんな事があったら、と思うと今にも気が狂ってしまいそうだった。

「…お前の遊びに付き合っている暇はない。自分の部屋に戻れ」

そう言い、ドアを閉めようとするエドワードを見ての感情は制止する事が出来ずに溢れ出す。

「声がっ…聞きたくて…。 ただ会いたくて…っ…。
 …抱きしめて欲しかったの…」
「!」

彼女の言葉に目を見開くと、エドワードはグイっとの腕を引き寄せ身体が溶けるようなキスをする。

「…エド…っぁ――」

冷静のかけらもないキス。
彼が自分を女として見てくれている事が嬉しい。

「…

耳元で微かにエドワードが自分を呼ぶ声が聞こえて、は鳥肌が立つくらいの幸福に満たされた。

「――もう…死んでもいい…」
「…馬鹿者」

(エドワードが真剣に怒ってくれてる…。ホントに…、本気で愛してるよ、エドワード…)

はエドワードの首に手を回すと、彼は両手で彼女を抱え、壊れやすいものを扱うように優しくベッドに下ろす。
そして愛おしそうに髪を撫で、彼女の身体にキスを落としていった。
はそんなエドワードの唇の感覚も、優しく触れる手の感触も、
自分を見つめる愛しい瞳も、妖しいバラの香りも、全て忘れないように胸に刻み込んだ。



 「…」

は隣で眠るエドワードの横顔を見つめる。

『すき』

とエドワードの胸に書いてそっと消した。
そうして次に

『さよなら』

と書くつもりだったが、書き終わる前にエドワードに手を掴まれる。

「…まだ起きていたのか」
「ご、ごめん…起こしちゃって。もう、部屋に帰るから…」
「…」

彼の視線が突き刺さるように感じる。

(お願い、そんな真っ直ぐな目で見ないで…。心を見透かされるみたいで怖い…)

「朝までいろ」
「え…」

の頭を左手で抱え、彼は髪にキスを落とした。

(…私の事好きって一言も言わないけど…、でも、傍にいてもいいんだよね?)

エドワードの肩に頭を乗せる。

(…私、今日の事、忘れないから)

は朝まで彼の横顔を眺めていた。


次に進む   メニューに戻る