―中庭―
朝露の爽やかな匂いがする。
綺麗に手入れされた庭はここが別世界だと思わせるのに充分なほど完璧だった。
(…でも私は野原に花が咲いてる方が好きかも)
そんな事を思いながら歩いていると噴水の所に見慣れた人影を見つける。
「あ、あれって…」
キチっとした水色のコート、ウェーブがかった髪の毛と眼鏡。
「ヤン!」
しかし、呼ばれた少年は動かない。
(聞こえてないのかな?)
が近づくと、彼は噴水の淵に腰掛けたまま目を閉じていた。
「…ヤン?」
声をかけるがヤンはぐっすり眠っている様子である。
「…疲れてるのかな? 昨日、遅くまで私に付き合ってくれたから…」
はヤンの隣に腰掛ける。
(何歳くらいなのかな…。幼いようで大人びてるけど…。ランくんと同い年くらいかな?)
よく見ようと彼の顔を覗き込むと、グラリとヤンの身体が傾いてもたれかかってきた。
ヤンの寝息が微かに頬に触れて、何だか彼をとても近くに感じて思わずドキっとしてしまう。
「ちょ、ちょっとどうしよう…。 でも、疲れてるだろうしそっとしといた方がいいのかな…」
そう思い、その体勢を変えない事にする。
「…」
そんな彼女の思いも知らずに、ヤンは幸せそうに眠っている。
「…何でこんな朝早くからお城に来たんだろ。 ヤンの家って研究所の近くにあるって言ってたし…。
お仕事か何かかな…。だったら早く起こした方がいいのかな!?」
は1人で混乱し始めた。
「…っクスクス」
そんな彼女の耳元でヤンが笑う。
「ヤン。…起きたんだ」
「最初から起きてましたよ。ただ、貴女の行動に興味があって寝たふりをしていたんです」
「わ、悪趣味〜!!」
はササっとヤンから離れた。
「さんは温かくて柔らかいですね。気持ちよかったです」
会心の笑顔でヤンはコートの汚れを払い、立ち上がる。
「…ヤンって…いくつなの?」
意外にいやらしいこの目の前の男は一体何歳なのかとても気になる。
「17歳です。大人でしょ?」
「えぇ、とっても」
は引きつった笑顔で応える。
「今度は私が腕枕してあげますよ。今晩あたりどうですか?」
「いえ、結構!!」
そう言うと、物凄い勢いで立ち上がった。
(何だ、この人。…かなりイヤラシイ人なんじゃ…)
は警戒の目でヤンを見る。
その目線に気づいたのか、彼は彼女との距離をあえて一歩縮めた。
「今日はカルトス王に昨日の貴女の身体検査の報告をしに来たんです」
「あ、そうなんだ。じゃあ正式なお仕事?」
「はい。…でも、今度からはさんに会いに毎日来ますから」
ヤンは爽やかな笑顔を向ける。
(だ、騙されるな…!これはヤンの作戦だ!!)
そう思いながらもヤンの恰好良い笑顔にはつい見惚れてしまった。
「それにしても、さんは優しいですね。
昨日、知り合ったばかりの私の事を気にかけてくれるなんて」
「そう?」
(起こしちゃ悪いかなと思って放っておいただけなんだけど)
「感動しました。ありがとうございます」
「…大袈裟だってば」
そうは言うものの、感謝されるのは嬉しいだった。
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