―テラス―
「わぁ〜、城下町が見渡せる!」
はテラスから見える景色を満喫していた。
「あ、朝日が昇る!! あっちの方が良く見えそう」
そうして場所を移動する。
「あ…」
暫く歩くと、シルエットが薄暗い中に浮かび上がって見えた。
誰か分からなかったが、そちらへ歩を進める。
「…か」
既に盛装したカルトスが後ろを向いたまま言葉を発す。
「おはよ…。カルトス、どうしたの?」
彼は俯いたまま動かない。
「…俺は…」
途中で言葉を濁らす。
「…何かあったの?」
はカルトスに歩み寄った。
「…俺はどうすればいい?
伝説の宝玉の為にアーク国と戦って多くの人間を殺して…っ。
そうして作り上げた国は幸せになれるのだろうか…」
「カルトス…」
彼は膝から崩れ落ちる。
今までに見たことのない取り乱した彼の姿に彼女は呆然とした。
「父亡き今、この国の全権は俺に委ねられた。 エドワードは北伐を本格的に進めよという。しかし、俺は…」
はそんなカルトスの隣にしゃがみ込み、彼の肩にそっと手を置く。
カルトスは今にも泣き出しそうな悲しい表情をしている。
「だが、アーク国に俺の弟は殺された! 弟が夢に…夢に出て言うのだ。「アークを滅ぼせ」と…!!
俺は…、戦いたくなどない。 しかし、弟を奪われた恨みは永遠に消えない…っ!」
(…弟さんの夢、見たのかな)
「…つらいんだね。昔も…、今も…」
有効な慰めの言葉は浮かばなかった。
自分はきっと彼の苦しさや悲しさを本当に理解する事はできないだろうから。
しかしどうにかして彼を楽にしてあげたくて、彼女はそっとカルトスの頭を撫でる。
「――」
カルトスはにしがみついた。子どものように怯えた目をして。
(こんな…、こんな少年が国の為に苦しんでる…。私が何かしてあげられたらいいのに…)
「…私がカルトスの味方になるよ。だって私の事、助けてくれてこうやって城に置いてくれたもん。
貴方や貴方の部下たちの優しさが私を救ったのよ。
世界中の皆がカルトスの敵になったとしても、私は傍にいるわ。約束する」
脳裏に一瞬、レジェンスたちがよぎる。
しかしは今にも壊れてしまいそうな目の前の彼を放っておけなかった。
それにここを自分の意志で出られるはずもない。
ならば、とバーン国の方に身を置く事に決めたのだ。
(ごめん、レジェンス…。でも私、カルトスを放っておけない)
「…お前はアーク国の者だろう。そんな事を言って良いのか…?」
「…うん。いいの、もう決めたの。
それに私がアーク国の人間かどうか、記憶が戻らないとわからないし…」
「そうだったな」
すると彼がを強く抱きしめる。
「…記憶が戻って、アーク国とは関係ない事が分かったら…はここを去ってしまうのだな」
「カルトス…」
(記憶が戻っても傍にいるよって言いたいけど…、
でも、これだけはよくわからない。記憶が戻らない事には…。)
「…でも、もし私の記憶が戻って、私の在るべき居場所に戻る事になっても、
カルトスに感謝してる気持ちと、大切な友達だって思う気持ちは変わらないよ」
「…そうか。お前の言葉、嬉しく思う…。
王である俺には、真に友と呼べる者はいないからな……」
彼の口元がほころんだ。
(こうやって笑ってる時は少年の顔なのに)
「…そういえば、カルトスって何歳なの?」
「16歳だ」
「そうなんだ…。じゃあエドワードは?」
「19だ」
「レノンさんは?」
「18だ」
「じゃあ、カルトスが一番年下?」
「あぁ。…子どもだろう」
「そんな事ないよ!カルトスはしっかりしてる。 国の王としていろいろ考えてるよ。ただ…」
(そんな風に運命づけられたカルトスが何だか可哀想で…)
「…。俺の為に泣くな。 お前のその優しい涙は俺には勿体ない」
カルトスは手袋を外し、の涙を拭う。
「…お前は不思議な人間だな」
優しく彼が彼女の髪を撫でる。
「昨日、知り合ったばかりだというのに一緒にいると、心が落ち着くのは何故だろうな。
…これからも傍にいて欲しい」
そうしてカルトスはの額にキスをした。
「…う、うん」
は驚き赤くなったけれど、彼が少しでも笑顔になってくれて嬉しかった。
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