『コンコン』

は呆然としながらレジェンスの部屋のドアをノックする。

「…。どうした?」
「…」
「不安なのか?」
「…うん」

心配そうに顔を覗き込む彼を見たら、自分が消える事なんて言えなかった。
何より、明日彼自身の命も危ないかもしれないではないか。
そう思うと、そちらの方がずっと恐ろしいことに気づく。

が心配する事はない。私は大丈夫だ」
「…でも…っ!レジェンスが危険な事するの…怖いの」

(私が消えるのは仕方ない。 でも、もし目の前でレジェンスを失ってしまったら…)

襲ってくる色んな恐怖が耐えられず、は顔を覆い肩を震わせて泣いた。

…」

レジェンスはそっと彼女を抱きしめる。

「私は死にはせぬ。そなたの為にもな…」

優しく彼女の涙を拭うと、彼は微笑んでみせる。

「きっと何もかもうまくいく。はただ見守っていてくれ」
「…うん」

はそうなる事を祈り、微笑んだ。

「――。明日、全てが終わったら…。私と共に城で暮らさないか」
「え…」

突然の事に一瞬時が止まったような錯覚を覚える。

「私はが好きだ。父上…王に紹介したい。私の妻として」
「…」

(…あぁ、神様。どうして…)

嬉しさと悲しさで胸が一杯になった彼女の目に再び涙が溢れた。

…」

レジェンスはの頬に手を添える。

(このまま…。時間が止まればいいのに…)

そう思い瞼を閉じる。しかし――

「…やっぱり駄目」
「え…」

断腸の思いでレジェンスを突き放す。

「…やっぱり黙っていられない」
「…どうした?」
「レジェンス…。私ね、記憶…戻ったよ」
「そうか!それは良い事ではないか。…何故悲しい顔をする?」
「…私、レジェンスの妻になれない」
「…」
「私、自分の居場所に戻らなきゃ…」
「…そうか」

は静かに涙を流し、レジェンスはそんな彼女を静かに見つめた。

「…ごめんね。でも、凄く嬉しかった」
「…」

は無理矢理笑顔を作る。
そんな笑顔が痛々しくて彼は彼女の唇に自分の唇を重ねた。

「…っ…」

レジェンスのキスでの止めようと思っていた感情が溢れてくる。

「…レジェンス…っ!」

強く彼を抱き締めた。

「…好き…。貴方が…ずっと好きだったの…」

涙と同じくらい好きという言葉が次々と出てきて止まらない。

「…今日だけは私の傍にいてくれないか」

静かなレジェンスの言葉にこくり、とは頷く。
そして2人は互いを求め合った。
この夜を永遠に胸に刻もうと。

「…っぁ…ん…っ…」
「…愛している」
「…わた…しも…レジェンスを…愛してる…」

拭っても拭っても溢れてくる涙でシーツを濡らすにレジェンスは何度もキスをした。



 「…ごめんね。ごめんね」

はレジェンスの寝顔を見ながら静かに涙を流していた。

(約束…破っちゃったね)

彼と約束した時の事を思い出す。

「きっと私、あの時から貴方の事、大好きだった」

はレジェンスの髪を撫で、胸元で静かに光るネックレスにそっと触れる。
そして朝まで彼の寝顔を見続けた。



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