『コンコン』
は呆然としながらシャルトリューの部屋のドアをノックする。
「…。どうしました?顔色が優れませんよ?」
足を引きずるように彼に近づくと、倒れ込むように抱きついた。
「…?」
「…ごめんなさい。シャルトリューさん」
「え…」
「私…、もうすぐいなくなるんです」
「何を――」
「私、明日消えちゃう…っ!」
は膝から崩れ落ち泣き始めた。
「…本当なのですか…?」
彼女の様子にシャルトリューも動揺を隠せない。
「実は…」
は記憶が戻った事と自分の置かれている状況を声を詰まらせながら彼に説明した。
「…そんな…馬鹿な」
は力なく首を振る。
「…ホントはこんな事言いたくなかった。 でも…、シャルトリューさんと前に約束したから」
『私、急にいなくなったりしませんから』
マジェスの夜の事を思い出す。
「…ずっと傍にいたかったんです。
でも…、私は消える…っ。貴方の前から消えてしまうんですっ!」
は床に座り込んだまま泣き続ける。
「…私は信じません」
そう言い、シャルトリューは彼女を抱えベッドに下ろし、強引にキスをして身体に触れた。
「…こんなにも貴女を感じるのに。
柔らかい感触も甘い香りもするのに…、それが魔法で作られた身体なんて…っ!」
の顔に彼の涙が落ちる。
そんな彼の頬にそっと触れた。
「…思いが形を成す事のできる世界だから、私はこうやって存在する事ができた。
貴方と出会えたんです」
「……」
「…だから私が消えても、きっとシャルトリューさんが望めば私の心を感じる事はできます。
人間の形のまま存在する事は無理かもしれないけど、
貴方が望むなら、私は野に咲く花にでも、空を飛ぶ鳥にでも姿を変えて貴方の前に現れます」
は静かに微笑む。
「…わかりました。
私が貴方を忘れない限り、貴方は存在し続ける。 別れなど…ないのですね」
シャルトリューも彼女と同じく無理に微笑もうとしているのがわかる。
そんな彼が愛しくてたまらない。
「…愛しています。シャルトリューさんを、誰よりも」
「…私もを誰よりも愛しています」
2人は泣きながら微笑み、唇を重ねて互いの身体に手を伸ばした。
「…もう寝ないと。シャルトリューさん、明日は決闘なんですよ?」
「大丈夫です。こう見えても私、タフですから」
2人は互いの温もりを確かめ合うように抱き締め合う。
「身体がつらいのなら眠って良いのですよ」
「…ううん。何か寝るのが勿体ない気がして。 それにばっちり目が冴えてるから」
「私もです」
そう言い、2人は悲しげに微笑み合う。
「…それにしてもシャルトリューさん、髪の毛…赤色だったんですね」
「はい。あまりにも職業にそぐわないので普段は隠しています」
はシャルトリューの赤い髪にそっと触れる。
「…情熱的な赤い髪と透き通った水色の瞳。 シャルトリューさん、そのものですね」
「…ありがとう、」
そうして2人は朝まで見つめ合っていた。
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