7.最後の宝玉
―リッツ―
カムイで黄玉を手に入れたレジェンス一行は最後の宝玉を手に入れる為、リッツという町にやって来た。
そこには虹玉(にじぎょく)があるらしい。
「ここで宝玉を手に入れたら、次は…」
「…バーン国か」
一行の足取りが重くなる。
しかし遠くから誰かが手を振っているのが見え、皆の表情は明るくなった。
「レジェンス王子。ようこそおいでくださいました」
身なりの整った青年が一行を出迎える。
「父は仕事の為、町を離れておりますゆえ、私がご案内致します」
「感謝する」
そうしてレジェンスたちはその青年についていった。
「…これが虹玉でございます」
そう言い、青年は虹玉を取り出す。

「今まで世話をかけたな」
「いえ。誇りに思ってきましたから」
青年は微笑む。
「そうか。ありがたい事だ。…さて、これからの事だが」
レジェンスはその青年にアーク国とバーン国の間にある関所への道を尋ねる。
そして今後の事について話し始めた。
(…何か難しい話みたいし、外に行こうかな)
「私、ちょっと外の空気吸って来ていい?」
「ええ」
「俺たちは話が終わったら宿に戻ってるからな」
「気をつけてね」
「は〜い」
そう言い、は屋敷から出る。
「そう言えば、町の外に花がいっぱい咲いてる野原があったっけ」
良い気分転換になると、そこへ向かう事にした。
「わぁ〜!綺麗」
は目の前に広がる花にご満悦だ。
「皆にも見せたいな。…ちょっと摘ませてもらおう。ごめんね、お花さん」
そう言い、しゃがんだ瞬間――
『ドクン』
「っ…!?」
胸に激しい痛みが走る。
(な、何…!? くるし…)
はそのまま意識を失った。
(…あ、頭が冷たくて気持ち良い)
ぼんやりと意識を取り戻していく。
「…ん…」
「あ、気がつきました?」
自分を覗き込むのは、眼鏡をかけた少年。
「…?」
状況が掴めず、はゆっくりと身体を起こす。
「…異常はないか?」
「あ、はい」
次に現れたのは褐色の肌の少年。
「あの…、ここは?」
は辺りを見回す。先程まで野外にいたはずだが、ここは屋内のようだ。
「我々の馬車の中だ。野原で倒れている姿をその者が見つけ、ここへ運んだのだ」
髪の長い青年が右目から頬にかけて大きな傷のある青年を見ながら言う。
どうやら彼がを助けてくれた張本人らしい。
「助けてくださってありがとうございました」
「…」
片目の青年は無言のまま座っている。
「気にしないでください。彼、無口なだけですから」
「あ、はい…」
は苦笑する。
「皆さんは旅をしてらっしゃるんですか?」
「…あぁ。ある目的があってな」
「そうなんですか。私もそうなんですよ」
自分たちと同じ旅行者と出会ったのが嬉しくては微笑んだ。
「目的は凄く大きくて、達成できるかはまだわからないんですけど…。
でも、多くの人たちが幸せになれますようにって思って頑張ってるんです」
「教会の方ですか?」
「いえいえ、私はただの一般人です」
そうしては次第に彼らと打ち解けていった。
「あ、そろそろ戻らないと。仲間がきっと心配してます」
太陽が低くなってきたのでは町に戻る事にする。
「気をつけてな」
「はい。皆さんもお元気で」
そう言い、一礼すると馬車から降りる。
「あ…」
すると町の入り口付近でレジェンスたちがキョロキョロしているのが見えた。
「あ、やっぱり心配かけたみたいです。そうだ、何かお礼させてください。
一緒に食事でもどうですか?ちょっと呼んできますね」
はレジェンスたちの所へ戻り、事情を説明して馬車まで連れていく。
しかし――
「…お前はっ…!?」
「…まさか…!?」
顔を合わせた途端、レジェンスと褐色の肌の少年は驚愕する。
「何故、バーン国の王であるカルトス殿がここに?」
(え…?バーン国の王って言った!?)
は目が飛び出そうな程、驚いた。
「知れた事。宝玉を手に入れる為だ」
「では、そちらもすでに4つ、集めているのだな」
「そうだ」
一触即発とはこの事である。
は今にも戦いが始まりそうなので不安な表情で2人を見つめた。
(どうして?どうして戦うの?バーン国の人たち、いい人ばかりだった。争う理由なんて…)
「明日の正午、ラスティア山の頂上で決闘だ」
「わかった」
彼女の気持ちをよそに、彼らは確実に戦いへと進み始める。
「待ってよ!! 何で戦わなきゃならないの!?」
は2人の間に入った。
「宝玉を我らの手に入れなければ、この大陸は救われないのだ」
「バーン国だって、その願いは同じはずよ!」
「こいつらは自分の国しか眼中にないんだよ!」
ククルがの腕を掴む。
「そんな事ない!さっき私、話してわかった。皆、いい人だって。
この大陸を大切に思う気持ちは彼らも持ってる!! なのにどうして…」
悲しさと悔しさで涙が溢れ出した。
どうにかして戦いを止めたいが、もうこれ以上言葉が出てこない。
「…貴女はお優しいのですね」
バーン国の眼鏡をかけた少年は悲しげに微笑み、髪の長い青年が静かに口を開いた。
「――だが、昔からバーン国とアーク国は争い続けてきた。これからも同じだ」
「…そう、何かを得る為には相応の代価や代償が必要なんだよ」
悲しい表情でランが言う。
「それが人の命だって言うの!? 強引に奪い合って手に入れた血まみれの宝玉で、
明るい未来なんか作れるわけないじゃない!!」
そう叫ぶと、は走って町に戻っていった。
「…彼女の言う事はもっともですが…」
「…急には変わらない」
彼女の背中を見送るシャルトリューや片目の青年も苦悩の表情を浮かべている。
「…やはり戦うしかないのだ」
「…そうだな」
そうして、バーン国の者たちは立ち去った。
その後、レジェンスたちも馬車を借り、関所を越え、ラスティア山の麓にある町へと向かった。
その間、はずっと黙っていた。
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