『コンコン』
は呆然としながらククルの部屋のドアをノックする。
「…どうした?元気ねーぞ?」
彼女の様子がいつもと違いククルは少し心配そうな表情を見せた。
「あ、もしかして明日の事心配してんのか?
お前は遠くから見てればいいんだから心配すんなよ」
ククルはの頭をクシャリと掴む。
そんな彼への想いで涙が溢れてきた。
「は!? 何で!? 俺、何かしたか?」
ククルは慌てるがは何度も首を横に振る。
何も言えなかった。
記憶が戻った事も、いずれ自分が消えてしまう事も。
それに明日、もし彼に何かあったらと思うと、そこで思考が止まってしまうのだ。
「どうしたんだよ?」
ククルは膝を曲げ、の顔を覗き込む。
「…っ」
は思わず彼の首に抱きついた。
「!? お、おい!?」
「好き」
「え…?」
「ククルが好きなの!」
悲痛な叫び声にも聞こえる告白にククルは驚いている。
「お前、何か変だぞ。何かあったのかよ?」
両肩をククルが掴むがは泣きながら首を振る。
「…嘘つくな。お前が理由なくそんな事言うかよ」
「…私の事、嫌い…?」
「ば、馬鹿…っ!? 今はそんな事――」
背伸びをして彼に強引に唇を押し付けた。
もうこれ以上、話していられないと思ったのだ。
「…ごめん」
そう言いはククルから離れる。
しかしガシリと腕を掴まれた。
「…もしかしてお前、記憶が戻ったんじゃないのか?」
「…」
真剣な彼の眼差しに耐えられず目を逸らす。
「俺の傍からいなくなるつもりなんだろ…?」
(…傍にいたいのに。離れたくなんてないのに…)
はゆっくりと頷く。
「…来いよ」
ククルは彼女の腕を引き、包み込むように抱き締めた。
「が好きだ」
「…っ…」
耳元で聞こえる言葉に熱いものが込み上げてくる。
「どうしても行くのか?」
「…ん。明日、全てが…終わったら…」
涙で声が掠れる。
「…2度と会えないわけじゃないんだろ?」
「…分かんない。遠い…遠い所に行くもの」
「…」
ククルの肩が小刻みに揺れる。
「…こんな事なら、もっと早くお前に――」
は首を横に振る。
「…後悔なんてしないで。私、今こうしてククルと想いが通じただけで嬉しいから」
「…ホントに…お前は…っ」
ククルは唇を押し付けるようなキスをした。
「何でそんなに可愛いんだよ。放したくねぇって思うだろ…!?」
「…だったら放さないでよ!私の全部、ククルにあげるから…っ!!
……私を誰の手も届かない所に連れてって――」
そして2人は熱いキスを交わしベッドに流れ込む。
無理だと分かっていながらは本当にそう思った。
運命なんてない所に、死なんて存在しない所へ連れて行ってもらいたかった。
「…ククル」
は寝ているククルの横顔にそっと呼びかける。
愛しい人は彼女をギュッと抱いて深く眠りについていても放そうとしない。
「…愛してる」
は涙が零れてククルが目を覚まさないように何度も拭いながら、朝まで彼の鼓動と温もりを感じていた。
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