「シャルトリューさん、どこ?」

は辺りを見回し町の中を歩き回る。

(シャルトリューさんの事だから静かな所にいるかも)

そう思い、町の様子が見渡せる高台の所へ向かった。

「…シャルトリューさん…、いないや」

祭りの音楽も人の声も遠くに聞こえるその場所はとても静かで違う世界にいるようだった。
しかしそこにもシャルトリューはいない。

「もうユーリさんの家に戻ったのかな…」

(一緒に歩いたりお店見たりしたかったなぁ)

は明るい町を見下ろす。
その時、一番聞きたい人の声が聞こえた。

「…!?」
「シャルトリューさ――

振り返る間もなくは後ろからシャルトリューに抱きしめられる。

「…よかった。急にいなくなってしまったので心配しました」
「すみません…」

心配をさせて申し訳ないという気持ちとシャルトリューが心配してくれた事が嬉しいという気持ち、
そして今の状況が恥ずかしいという気持ちが心の中で混ざり合う。

「…貴女が消えてしまったかと思いました。そんな事はないと思いながらも私はとても恐ろしくて…。
 前に一度、貴女が透き通るのを見ていますから…可能性は無きにしも非ずと思って。
 そんな思いを断ち切る為に町中を走り回りました」


(…私の…為に…?やばい、泣きそう…)

「…ありがとう…ございます」

涙をこらえて一言礼を言うのがやっとだった。

「約束してください。急に私の前から消えないと」

静かだが真剣な声で彼が言う。

「…もう嫌なのです。大切な人を失うのは…!」

悲しげにそう言うと、シャルトリューはを抱く手に力を込めた。

「…もしかしてシャルトリューさん……?」
「…私は一昨年、婚約者を病で亡くしました。私が仕事でバーン国に行っている間に彼女は謎の病を発病し、
 私が知らせを聞いて戻って来た時には彼女は既に息を引き取っていました」
「…」

彼の身体が微かに震えている。

(きっと、今でもつらいんだ)

「私は彼女に何もしてあげる事ができなかった。
 どんなに魔力があっても、必要な時に癒してあげられない魔法など何の意味がありましょう。
 私は彼女の最期にすら間に合わなかった。こんな私を彼女が許すはずがない…」
「そんな!! …そんな事、ないです」

はシャルトリューの手を払い、彼と対面する。

「…確かに婚約者さんは最期にシャルトリューさんに逢いたかったかもしれない。
 でも、間に合わなかった事に対して怒るなんて絶対にないです。
 だって…その人はシャルトリューさんを愛していたんでしょう?」

の目から涙が溢れる。
さっきこらえた涙とは違う涙が彼女の頬を濡らした。

…。貴女は…、私の為に涙を流しているのですか」

シャルトリューがの涙を拭う。
彼の目にも涙が溢れていた。

「愛しい人は最期まで愛しいんです。
 誰もが最期に願う事は怒りとか恨みとか、そういう思いなんて全部どこかに吹っ飛んで
 ふっと思いつくのは愛する人の幸福なんじゃないですか?私は…そう思います」

(…そう思いたい。
 きっと婚約者さんは幸せを目の前にして病に倒れた事にとても失望しただろう。
 もしかしたら傍にいなかったシャルトリューさんを一瞬でも恨んだかもしれない。
 でも…。きっと彼女はシャルトリューさんに会えてよかったと、
 彼に愛されて幸せだったと思ったんじゃないのかな。
 そして、自分の分も彼に幸せになってもらいたいと願ったんじゃないのかな)

「私も…シャルトリューさんには幸せになって欲しい」
…、ありがとう。…少し胸が軽くなりました」

シャルトリューは微笑んだ。

「私、もう急にいなくなったりしませんから」
「…はい」

そうして彼は再びを優しく抱きしめた。





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