―訓練所―

 「お城にはこういう所もあるのねー」

は城内にある兵士の訓練所の入り口に来ていた。

(ここで兵士さんたちは訓練してるのか…)

それが戦争の為だと思うと彼女の気持ちはどっと落ち込む。

「私はバーン国もアーク国も好きなのに…。
 っていってもまだバーン国には数日しかいないけど」

ブツブツ言いながらは訓練所の扉をくぐる。

「ククルも…アーク国のこういう所で訓練してたのかな、副団長って言ってたし」

そうして槍や剣が立てられた所を曲がると上着を脱いだ状態で、長い剣を持ったレノンがいた。

「れ、レノンさん!?」

(もしかして…、ククルの事聞かれた?)

「…あの…、お、おはよう」
「…」

(あ〜、もう。反応がわかりにくい!!)

はそわそわして落ち着かない。

「…知り合いか、アーク国のククル・イッキと」
「…あ、うん。ここに来る前に、お世話になって」

レノンを恐る恐る見上げる。

「…そうか」

そう言い、レノンは訓練を再開した。

「カルトスやエドワードに言わないの?」
「…おぬしの独り言を偶然聞いただけだ。 それを他人に言う事はおぬしの尊厳を侵害する事になる」
「レノンさん…」

どうやら黙っていてくれるらしい。

「ありがとう」
「…」

彼は無言で剣を振り続ける。

「…見てていい?」
「…」

無言だがレノンはちらりとの方を見て少し口角をあげた。

(あ、笑った…?)

それがOKの返事だと思い、床に座って彼の訓練を見る事にする。


 『カーン・カーン』

どこかから鐘の音が聞こえる。
するとレノンは剣を振るのをやめた。
そしての方へ歩いてくる。

(あ、凄い汗…。そりゃそうよね。1時間以上も剣振り続けたんだもん)

ポケットからハンカチを出して彼に駆け寄った。

「これで汗、拭いて?」

そう言ってハンカチを差し出すがレノンは首を横に振る。

「…汚れる」
「いいって!」

はそう言うが、レノンはハンカチを受け取ろうとしない。
しかし次の瞬間、彼は左の眉をしかめる。
見ると目が赤くなっていた。

「どうしたの?」
「汗が目に入っただけだ」

そう言い、レノンは腕で目をこすろうとするがはそれを静止する。

「駄目!バイ菌入っちゃうでしょ!?」

そう言って彼の腕を押さえたまま、レノンの左目付近をハンカチで押さえた。

(何か私、お母さんみたい…)

そうして暫く抑えた後、ハンカチを外す。

「どう?少しは痛み、治まった?」
「…あぁ。…感謝する」

レノンは少し赤くなっている。
今まで無表情な彼しか見た事がないので、ちょっと嬉しい。

「どういたしまして。あ、これ持ってていいよ。まだ訓練するでしょ?」

そうしてはハンカチを手渡す。

「…しかし」
「気にしないで!じゃあ、私、そろそろ行くね」

そうしてパタパタと小走りで訓練所を出た。

(…少し仲良くなれたかも)

そんなの足取りは軽かった。



次に進む   メニューに戻る